世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) 「ことばと文化の接点をめざして」 ―フランス人が関心を示す日本語・日本文化の鍵とは―

国際交流基金パリ日本文化会館
中島 透

 パリ日本文化会館(以下、MCJP)は1997年に開館し、2006年より日本語上級専門家(以下、専門家)が派遣され筆者で通算3代目となる。赴任して5ヶ月が経過した。これまでに扱ってきた業務の中からいくつか紹介したい。

エキスポラングにおけるMCJPのブースの写真
2011年2月
エキスポラングにおけるMCJPのブース

 はじめにフランスの日本語教育事情を復習しておくと、まず特徴的なことは学習機関や学習者の過半数が高等教育レベルに集中していることである。ここでは日本の姉妹校や提携校との交換留学制度を利用した人的交流も盛んである。また教師間ネットワークも構築されて久しい。1997年、フランス日本語教師会(会員数2011年150名強)が設立され、フランスのみならず、ヨーロッパ規模で活発な活動を行っている。こうした教師会との協力事業もMCJPの大切な役割の一つである。またMCJPは、中等教育機関で教える教師との協力および支援にも力を注いでいる。異文化理解教育の一環として、日本文化紹介・日本語学習体験を目的とした授業実施の要望がこのレベルでは増えている。こうした要望を受けてMCJPでは情報収集、情報発信(例 イベントごとの資料配布やサイト)、学校訪問、教師研修等、幅広い活動を行っている。2月のエキスポラング(MCJPのブースには4日間で700人以上の訪問あり)、3月の全仏日本語スピーチコンテストもMCJPにとって大きなイベントであった。また日本語に関するセミナーの開催にあたって他国の専門家に出講依頼することもある。国際交流基金の人的資源は国境を越えて共有されている。

Ⅰ.日本語講座

Ⅰ.1 CEFR(※1)のB1レベルを目指した講座(2009年秋から開講中)

 ある1つのテーマについて学びながら日本語運用力をアップさせるための講座。コース全体の目標にはフランス語版のELP(※2)を、各回の授業目標にCEFRまたはJF日本語教育スタンダードを参考に作成したCan-doを使用。オリジナルのポートフォリオを利用。3学期制の年間講座、実質学習時間は約26時間。
 特にポートフォリオは自律学習を目指すためのものであり、これまでに自己評価、自己の学習方法・進度の意識化を促進させてきた。参加者はビジネスマンと学生(企業研修中)が混在、いずれも社会経験がある成人学習者が多い。トピックは健康、観光、日本の住居など身の回りのことから抽象的な概念のテーマを扱っている。

Ⅰ.2 CEFRのB2-C1レベルの学習者を対象とした日本語・日本文化関連講座

上級文化講座における日本人へのインタビューシーンの写真
2011年5月
上級文化講座における日本人へのインタビューシーン

 日本文化、日本社会を同時に学ぶコース。その他、MCJP事業(映画、展示、コンサート等)に関連づけ、トピックに基づく2回~5回の短期講座を実施。対象レベルは上級者(B2~C1)。シラバスはJF日本語教育スタンダードを参考にし、Can-doをつくる。自作教材。週1回 2時間×3~5回。
 過去の実績例としては「歌を使って学ぶ日本語」「俳句と言葉遊び」「ポップカルチャー」などを扱っている。筆者が着任してから俳句、ポップカルチャー(高度経済成長とアニメ作品)を扱った。後者に関して今期のコースでは1960年代の高度経済成長期に誕生したアニメを通して、当時の日本人の価値観や生きざまを現代と比較しながら浮き彫りにする授業を行った。授業では当時を知る日本人にインタビューを行い、後日それをグループで発表した。

Ⅱ. 機関訪問・地方研修出講

 筆者は2011年5月には4つの大学や高等教育機関の日本語教育機関訪問を行った。そのひとつ、今年で日本語科開設20周年を迎えるボルドー第三大学を紹介したい。ここはパリからTGVで約3時間の場所に位置するが、学部から大学院まで含めて700人以上の日本語学習者を抱える国内でも有数の高等教育機関である。さる5月13日14日に行われた第12回フランス日本語教育シンポジウム(フランス日本語教師会主催)では世界中から77人の参加関係者がキャンパスに集まり2日間にわたって講演、ワークショップ、口頭発表を行った。筆者は本シンポジウムでワークショップを実施した。

Ⅲ. 「日本のマンガ教室」事業

 2011年4月には3日間をとおして 「マンガの描き方教室」と「マンガの日本語」授業が行われた。初日、京都国際マンガミュージアムの代表者が現代日本のマンガ環境―「マンガが子供に与える影響」を中心に―という講演を行った。「マンガ描き方教室」では実践的な画の書き方が指導され、「マンガの日本語」授業はスペインの派遣専門家が国際交流基金関西国際センターで作成した「アニメ・マンガの日本語」サイトを使った授業を行った。MCJPの日本語事業はこのように日本語教育以外の分野と協力した事業も可能である。

Ⅳ. 2011年秋以降

『まるごと日本のことばと文化』講座(新規講座)
 国際交流基金が作成した新教材『まるごと日本のことばと文化』を使い、日本の文化に触れながら日本語の言語知識、知識を実際に使える力(課題遂行力)を伸ばす講座。2011年10月より開講。今年度中は3コースを実施予定。

 MCJP誕生から14年、ここでは展示、公演、映画、料理、講演会等多彩な文化プログラムを提供している。これらの文化プログラムと日本語事業は融合しあって、時代の流れのなかでわかりやすい形で提供していくことが今後の課題である。あたかも国際交流やコミュニケーションという料理には赤と白のワインが2本とも欠かせないように。

  1. ※1 CEFR:Common European Framework of Reference for Languages: Learning, teaching, assessment「外国語の学習、教授、評価のためのヨーロッパ共通参照枠」
  2. ※2 ELP:European Language Portfolio「ヨーロッパ言語ポートフォリオ」
派遣先機関の情報
派遣先機関名称
The Japan Cultural Institute in Paris
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
パリ日本文化会館は、1997年設立以来、フランスおよび欧州における日本文化の発信基地として幅広い文化活動を行っているが、フランス国内の日本語教育支援をより積極的に展開するため、2005年より日本語教育事業が本格的にスタートした。現在は、研修会や教師サロンの実施といった教師支援活動のほか、JF日本語教育スタンダード準拠講座や日本語・日本文化の関連講座の開講、スピーチコンテストや俳句コンテスト・日本語能力試験の実施といった学習者支援活動、日本語教育に関する情報提供、当地の教育状況の情報収集を行っている。
所在地 101 bis, quai Branly 75740 Paris Cedex 15, France
国際交流基金派遣者数 上級専門家:1名、指導助手:1名
アドバイザー派遣開始年 2005年

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