世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)より広く、幅広い学習者層への支援が始まって3年目

国際交流基金サンパウロ日本文化センター
久野元・中島永倫子・野村ゆみ子・吉岡千里

今後の抱負(久野 元)

サンパウロ日本文化センター(以下、FJSP)には4人の専門家がいます。私は前任者との交代で1か月前(この原稿執筆は4月に書いています)に着任したばかりですので、今後の抱負を書きたいと思います。

私の仕事のひとつに、教師研修があります。FJSPが主催する研修は、参加者のニーズを考えて授業内容を決めることができるのですが、出講依頼を受けたものについては、そこに参加する人が抱えている問題をうまく把握できないまま、研修主催者(機関)が指定するテーマや時間内に沿って講義やワークショップなどをすることになります。そこで、今後は、研修主催者の許可が得られれば、研修企画の段階にも関わりたいと考えています。

次の項からは、今年で任期最後となる専門家3名からのレポートです。それぞれが任期中にしてきた支援の成果が書かれています。私も任期の最後によい報告ができるよう、これからの支援についてよく考え、実践してきたいと思います。

様々な機関との連携(中島永倫子)

世界最大の日系人居住地であるサンパウロには、日本語学校や日本関連機関が数多くあります。そのような環境の下、さまざまな機関と協力して日本語学習の支援をしています。

ジャパン・ハウス‐学習者支援

キュレーターが学生たちに展示内容を説明する写真

2017年4月、サンパウロに「日本の多様な魅力を発信する拠点」としてジャパン・ハウスがオープンしました。以降ジャパン・ハウスの協力も得て、文化日本語講座を実施しています。2017年秋にはジャパン・ハウスで開催されていた『里山』展をJF講座の学生と共に訪れ、学生のためにキュレーターに展示内容を説明して頂き、その後ディスカッションのセッションを持ちました。素朴な食材を芸術的に昇華した日本独特な食文化の展示を通して、ブラジルとは違った価値観に触れることができ、異文化および自文化の理解を深める機会となりました。

日伯文化連盟‐教師支援

教師研修を実施している様子

サンパウロの語学学習機関の日伯文化連盟には1500人を超える日本語学習者がいます。ここでは2015年より『まるごと』教材を導入し、半年に1度、新学期が始まる前に教師研修を実施しています。2017年度は『まるごと』指導歴が長い5人の教師がリーダーとなって研修を企画し、彼らの経験や知識を共有しながら互いに学びあえる教師研修となりました。今後もこのような循環型の研修が継続するよう支援したいと思います。

高等教育機関支援―「国境なき言語」の学生チューターの育成について(野村ゆみ子)

ブラジル教育省が進めている「国境なき言語」プロジェクトの日本語講座は現在ブラジルの5連邦大学(ブラジリア大学・リオデジャネイ連邦大学・パラナ連邦大学・リオグランデドスル連邦大学・アマゾナス連邦大学)と1州立大学(パウリスタ州立大学・アシス校)で開講されています。この講座は当初、日本へ留学を希望する理工科系の学生を対象にしたものでしたが、現在は「ブラジルの高等教育の充実のための言語教育」を目標に専攻を限ることなく公開されています。各大学で講座を担当するのは日本語専攻の学生で「学生チューター」と呼ばれています。学生であるとはいえ、教壇に立つ先生であることから、FJSPは学生チューターの育成に力を入れる支援を行っています。2018年2月、22名の学生チューターをサンパウロに招聘し「国境なき言語 学生チューターサンパウロ研修会」を開催しました。この研修は、2016年から4学期間チューターをした学生、2017年後期に初めてチューターを経験した学生、2018年前期から新たにチューターをする学生など、先輩と後輩が協同する中で進められ、チューター間の情報交換、共同学習による成果を生むことができました。卒業を迎えたため今回の研修を最後に、日本語学校などで先生として教壇に立つという学生もいて、学生チューターとしての成長は、今後のブラジルの日本語教育の推進の為にも大いに意義のあることだと実感しています。

研修会の開講式の写真 詳細は以下
研修会の開講式風景
5連邦大学、1州立大学の「国境なき言語」日本語講座の学生チューター22名

南米アドバイザーの活動(吉岡千里)

南米アドバイザーの活動は2015年に始まりました。そして、第一フェーズ(調査)の集大成として、2017年に「南米スペイン語圏日本語教育実態調査報告書2017」が完成しました。

南米スペイン語圏日本語教育実態調査報告書2017の表紙写真

2016年の訪問調査では9か国10地域にうかがい、約40機関140人の方にご協力をいただきました。また、調査だけではなく本報告書作成過程においても、各国の日本語教育関係者の方にチェックやフィードバックをお願いしました。つまり、南米スペイン語圏の日本語教育に関わる皆さんの協力があって、この報告書ができあがっています。

報告書は大きく2つのパートに分かれていて、第一部では南米スペイン語圏9か国全体の日本語教育を概観しています。第二部では各国の現状および行動計画を記述しています。少し普通の報告書と違うのが、「行動計画」という部分があることです。 行動計画の計画期間は2017年4月~2022年3月の5年間です。すでに1年が過ぎているので、残すところあと4年です。計画を一歩ずつ確実に実施し、各国の日本語教育関係者の皆さんととともに、南米スペイン語圏の日本語教育を盛り上げるべく、今後も全力で活動に取り組んでいきたいと思います。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
The Japan Foundation, Sao Paulo
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
日本語教育の質的向上を図るべく、初等教育教師勉強会、中等教育教師研修、大学日本語チューター育成を行っている。また、他の団体や教育機関が主催する研修会への出講を通して、ブラジルの日本語学習者の大半を抱えている日本語学校に対しても支援をしている。加えて、南米アドバイザーは南米スペイン語圏の国々における日本語教育の現状調査と、教師研修による支援を行っている。
所在地 Av. Paulista 52, 3o. andar, CEP01310-900, Sao Paulo, SP
国際交流基金からの派遣者数 上級専門家:1名
専門家:3名
国際交流基金からの派遣開始年 1994年
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