世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)次世代人材育成をサポートする仕事

国際交流基金パリ日本文化会館
藤光由子・斎藤誠

最新動向

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日本語教育専攻学生のための集中研修1

2015年から2017年にかけて、フランスの日本語教育界には画期的な動きがありました。まずは、専門家の活動に関わる最新動向についてご紹介いたします。

2015年9月、フランスの代表的な日本語学習機関、イナルコ(フランス国立東洋言語文化大学)と、パリ・ディドロ大学(パリ第七大学)が国内で初めての日本語教育専攻の修士課程を共同設置し、2016年には第一期修了生が誕生しました。アドバイザーは指導助手とともに、2016年から、同修士課程への出講依頼を受け、学期末(5月)に学生向けのワークショップを担当しています。

地方都市ボルドーでも、ボルドー・モンテーニュ大学日本語科の新しいプログラムとして、学部3年次からの選択できる「日本語・日本語教育」コースが2016年9月に開講し、言語文化教育に関心があり、将来のキャリアパスとして中等教育日本語教員を考えているモチベーションの高いフランス人学生が集まりました。そのうち2名はパリ日本文化会館の2017年度研修生として採用され、日本語事業チームの指導の下、出張アトリエなど日本語教育支援の現場を体験してもらっています。

日本語科目を新規導入する公立中等教育機関も確実に増えています。2016年度にはパリ市内11区の高校で第3外国語としての日本語コースが開設されたほか、地方都市では2017年度にはストラスブールの高校、トゥールーズの中学校2校と高校での新規導入が決まっています。

背景

日本語教育専攻学生のための集中研修2の画像
日本語教育専攻学生のための集中研修2

日本語においては、2016年5月14日、G7教育大臣会合の際に行われた日仏大臣の二国間会談にて、フランスの正規教員採用試験(カペス・エクステルヌ)日本語部門の新設が決定されました。日本語学習希望者の増加と、教員の定期的な新規採用の必要性がフランス政府に認められたという意味で、こちらも画期的なニュースでした。

フランスで中学校および高校の正規常勤教師になるためには、カペス(CAPES)かアグレガシオン(Agrégation)のどちらかの資格が必要です。資格取得者が学者や研究者を目指す人が多いアグレガシオンに対して、カペスは、中等教育に特化した教授資格といえます。各科目別に採用試験が行われ、資格保持者は国家公務員としてフランス国内の中学・高校に配置され、生涯、教員としての正規ポストを保証されます。外国語科目では、英語はもちろん、ドイツ語、スペイン語、イタリア語、中国語、オランダ語、ポルトガル語、アラビア語などで、カぺスの資格試験が設けられていましたが、これまで日本語にはありませんでした。日本語部門の資格試験設置のアナウンスは、フランス各地の大学で日本語を学んでいる学生たちにとっては、将来のキャリアの選択肢の一つとして、国家公務員として中学や高校などの教育機関で日本語を教える門戸を開くものだったのです。

専門家の取り組み

こうした流れを側面から支援するため、パリ日本文化会館では、2017年度の新規研修事業として、「日本語教育専攻の学生のための集中研修」を企画し、イナルコ(フランス国立東洋言語文化大学)、パリ・ディドロ大学(パリ第七大学)、ボルドー・モンテーニュ大学から、それぞれの指導教官の推薦を得た学生を受け入れました。第一回の研修テーマは「参加型の授業づくりと多様なリソースの活用」。深く豊かな学びを実現するための授業づくりとは何か、そのために活用できる実践的な技法や多様なリソースについて学ぶことを目的としました。参加者が学習活動の体験や観察を通じて、活動のデザインについて考察すること、ことばと文化を統合的に教えるための多様なリソースを知り、活用法を考えること、さらに自ら学習活動を設計し、その実演を行うまでを研修内容に組み込んでいます。アドバイザー、講座担当専門家、指導助手、専任講師の4名がチームでそれぞれ授業を担当したほか、パリ日本文化会館図書館の主任司書にリソース活用法と題する特別演習をしていただく機会も設けました。参加学生は5日間、文字通り日本語漬けになって、疲れを見せることもなく最後まで意欲的、積極的に参加していました。所属大学を超えて、同じ志を持つ同世代の仲間との出会いに励まされたのでしょう。研修では、学生同士のペアワーク、グループワークやディスカッションの時間も多く取り入れたので、参加者同士の対話やパフォーマンスの観察、また内省の共有から学んだことも多かったと思います。学生たちが自由闊達に議論し、切磋琢磨する姿は頼もしく、フランス生まれの若い世代が日本語教育の発展に貢献する大きな力となることを期待させるものでした。

長期的視野に立ってフランスにおける日本語教育の発展を考え、現地主導の次世代人材育成のために働くこと。それは、派遣専門家のミッションの本質ではないでしょうか。この大きなミッション遂行のために、マニュアルはありませんが、歴代の専門家や国際交流基金スタッフの尽力によって築かれた貴重な繋がりを受け継ぎ、フランス国民教育省や拠点教育機関の関係者と連携しながら現地文脈でのヴィジョンを探っていきたいと思います。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
The Japan Cultural Institute in Paris
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
パリ日本文化会館は1997年設立以来、フランスおよび欧州における日本文化の発信基地として幅広い文化活動を行っている。フランス国内の日本語教育支援をより積極的に展開するため、2005年より日本語教育事業が本格的にスタートした。現在は、教師研修会や教師相談の実施といった教師支援活動のほか、JF日本語教育スタンダード準拠日本語講座や日本語・日本文化の関連講座の開講、学習奨励イベントの実施といった学習者支援活動、日本語教育に関する情報提供、当地の教育状況の情報収集を行っている。
所在地 101 bis, quai Branly 75015 Paris Cedex 15, France
国際交流基金からの派遣者数 上級専門家:1名、専門家:1名、指導助手:1名
国際交流基金からの派遣開始年 2005年
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