世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) ドイツにおける派遣専門家の業務

国際交流基金ケルン日本文化会館
久保田美子
野呂香代子

1.日本語学習の動機

 ドイツでは、仕事のためというよりも、趣味や教養、学究的な興味から日本語学習を始める場合が多い。また、近年は日本の漫画やアニメーションへの関心から日本語学習を始める場合もある。

2.派遣専門家の業務

 ケルン日本文化会館はドイツと日本の文化交流のため様々な活動を行っている。その中で、ここに派遣される日本語教育派遣専門家の業務は大きく2種類に分けられる。1つは、ドイツ語圏の日本語教育の現状を調査し、様々な側面から支援する業務、もう1つは、ケルン日本文化会館内の日本語講座運営に協力し、授業をも担当する業務である。現在当会館に派遣されている専門家は2名であるが、その内日本語教育アドバイザーとして派遣された1名が前者を、もう1名が後者を主な業務としている。

3.ドイツ語圏日本語教育の支援

 派遣専門家が行っている日本語教育支援を、教師支援、機関支援、学習者支援の3つの側面から紹介したい。

(1)教師支援

会館講座授業風景1の写真
会館講座授業風景1
会館講座授業風景2の写真
会館講座授業風景2

 教師支援は、現在、ドイツの日本語教師会の会合参加や、勉強会での講演などを通して行っている。こうした教師会では、現地の日本語教師と直接会い、彼らが本当に必要としていることを知ることができる。具体的には教材に関する情報提供、教授法に関する助言、日本語そのものに関する質問への回答などである。

 ドイツでは、一般成人向けの日本語教育の大半が、市民大学(Volkshoheshule、以下VHS)と呼ばれる成人教育のための施設で行われている。この施設は、大都市はもちろん、小規模な市町村にもおかれ、まさに草の根的な文化交流の場となっている。派遣専門家は、こうした市民大学講師の勉強会で講演を依頼される場合がある。市民大学の講師は大半がドイツ在住の日本人であり、主婦であったり他に職業をもっていたりする場合が多い。これは、市民大学の講座が、十分な申込者が集まらない場合、途中で打ち切られるという運営面で不安定な存在であること、講師依頼が既にドイツで労働することが可能な日本人に集中することからである。従って、こうした市民大学の講師は、日本語教育の専門家ではない場合もあり、実際に仕事を始めてから平行して日本語教育の勉強をする場合が多い。どの勉強会の参加者も非常に熱心で、講師として参加しても逆に勉強させられることが多い。

 現在ドイツで社団法人として成立している大きな教師会は、前述した市民大学の日本語講師が中心となって組織している「ドイツVHS日本語講師の会」の他、ギムナジウム(日本の中学校、高校)の教師が中心となっている「中等教育日本語教師会」、そして大学の教師が中心となっている「JaHドイツ語圏大学日本語教育研究会」の3団体である。また、同じドイツ語圏としてスイス日本語教師会の支援も行っている。

 ドイツでは、前述した市民大学に限らず、日本語教師の大半が日本人であり、非ネイティブの日本語教師の割合は低い。従って、前述の3教師会の会員もその大半が日本人である。今後、非ネイティブの日本語教師の育成や支援にも力を入れていく必要があるものと思われる。

(2)機関支援

 日本語教育機関を支援するためには、各機関の実情を知る必要がある。昨年度は、旧東ドイツ地域の日本語教育機関を中心に訪問調査を行った。各機関の担当者と面談したり、実際に授業の様子を見学したりする。遠いアジアの国日本の言語を真剣に学ぶ生徒や学生の姿を見るたびに、深い感銘を受け、そうした学習者たちがいつかドイツと日本の掛け橋となってくれることを願わずにはいられない。従来ドイツでは、中等教育以降のレベルで日本語教育が行われていたが、本年度(2002年夏)から初めて初等教育レベルにあたるギムナジウム低学年(日本の小学校5年、6年)で日本語教育を正式科目として導入する動きがある。そうした新しい試みに対し、教材、教授法、教師の選抜などの面で派遣専門家が意見を求められる場合もある。

(3)学習者支援

 ケルン日本文化会館にはドイツ中の日本語学習者から様々な問い合わせがある。具体的には、日本語独習用教材の選択、日本語学校に関する情報提供、日本語能力試験受験対策などについてである。派遣専門家が直接学習者に日本語を教える機会は、後述するケルン日本文化会館における日本語講座の授業が中心となるが、他の団体が組織する日本語合宿のようなところへ、日本語教師として参加する場合もある。

4.ケルン日本文化会館の日本語講座

 ケルン日本文化会館には、20年以上の歴史をもつ日本語講座がある。2001-2002年度講座受講者数は182名、クラス数は初級から上級まで全部で10クラスある。非常勤講師は現在10名であり、派遣専門家2名はこうした非常勤講師のまとめ役や助言の役割も担う。講座の受講者にアンケートを取ると、3年以上日本語の学習を続けるつもりで受講している者が多い。仕事のためよりは趣味、教養のために受講したと答えているにもかかわらず、同時にある程度のレベルまで学習を続ける覚悟をもっているということであろう。実際、受講者は非常に熱心で、ドイツにおける趣味としての語学学習に対する考え方は日本における認識とはかなり違う。

 週に2回4時間の授業であるため(上級クラスの場合は週1回2時間)、1年のコースが終了しても初級の場合、前半レベルにしか到達しない。また、当然のことながらまわりに日本語の環境がほとんどないため、日本語運用力を積み上げていくことは難しい。それでも熱心な学習者に支えられ、ひとつひとつ石を積み上げるように少しずつ授業を進めていくといった状況である。

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
  及び業務内容
 ケルン日本文化会館は、国際交流基金日本語普及事業のドイツ語圏における拠点として位置付けられている。その中で同館に派遣される専門家の業務は大きく2種類に分かれている。一つはドイツ語圏の日本語教育の現状を調査し、教師研修等様々な側面から支援する業務、もう一つは、同館内の日本語講座運営に協力し、授業を担当する業務である。この講座では、授業を通して日本文化を紹介し、受講生の日本語能力の向上を目指すとともに、教育現場を持つことで日本語教育教材の開発、改善、及びその他助言活動のための情報を収集する役割も担っている。
ロ.派遣先機関名称
The Japan Cultural Center, Cologne
ハ.所在地 Universitaetsstrasse 98, 50674 Koeln Germany
ニ.国際交流基金派遣者数 専門家:2名

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