世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) フランス中等教育機関で日本語を教える

セーブル高校/カミュ・クローデル高校
酒井理恵

1.フランスにおける青年日本語教師

 フランスの中等教育機関に青年教師が派遣されるようになってから約10年、フランスに毎期2名ずつ派遣されてきた青年教師は、パリ及びその郊外にある高校を2校ずつ受け持ち、日本語の授業を担当している。

2.筆者の勤務の様子

2年生の写真
2年生

 私も歴代の青年教師と同じように2校を担当しているが、日本語はそのうちの1校、セーブル高校では第3外国語(高校1年次から開始)として、もう1校のカミユ・クローデル高校では第2外国語(4年制中学の3年次から開始)、第3外国語として学ばれている。授業時間は週2,5時間から3時間であるが青年教師は1人で1つのクラスを受け持つという形ではなく、高校1年生から3年生までのすべてのクラスに1週間または2週間に1時間ずつ入り、主に会話や作文などを担当している。

 日本語を始める生徒の動機は、フランスでも人気のマンガに興味を持って、あるいは親の意向でなど様々である。日本語は高校で学習するたくさんの科目のうちの一つに過ぎず、しかも選択の仕方によっては高校卒業資格試験(バカロレア)での配点も低いので、家での学習が後回しになることが多く、先週やったことも覚えていないという事態がよく発生する。しかし日本語に魅せられ自分でどんどん勉強を進める生徒がいることも事実で、驚くほどの進歩を遂げる者や、大学で日本語を続ける生徒も毎年見られる。私も赴任して1年目は同じことを何度も何度も復習し、習ったという事実すら頭から抜けている生徒を目の前に、一体自分のしていることは何なのだろうと力が抜けそうになることもあったが、それは私の方が頭が硬かったのだろう。今では毎回の授業中に生徒が日本語で意志疎通を図れ、言いたいことが言えればそれでいいと考えるようになった。

 同僚のフランス人教師がよく言っていることであるが、中等教育における日本語の学習の目標は専門家を育てることではない。地理的にも心理的にも遠い「未知の国」日本について知り、その言葉を学習することそれ自体で生徒たちにとっては一つのいい経験であり、多感な時期に自分たちの言葉、あるいは彼らが身近に接するヨーロッパの言葉と文字も文法構造も全く異なる日本語、そして日本文化に触れることは非常に大きな意味を持つと思う。学年末にはおりがみや習字をすることもあるが、ほとんどの生徒にとってはそれも初めての体験である。折り鶴を折ったとき、最後に羽を両側に開いて現れた鶴を見たときの彼らの驚きの顔、当て字をして自分の名前が漢字で書けると知り、真剣に半紙に向かう様子。また普段の授業中に断りの表現を学んだとき、はっきり言わないでできない理由などを言うことが断りのサインと知って「ああ、ちょっと。。。」のイントネーションを教師そっくりに真似てみる生徒。この中から日本語の学習を続け、専門家になる生徒は極一部、あるいは年によっては全くいないかもしれない。青年教師が生徒と顔を合わせるのは一週間に一度、しかも休みの多いフランスのことだから3年の派遣期間全部をいっしょに過ごした生徒でも共有した時間は人生のほんの少しの期間。しかし時間が経ってから彼らが「本物の日本人」と日本語を一緒に勉強したことを忘れずに時折思い出してくれたら。それだけでも私がここに来た意味があるのかもしれない。

3.フランスにおけるこれからの日本語教育の課題

 日本語が学ばれている高校はフランス全土にあるが、ほとんどが特殊な学校ではなく一般の公立高校であり、どの外国語の授業を開講するかは各学校の校長先生の裁量による。地域に日本語を学習できる学校がないが日本語を勉強したいと願う生徒には通信教育による道が開かれており、毎年この形を取って受講する生徒がいるが、残念ながら来年度からはこの方法はなくなるようだ。そのため日本語を勉強したいという生徒のニーズにこたえるためにも、今後中等教育機関における日本語教育を盛んにするためにも、各学校の校長先生に日本語の魅力を直に訴えることが大切になってくる。

 また最近フランスでは中等教育機関と高等教育機関の連携を強めようという動きが出てきている。お互いにどんな教育がなされているのかもよく知らず、中等教育機関で5年、または3年日本語を学習した生徒も高等教育機関に行けばまたひらがらから初心者に混じっての授業だったのが、ここ最近既習者を集めて別グループを作る動きも出てきている。縁あって中等教育機関で日本語を始めた学習者が高等教育機関においてスムーズに学習を続けられるようこれから更なる交流が期待される。

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
  及び業務内容
 フランスで日本語が履修できる高校は非常に限られており、生徒の中には日本語を勉強するために遠方から通っている生徒もいる。セブール高校では、日本語は第3外国語としての選択科目として教えられている。選択科目は必修科目と随意科目に別れていて、どちらかを選択する。学習時間は3年間を通して週3時間である。カミユ・クローデル高校は、第2外国語または第3外国語として履修することができる。学習時間は第三外国語の1年生が2.5時間のほかは週3時間である。
ロ.派遣先機関名称 (a)セーブル高校
(b)カミユ・クローデル高校
ハ.所在地 (a)21,rue du Dr. Ledermann 92310 Sevres France
(b)bd.de l Oise 95490 Vaureal
ニ.国際交流基金派遣者数 専門家:1名
ホ.日本語講座の所属学部、
  学科名称
 
ヘ.日本語講座の概要
(イ)沿革
(1)講座(業務)開始年   (a)1973年
(b)1991年
(2)専門家・青年教師派遣開始年 (a)1994年
(b)2000年
(ロ)コース種別
(ハ)現地教授スタッフ
(a)(b)常勤1名(うち邦人0名)
(ニ)学生の履修状況
(1) 履修者の内訳   (a)43名
(b)82名
(2) 学習の主な動機 (a)(b)日本への興味(マンガ、音楽、文化)
(3) 卒業後の主な進路 (a)(b)高等教育機関へ進学
(4) 卒業時の平均的な
日本語能力レベル
(a)(b)日本語能力試験4級程度
(5) 日本への留学人数 ほとんどなし

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