世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) より多くの繋がりを、広い地域へ

国際交流基金サンパウロ日本文化センター
福島青史・中島永倫子・吉岡千里・野村ゆみ子

2015年度より国際交流基金サンパウロ日本文化センター(以下FJSP)には、日本からの派遣専門家が4人います。うち二人は2015年にできた新しいポストで働いています。ここでは新しくできたポストから順番に、それぞれの業務の紹介をしたいと思います。

一人目:野村ゆみ子(ブラジル高等教育機関担当専門家)

2015年11月より、ブラジルにおける高等教育機関(大学)に対する支援業務を行っています。

2016年の4月よりブラジルの五つの連邦大学で新たな日本語コースが開講されることになりました。ブラジリア大学、リオデジャネイロ連邦大学、パラナ連邦大学、アマゾナス連邦大学、リオグランデドスール連邦大学の五大学です。(図参照)

新たに日本語講座が開かれた5連邦大学の位置を示した地図の画像
新たに日本語講座が開かれた5連邦大学

この新たに始められた日本語講座は、日本への留学を希望する理工科系の学生・大学院生を主な対象としたものです。教科書は国際交流基金が開発した『まるごと(日本のことばと文化)』(以下『まるごと』)の入門・活動編を使っています。

日本への留学を希望する学生に対して、日本に行った時に困らない程度のごく日常的な日本語の習得という、既存の日本語コースよりもより会話や文化情報を重視したコースということで学生の集まりもよく、現在各大学とも順調に行われています。このコースを教えているのは、各大学の日本語学科専攻の学生で、国際交流基金の教師研修や専門家の事前研修を経て教壇に立っています。自らが学ぶ立場から教える立場になった学生たちにとって、良い教師とは?良い学生とは?と、再考できる良い機会ともなっているようにも感じます。今後は、ブラジル側の景気の好転により、より多くの留学生をブラジルの給費金で送り出せるようになることが期待されています。

アマゾナス連邦大学のあるマナウス市(アマゾナス州)までは、サンパウロ市から飛行機で約4時間、国土の広さにも驚きますが、南部のリオグランデドスール連邦大学やパラナ連邦大学のある地方では、ダウンコートが必要なほど寒くなることを知り、南国ブラジルのイメージとのギャップにも驚きながら活動しています。

二人目:吉岡千里(南米アドバイザー)

ボリビアのサンタクルス日本語普及学校で日本語を勉強する子どもたちの画像
ボリビアのサンタクルス日本語普及学校で日本語を勉強する子どもたち

日本の反対側にある南米の国々のうち、ブラジル以外の、アルゼンチン、ウルグアイ、エクアドル、コロンビア、チリ、パラグアイ、ベネズエラ、ペルー、ボリビア(五十音順)の9か国を担当しているのが「南米アドバイザー」です。この南米アドバイザーの活動はまだ始まったばかりで、2016年前半は各国の日本語教育の現状やニーズ、今後どんなことができるかを探るために、9か国を周り各国の日本語教育関係者に聞き取り調査をしてきました。この9か国は、「南米」、「スペイン語圏」という共通項もありますが、国によっては日本語教育の沿革が違うためまったく事情の異なるところもあります。今後は、今回の調査で得られた情報を元に、各国の状況に合った支援を考えつつ、人と人、機関と機関、地域と地域、国と国をつなぎ、南米の日本語教育を盛り上げていきたいと思います。

三人目:中島永倫子(JF講座担当専門家)

FJSPの日本語講座(JF講座)は今年で開講4年目を迎えました。当初は『まるごと』入門(A1)活動から講座を展開し、現在は中級(B1)に達しています。その間、のべ437人の学習者がサンパウロのJF講座で学んできました。また2015年度より、ブラジル最大の日本語教育機関の日伯文化連盟(ACBJ)と協力し『まるごと』教材を使用した日本語講座の普及にも努めています。

この1年のJF講座での新しい試みは、FJSPの特色を活かした文化日本語講座の実施です。今学期より、文化日本語講座を学期中に2回それぞれ「文化芸術体験」「異文化理解交流」を開催しました。「文化芸術体験」はFJSPの文化担当とコラボレートして、日本から招聘した日本を代表する芸術家との交流もしくは芸術品に触れる会、「異文化理解交流」は、日本人とブラジル人が互いに自国の文化を紹介し合う交流会です。3月に実施した「文化芸術体験」では「百鬼ゆめひな」の飯田美千香さんと学習者が交流会を持ち、人形劇の世界について教えて頂いた後、彼女の舞台を観劇させていただきました。また5月に実施した「異文化理解交流」では日本語を学習しているブラジル人とポルトガル語を学習している日本人が集い、それぞれ自分の文化について(今回のテーマは観光地)学習している言語で発表して頂きました。そして、最後の茶話会では日本語とポルトガル語を駆使して学習者達が交流する時間を設けました。昨年の報告にもあったように、ブラジル特にサンパウロには日系人が多く日本文化を体験できるイベントが日常的にあります。そのような中いわゆる文化体験とは違った文化日本語講座を今後も展開していきたいと考えています。

四人目:福島青史(日本語上級専門家)

このポストは一番古くからあり教師研修や各種イベントの企画・実施を行っています。上記専門家と異なり「〇〇担当」という名前もつかず、要するにその他いろいろをする仕事です。また、上記のとおりFJSPでは、派遣専門家が4人になり、さらに専任講師が3人いるため7人の仕事が有機的に進むように取りまとめなどもしています。実は、このレポートも福島がまとめているのですが、すでに字数制限を超えてしまったので、このあたりで失礼したいと思います(全然、まとめになってない・・・)。リオデジャネイロオリンピック・パラリンピックを控えるブラジルからレポートでした。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
The Japan Foundation, Sao Paulo
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
ブラジルの日本語教育の質的向上と、学習者のすそ野拡大を図るべく、教師研修、カリキュラム・教材作成、学習奨励事業(スピーチコンテスト、中高生対象の日本語キャンプ、大学生対象の日本語研修)などを実施している。2012年度から日本語講座(JF講座)を開始し、現在は『まるごと 日本のことばと文化』の初級1、初級2、初中級、中級までのレベルを開講している。2015年度には「南米アドバイザー」「ブラジル高等教育機関担当専門家」が派遣され、支援対象、支援地域を拡大した。
所在地 Av. Paulista 37, 2o. andar, CEP01311-902, Sao Paulo, SP
国際交流基金からの派遣者数 上級専門家:1名、専門家:3名
国際交流基金からの派遣開始年 1994年
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