世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) フランス国セーブル高校及びカミユ・クローデル高校での授業

セーブル高校/カミュ・クローデル高校
酒井理恵

地方にも盛んな日本語教育

フランスに派遣されているのは青年教師2名であり、いずれも中等教育機関への派遣である。筆者はパリ近郊にある2つの高校に配属されており、週3時間の授業のうち、各クラス週1回1時間の授業を担当している。授業では主に音声表現をすることを目標におき、フランス人教師が導入した既習項目を使っての自己表現や、テキストを読んでそれについての質問に答えるという活動を行っている。その他フランス人の高校生が日本語を始める主な動機である「日本文化」や「日本のマンガ、歌、アニメーション」への興味も満足させるため、1年に1~2回折り紙や日本の歌などの紹介も行っている。

 授業を行う中で直面する困難については次のようなものが挙げられる。

 一つ目は生徒を授業に集中させることである。高校で教える場合、日本語教師として日本語を教えるということよりも、しばしば高校教師としての面を強く意識する場面がある。特に1年生は入学してきてから半年ほどは授業中の私語が絶えず、日本語の授業をしているというよりは授業に集中させることやノートに必要事項を書くことを指導するといったことに時間とエネルギーを割かなければならない。

 二つ目はフランス人の学習パターンに起因するものである。フランス人の勉強のしかたはまず全体を見てから個別事項に入るというパターンなので、フランス語や彼らが今まで勉強してきたヨーロッパの言葉とは全く違った構造を持つ日本語の文法に細かい説明を求められ、フランス人教師の手を煩わすこともある。

 教えていて苦労するのは以上のような点だが、それでも時間が経ってくるにつれ、私語が消え、何も言わなくても板書したものをノートに写すようになり、細かい説明を求めるより、習った文型や単語を使って日本語で言いたいことを言おうと一生懸命になっている様子を見ていると、彼らが成長して行くところに立ち合わせてもらっているという感慨のようなものが沸きあがってくる。学年が上がってくると表現できることも増え、ちょっとした拍子に日本語で会話ができるのが嬉しい。たまに教師の個人的なことに触れるような質問になると、とたんにいつもの何倍もの質問が積極的に出てくる。やはり何かについて情報を得たいという具体的な目標があれば、習ったことを駆使してなんとか目的を達成しようとするものである。これは彼らにとってはほとんどないといってもいい生きたコミュニケーションの場面の一つであるから、このようなときはもっと質問を引き出せるよう情報を小出しにして会話を楽しむようにしている。

 最後に筆者が目標においていることを記し、本稿を終えたい。

 フランスの高校では、日本のマンガやアニメーションに興味がある、または日本文化に興味があるという動機で始める学習者が多い。実際日本語や日本に触れる機会は生活上ほとんどなく、日本語がわからなくても自分にとって不利益になることもなく、日本語を使って何かをするという具体的な目標がある学習者もまれである。青年教師の役割は彼らにとっての具体的な「日本」として、日本語でコミュニケーションをとり、日本を紹介し、彼らの日本や日本語に対する情熱を失わせないように、またはそれを更に引き出すようにすることだと思っている。

 また、どの段階でもある程度言えることであろうが、特に高校生で、確固たる目的もなく学習をする場合には、やる気を引き出し、学習欲を継続させることも重要な教師のつとめであろう。週1回の授業なので1時間で完結するような授業を行っているが、毎回授業中に「自分の言いたいことが言える」、「新しい文型を理解する」、「日本語を使って活動をする」、「活用や単語、表現を覚える」などの小さな目標を作り、達成感を味わわせることが大切になってくる。

 その他、毎回学習者に「この先生の授業に来るのが楽しみ」と思ってもらえるような授業にすることを心がけている。授業のやり方などの技術的な面は日本語教師として最低限必要なことであるが、1人の人間として見たときに魅力ある人にならなければ、ということをいつも忘れないようにしている。そして1人の人間として、ということを考える一方、肩に力を入れるわけではないが、彼らが接するほとんど唯一の日本人として、日本のイメージを損ねないことも重要だと考える。

 繰り返しになるが、彼らの日本に対する興味や情熱をなくさせず、それをさらに深くすることができるように頑張っていきたい。

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
  及び業務内容
 フランスで日本語が履修できる高校は非常に限られており、生徒の中には日本語を勉強するために遠方から通っている生徒もいる。セブール高校では、日本語は第3外国語としての選択科目として教えられている。選択科目は必修科目と随意科目に別れていて、どちらかを選択する。学習時間は3年間を通して週3時間である。カミユ・クローデル高校は、第2外国語または第3外国語として履修することができる。学習時間は第三外国語の1年生が2.5時間のほかは週3時間である。
ロ.派遣先機関名称 (a)セーブル高校
(b)カミユ・クローデル高校
ハ.所在地 (a)21,rue du Dr. Ledermann 92310 Sevres France
(b)bd.de l Oise 95490 Vaureal
ニ.国際交流基金派遣者数 専門家:1名
ホ.日本語講座の所属学部、
  学科名称
 
ヘ.日本語講座の概要
(イ)沿革
(1)講座(業務)開始年   (a)1973年
(b)1991年
(2)専門家・青年教師派遣開始年 (a)1994年
(b)2000年
(ロ)コース種別
(ハ)現地教授スタッフ
(a)(b)常勤1名(うち邦人0名)
(ニ)学生の履修状況
(1) 履修者の内訳   (a)43名
(b)82名
(2) 学習の主な動機 (a)(b)日本への興味(マンガ、音楽、文化)
(3) 卒業後の主な進路 (a)(b)高等教育機関へ進学
(4) 卒業時の平均的な
日本語能力レベル
(a)(b)日本語能力試験4級程度
(5) 日本への留学人数 ほとんどなし

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