世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) 次世代の言語教育家の卵を育てるために ~ 学びの機会をデザインする

国際交流基金パリ日本文化会館
藤光由子・斎藤誠

フランスの大学では卒業のために必要な単位取得につながるスタージュと呼ばれる研修制度(インターンシップ)があり、多くの企業や機関が学生を研修生として受け入れています。パリ日本文化会館(Maison de la culture du Japon à Paris、以下MCJP)でも、明確な目的意識と専門性を有する優秀な大学生や大学院生を数名ずつ長期、短期の研修生として迎えています。

2016年前半、日本語班では日本語教育を専攻する修士課程の学生を研修生として2名受け入れました。いずれも日仏の相互理解と交流促進に貢献したいという強い意志を持ち、言語教育をキャリアとして選んだ若者たちです。派遣専門家は、研修生のメンターでありアドバイザーとして、彼ら自身が日本語教育の可能性を広げ成長し続けるための学びと活躍の場をつくりだす仕事もしています。今回は、研修生たちの活躍ぶりを通じて、MCJPが次世代の言語教育家の卵を育てる場となっていること、そして、お互いの学びを活性化させる派遣専門家の役割についてご紹介したいと思います。

①高校生のための出張ワークショップ

パリ郊外の公立高校での出張ワークショップの画像
パリ郊外の公立高校での出張ワークショップ

MCJPでは、フランスの高校生の間の日本語人気の高まりに応え、中等教育機関への支援を強化しています。パリ郊外の公立高校で行った日本語・日本文化体験の出張ワークショップでは、日仏バイリンガルの研修生Nさんがスタッフとして活躍してくれました。具体的には、教材作成サポート、会場の下見や関係者との調整などを含む準備段階から、当日のファシリテーション、参加者アンケートの集計、振り返り作業、レポート作成と関係者との共有までのすべての過程で中心的な役割を果たしてもらいました。ワークショップ当日は大学院生の研修生NさんとともにMCJPの日本語スピーチコンクールで入賞した同世代の若者Hさんもボランティアとして参加してくれたのですが、彼らの回りに多くの生徒が集まって日本語学習や研修機会について熱心に質問していました。日本語を学びたい高校生にとって、研修生NさんやボランティアのHさんは、年齢が近いロールモデルのような存在なのだと思います。研修生Nさんは、この体験を振り返り、心に残った活動について「ひとつ取り上げれば、参加者との質疑応答だと思います。彼らの日本や日本文化への強い関心が感じられたので、自分の経験を話したり、参加者の質問に答えたりなど、参加者のために何かできたことがよかったです」と語っています。

②学習方法の共有をテーマにしたアトリエ

会館講座「漢字の勉強方法」アトリエ風景の画像
会館講座「漢字の勉強方法」アトリエ風景

研修生Mさん。MCJP日本語講座(以下、講座)受講生から要望が多かった「漢字の勉強方法」について情報交換するアトリエ実施を提案したところ、内容、構成を練り上げ、約1か月の準備期間を経て実現させました。アトリエは参加者の「好きな漢字」紹介から始まり、漢字の基本情報(書き順、部首)を水習字やクイズ、ゲームで学ぶ活動、研修生自身の漢字の勉強方法や漢字学習のリソースを紹介と豊富な内容で、受講生からもリソース紹介があって議論が盛り上がり、有意義なアトリエとなりました。専門家からは水習字などの具体的なアイデア・ツールを提案したり、参加者の立場に立って内容を吟味するようにと助言をしましたが、大部分は研修生のアイデアで十分成立する内容でした。この経験を通じて、ワークショップの手法を学べたことでしょう。また、研修生はアトリエの中で「受講生それぞれが新しい発見をしていた」と、受講生の熱意と好奇心を肌で感じたようでした。

③新規短期講座「旅行日本語」

2016年に講座では、日本語学習経験ゼロの人を対象に「旅行日本語」クラスを開講しました。Mさんにまず、本人の留学経験から、このコースで教えたい日本語や、知っておくべき日本の習慣などを書き出してもらうと、予定授業時間数の何倍分ものアイデアが出ました。それを基にした授業案は派遣専門家が作成しましたが、Mさんにはプランの再検討や、受講生アンケート・教材・スライド等作成の作業を通して「アイデアを授業という形にする」プロセスを学んでもらいました。授業では、アシスタントとして生き生きと受講生のフォローをする姿が印象的でした。

このようにMCJPでは研修制度によって、有為の人材が日本語班のメンバーとの緊密な協働作業を経験し、卓越した集中力と吸収力で短期間に即戦力となり日本語事業全般に貢献しています。一人一人の関心や得意分野を考慮し、新しいアイデアやイノベーションを生み出す協働作業をデザインすることは、研修生を受け入れる派遣専門家の大切なミッションです。相手をよく観察しチャレンジには本気で付き合う、自分の考えを押しつけず相手の話をよく聴き信じて見守る、必要なときを見極めて助けるなど、メンターとしての派遣専門家の仕事には、厳しさと優しさ、必要なときにいるべきところにいてすべきことをする責任感と体力が必要です。研修生には、多様な視点をコースデザインと教材開発に生かすことを期待しますが、自分の行動や考え方を批判的に振り返ってもらう機会をつくることも心がけています。それは、私たち自身が共に学び続け日本語教育の魅力と可能性を発見し続ける機会でもあるのです。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
The Japan Cultural Institute in Paris
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
パリ日本文化会館は1997年設立以来、フランスおよび欧州における日本文化の発信基地として幅広い文化活動を行っている。フランス国内の日本語教育支援をより積極的に展開するため、2005年より日本語教育事業が本格的にスタートした。現在は、教師研修会や教師相談の実施といった教師支援活動のほか、JF日本語教育スタンダード準拠日本語講座や日本語・日本文化の関連講座の開講、学習奨励イベントの実施といった学習者支援活動、日本語教育に関する情報提供、当地の教育状況の情報収集を行っている。
所在地 101 bis, quai Branly 75015 Paris Cedex 15, France
国際交流基金からの派遣者数 上級専門家:1名、専門家:1名、指導助手:1名
国際交流基金からの派遣開始年 2005年

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