世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) 広がるMCJP日本語事業

国際交流基金パリ日本文化会館
近藤裕美子

 パリ日本文化会館(以下MCJP)で本格的な日本語教育支援がスタートして5年。MCJPの日本語事業も少しずつ軌道に乗り始めてきました。また、それにつれて新しい事業が次々と生まれています。今回は、2009-2010年度にスタートした新しい事業4つをご紹介したいと思います。

中級日本語講座:JF日本語教育スタンダード講座

毎授業の自己評価表の写真
「今日の目標」:中級日本語講座
毎授業の自己評価表

 2009年秋から新しい中級講座が始まりました。前後期あわせて24回、学習時間36時間の一般社会人を対象とした講座で、CEFR (※1)のB1レベル(※2) を目指したコースデザインをしています。この講座では、講座全体だけでなく、各授業の目標をCan-do記述で設定したり、ポートフォリオ評価を取り入れたりするなどの工夫をしています。新しい試みなので、教師にとってもそして学習者にとっても始めてのことが多く、最初は戸惑ったり予想していたようにはうまくいかなったりすることもありましたが、最近は少しずつこの進め方にみんなが慣れてきたようです。CEFR、JF日本語教育スタンダードをどのように日本語講座の中で活用していくか、まだまだ試行錯誤の段階ですが、学習者と一緒に作っていきたいと思います。また、この講座の試みを少しずつ積み重ねて、将来的には他の機関の日本語講座にも何か参考になるものを提供できることを期待しています。

日本語出張アトリエ

村中日本語指導助手の写真
高校生向けのアトリエで説明する
村中日本語指導助手

 これまでMCJPでは、日本語普及活動のひとつとして、日本語未習者に対して日本語に触れ、興味を持ってもらうことを目的とした日本語入門講座を実施して来ました。2009-2010年度からは、フランス各地にある初等・中等教育機関で、日本語を教えていない学校を訪問し、日本語出張アトリエをするという事業も始めました。訪問先を探すための広報を開始した当初はそのようなニーズがあるのだろうかと心配していましたが、それは杞憂に終わり、訪問を希望する多くの声が届いています。またパリ市内や近郊の学校にはMCJPを訪問し、日本語アトリエとあわせて施設見学やMCJPで実施しているイベントを体験してもらうような提案もしています。たった1回、しかも短時間のアトリエですが、子どもたちにとっての初めての日本語との接触が新しい発見や楽しい思い出となり、その後日本語学習への興味へといつかつながってくれればと願っています。

中等教育機関日本語教師研修

 フランスの日本語教育は歴史的に見て高等教育機関を中心に発展してきましたが、近年は若年層でも日本語の人気は高まっています。それは当然中等教育機関における日本語教育への積極的な支援の必要性へとつながっています。そこで、MCJPでは2009年10月に中等教育機関で日本語教育に従事する教師を対象として研修会を開催しました。中等教育に特化した研修とういのは初めての試みです。フランスの中等教育機関での第2外国語としての日本語の指導要領を作成した先生方を講師に、ワークショップや教材紹介のセッション、ディスカッションが行われました。半日間という短い時間でしたが、フランス国内の中等教育に携わる日本語教師が今後の課題を共有するきっかけとなったようです。

地方研修

 2010年3月にフランス西部のナント市で地域の日本語教師を集めた研修会が開催されました。この地域で教師研修会が開催されたのは初めてで、当日参加された14名の日本語教師の方々にとっては、日々の教育実践を振り返る場であるとともに、近くに住む日本語教師仲間との関係作りの場にもなったようです。

 これまでMCJPでは秋期、冬期、春期にテーマを変えて日本語教師研修を行ってきましたが、それではパリ市内・パリ近郊在住の教師の方々への支援に限られてしまいます。日本の約1.5倍の国土を持つフランス国内各地では、延べ約500人の方が日本語教育に携わっており(※3) 、地方で孤軍奮闘されている教師へのサポートも大切です。今後はパリでの教師研修に参加できない地方在住の方々のためにも、こちらから出向いて研修を行う必要があることを改めて感じました。

 このようにMCJPの日本語事業は少しずつ拡充しています。それでも広いフランスで、様々なニーズをもつ日本語学習者やそれを支える日本語教育関係者を支援していくためには、やるべきことは山積みです。今後も学習者や日本語教育関係者のニーズに合わせて、試行錯誤しながらフランスの日本語教育を向上・発展させるためのお手伝いを進めていきたいと思います。

  1. ※1 Common European Framework of Reference for Languages: Learning, teaching, assessment
  2. ※2 CEFRのレベルの説明は「JF日本語教育スタンダード2010」に詳しい。
  3. ※3 国際交流基金HP日本語教育国別情報「フランス」より
派遣先機関の情報
派遣先機関名称
The Japan Cultural Institute in Paris
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
パリ日本文化会館は、1997年設立以来、フランスおよび欧州における日本文化の発信基地として幅広い文化活動を行っているが、フランス国内の日本語教育支援をより積極的に展開するため、2005年より日本語教育事業が本格的にスタートした。現在は、研修会や教師相談などの教師支援、スピーチコンテストや日本語能力試験などの学習者支援、日本語デモンストレーションなどの日本語普及事業、日本語教育に関する情報提供、当地の教育状況の情報収集などを行っている。
所在地 101 bis, quai Branly 75740 Paris Cedex 15, France
国際交流基金派遣者数 上級専門家:1名、指導助手:1名
アドバイザー派遣開始年 2005年

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