世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) フランスにおける『まるごと』導入の現状

パリ日本文化会館
篠崎摂子、蜂須賀真希子

国際交流基金パリ日本文化会館(以下、MCJP)では、2013年8月に『まるごと―日本のことばと文化』(以下、『まるごと』)入門編(A1)が一般発売されたことにともない、フランスの日本語教育現場での『まるごと』の導入促進を積極的に展開しています。本稿ではその現状をご紹介します。

1.MCJP日本語講座

MCJPでは2011年秋に日本語講座を担当する日本語専門家(以下、専門家)が派遣され、『まるごと』試用版を使うコースが本格的に始まりました。当初は2クラス10数名だった受講生も、2013年秋には14クラス約180名まで拡大しました。特に人気が高いのは3か月(週2回)で『まるごと』A1「かつどう」を終わらせる入門コースで、5クラス同時に開講したこともあります。また、講座開始当初からの受講生は『まるごと』の制作に合わせて順調に学習を進めていて、2014年春には初・中級(A2・B1)コースが開講されました。 MCJPではこれまで平日夜と土曜午後のコースを開講してきましたが、教室がすでに満杯のため、2014年春からは平日昼間のコースを実験的に始めています。今後はこの時間帯が便利な人や中・高校生の受講が増えることを期待しています。

2.中等教育

ジャンヌダルク校の生徒たちの写真
『まるごと』で勉強するジャンヌダルク校の生徒たち

『まるごと』はもともと成人学習者を対象に開発された教材ですが、フランスでは中学・高校の日本語授業での導入も進んでいます。きっかけは、2012年秋からMCJPの日本語指導助手(以下、指導助手)がパリ郊外にあるジャンヌダルク校に毎週1回出講し、『まるごと』試用版を使って授業を行ったことでした。絵や写真が多い『まるごと』は高校生にも歓迎され、聴解や会話の練習を楽しんでいます。そして、バカロレアの第3外国語(選択科目)を日本語で受験したいという生徒も出てきました。 この経験をもとに、中等教育でも『まるごと』を積極的に紹介することにしました。MCJPでは毎年11月にフランスの国民教育省の協力を得て、中等教育日本語教師研修会を開催しています。2013年の研修会では『まるごと』を研修用教材として配布し、指導助手がジャンヌダルク校での実践を紹介した他、講座の専門家が概要を説明しました。  そして、2014年3月から『まるごと』モニタークラス(9機関13クラス)を設置して、学習者用の教材を寄贈し、中等教育での『まるごと』導入を直接支援しています。また、その他の学校の教師からも『まるごと』使用の報告が届き始めています。

3.教師研修

MCJPでは以前から、『まるごと』試用版をパリや地方の教師研修会で積極的に紹介してきました。そのため、一般発売前からフランスの日本語教師の間では『まるごと』への期待が高まり、問い合わせも多く受けました。発売後に開催した研修会には50名以上の教師が参加し、MCJPの日本語講座の授業見学の希望も増えています。  そこで現在は、『まるごと』の教え方を紹介する「日本語教育入門講座」を定期的に実施しています。この講座では、MCJPの授業ビデオを見ながら具体的な教え方を確認し、参加者に模擬授業を行ってもらいます。また、地方研修会では現地の日本語教育機関の協力を得て、学習者に対する『まるごと』体験授業を行っています。 これらの研修会には大学等のベテラン教師の参加もありますが、初心者でも教えやすい『まるごと』の特徴を生かして、在仏邦人を対象とする教師の養成をめざしています。フランスでは潜在的な日本語学習のニーズに対して教師が不足している側面がありますが、入門講座参加後に個人教授で日本語を教え始めたという報告もあります。今後『まるごと』を使って日本語を気軽に教えられる環境が整えられればと考えています。

4.アソシエーション

フランス各地に日仏交流協会等の団体が存在しますが、その多くが「アソシエーション」と呼ばれる公的に認可された非営利組織の形をとっています。そこでは一般成人向けの日本語講座を開設することが多く、「海外の一般成人学習者が楽しみながら日本語を学べる」という『まるごと』の特徴に最も合致する教育現場だと考えられます。アソシエーションの日本語教師は『まるごと』の導入にとても積極的なのですが、大学や中等教育機関に比べると、具体的な活動をMCJPがあまり把握しておらず、これまで十分な働きかけができていませんでした。今後は各地のアソシエーションと連携を行い、『まるごと』講座の開設を積極的に支援したいと思います。

5.フランス語版資料整備

『まるごと』A1語彙帳フランス語版イラスト
『まるごと』A1語彙帳フランス語版より

最後に、フランスで『まるごと』の導入を促進するためには、フランス語版の資料の提供が不可欠です。MCJPでは現在、『まるごと』のフランス語版の語彙帳や文法解説、テキストの英語説明部分や「教え方のポイント」のフランス語訳を作成しています。また、MCJPの講座で使用しているフランス語資料を整備して、外部にも順次提供していく予定です。それによりフランス国内だけではなく、将来的にはフランス語圏全体での『まるごと』の導入が促進されることも期待しています。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
The Japan Cultural Institute in Paris
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
パリ日本文化会館は、1997年設立以来、フランス及び欧州における日本文化の発信基地として幅広い文化活動を行っている。フランス国内の日本語教育支援をより積極的に展開するため、2005年より日本語教育事業が本格的にスタートした。現在は、教師研修会や教師相談の実施といった教師支援活動のほか、JF日本語教育スタンダード準拠講座や日本語・日本文化の関連講座の開講、スピーチコンテストの実施といった学習者支援活動、日本語教育に関する情報提供、当地の教育状況の情報収集を行っている。
所在地 101 bis, quai Branly 75740 Paris Cedex 15, France
国際交流基金からの派遣者数 上級専門家:1名、専門家:1名、指導助手:1名
国際交流基金からの派遣開始年 2005年

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