世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) 日仏の架け橋 ~日本語・日本語教育を通じた相互理解への貢献~

パリ日本文化会館
篠崎摂子、斎藤誠

国際交流基金パリ日本文化会館(以下、MCJP)では、学習者向けの日本語講座(以下、講座)や、日本語教師向けの教授法研修会など、フランスの日本語教育を支援する事業を多角的に行っています。今回はその中でも、日仏交流を通して「相互理解のための日本語」(注)を実現するために、一般の日本人の方に参加していただいている活動をご紹介します。

1.日本語しゃべろん

講座で日本語を学んでいる人でも、教室の外で日本語を使う機会はめったにないものです。そこで、各学期(年3学期制)に1~2回、日本人の方にも参加してもらう会話イベント「日本語しゃべろん」を開催しています。毎回定員(各15名程度)を超える申し込みがあります。日本人の皆さんは、留学や仕事などでパリ在住の方もいれば、旅行でたまたまパリに立ち寄ったという方の参加もあります。参加のきっかけは、会館のホールや図書館に置くチラシや、日本人向けサイトの掲示板情報を見て、という人が多いです。

受講生と日本人とでペアになり、会話がスタート。次第に会話が盛り上がっていきます。お茶とお菓子を片手に、まるでカフェでのおしゃべりのようにリラックスした雰囲気で楽しんでいます。受講生は習った日本語を頑張って話そうとし、日本人はそれを受けとめ、時にはフランス語や英語も交えながらコミュニケーションを取っています。参加者は回ごとに変わりますが、中には毎回参加する方も。

会が終わりになる頃、まだ話し足りないのか、連絡先を交換する光景も毎回見られます。日本人の参加者アンケートを見ると、日本語を学ぶフランス人がこんなにも大勢いることに驚いたり、こうして頑張っていることに感銘を受けたりと、刺激になっているようです。同時に、受講生には日本語学習の動機づけになることで、このイベントが日仏交流の一助になればと思います。

2.日本文化アトリエ

講座では受講者向けの文化アトリエ(ワークショップ)を不定期に開催しています。2014年度は漢字、能、映画などを開催しました。中でも絵手紙アトリエは、日本人との交流の場としても盛況でした。

上武大学から絵手紙の講師など先生方4名と学生さん9名が来訪され、講座受講生は21名が参加。最初は少し緊張した雰囲気で始まりましたが、筆を取り描き始めると、皆真剣に取り組みます。初めは「いろは」と筆でひらがなを書いてみることから始め、最後に自分の手をモチーフに作品を作り、思い思いのメッセージを添えました。フランス人3名がグループになり、絵手紙の経験がある日本人が各グループに1名ずつ入って、それぞれが作品を作ります。初め日本人がフランス人に教えながら作業を進めていきましたが、その中でフランス人の作品に味の良さを発見し、お互い作品を見せ合ったりする中で、日本人が教わることも多くありました。受講生は全員初体験でしたが、初めてとは思えない独創的で素敵な作品が生まれました。アトリエが終わるころには、すっかり打ち解けて会話が活発になっていました。

「絵手紙アトリエ」の作品の写真
「絵手紙アトリエ」の作品たち

「絵手紙アトリエ」の写真
「絵手紙アトリエ」の様子

3.日本語教育入門講座

フランス在住の日本人は、知り合いのフランス人から「日本語を教えてほしい」と頼まれることが少なくないようです。MCJPの日本語教師相談でもそういう方から「どんな教材を使ったらいいか」「どのように教えたらいいか」という相談をよく受けます。

そこでMCJPでは、日本語教育未経験者と初心者を対象とする「日本語教育入門講座-『まるごと』を教えよう―」を開催することにしました。この講座は「国際交流基金(以下、基金)が開発した新しい日本語教材『まるごと 日本のことばと文化』(以下『まるごと』)を使って外国人に対する日本語の教え方を学んでみる」というものです。定員10名、参加無料、午後半日×2日間で、初日は外国人に対する日本語教育や『まるごと』についての講義と授業ビデオ視聴、2日目は参加者が実際に模擬授業を行います。

2013年11月から2015年4月までに計8回開催し、76名が参加しました。参加者の中には『まるごと』の教え方を改めて学びたいというベテランの日本語教師もいますが、全くの未経験者も毎回数名は参加していて、緊張しながら楽しそうに模擬授業に挑戦しています。そして、この講座に参加したことがきっかけで実際に日本語を教え始める人も出てきており、さらに現職日本語教師向けの研修会「国際交流基金日本語教授法シリーズ」で勉強を続ける人も少なくありません。

以上の活動は、一般の日本人の方にフランスの日本語教育や日本語学習者に関心を持ってもらい、「相互理解のための日本語」を体感してもらう機会と考えています。今後もMCJPではこのような活動を続けたいと思いますので、パリ在住の方、あるいはパリ旅行の際にはぜひ参加してみてください。

  • (注)基金が世界中の日本語教育実践のために開発した「JF日本語教育スタンダード」の理念。
派遣先機関の情報
派遣先機関名称
The Japan Cultural Institute in Paris
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
パリ日本文化会館は、1997年設立以来、フランスおよび欧州における日本文化の発信基地として幅広い文化活動を行っている。フランス国内の日本語教育支援をより積極的に展開するため、2005年より日本語教育事業が本格的にスタートした。現在は、教師研修会や教師相談の実施といった教師支援活動のほか、JF日本語教育スタンダード準拠講座や日本語・日本文化の関連講座の開講、スピーチコンテストの実施といった学習者支援活動、日本語教育に関する情報提供、当地の教育状況の情報収集を行っている。
所在地 101 bis, quai Branly 75740 Paris Cedex 15, France
国際交流基金からの派遣者数 上級専門家:1名、専門家:1名、指導助手:1名
国際交流基金からの派遣開始年 2005年
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