世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) ドイツの日本語教育の現場から

国際交流基金ケルン日本文化会館
星 亨
野呂香代子

ドイツの日本語教育最新事情

 ドイツの日本語学習者は過去数年、確実に増えています。それは、2003年度の日本語能力試験の受験申込者が過去最高の775人(前年度比31%増)という数字にも表れています。特に日本語学習者層の若年化は、ドイツでも進んでいます。以前はビジネスマンや日本の伝統文化にエキゾチックな興味を抱く「日本マニア」の中高年層が中心だったのですが、そうした人たちにとっての「日本語ブーム」のピークは去り、それに代わって、日本のマンガ、アニメやゲームソフト、ポップカルチャーの浸透による新たな日本ブームが起こりつつあります。しかし、ドイツの外国語教育の中では相変わらず「希少言語」に位置付けられる日本語の教育は、近年のドイツ各州の教育改革や教育予算削減などの影響を真っ先に受け易く、なかなか安定した地位を得られないのも現実です。

初等・中等教育

 中等教育で現在、日本語を教えているのは56校、日本語を学ぶ生徒は少なくとも1800人といわれています。ただし、56校のうち日本語を正規授業としている学校は19校で、それ以外は課外選択授業(AG)として日本語が教えられています。正規授業は第9~10学年(日本の中3か高1)から英語、その他のヨーロッパ語に次ぐ第3外国語として学ばれるケースが多いですが、最近では第6学年から日本語の授業を開始する学校も現れています。一方、AGは学校の事情や、教師の都合、受講希望者の増減などで開講、廃止が容易に起こる流動的なものです。最近は初等教育でも日本語のAGが行なわれているケースがあるようですが、実態は掴みにくい状況です。1999年に日本語が大学入学資格試験(アビトゥア試験)の選択可能科目になって以来、日本語を選択する生徒も増えてきました。正規科目として日本語が開講されている学校に近隣の学校の生徒が、日本語を受講しに来るケースもあります。なお、2004年現在、日本語のアビトゥア試験は、全16州中5州で実施されています。

高等教育

 ドイツの大学で日本語を学んでいる学生の数は、少なく見積もっても6500人以上と考えられています。日本学専攻の学生以外にも、経済や理工系専攻の学生が日本語を学ぶケースが増えてきています。しかし、政府の教育予算の削減や、大学改革の影響で日本学科の廃止や他大学との統合が取りざたされたり、これまで学費が無料であった公立大が州によって有料化されたり、教職員のポストが削減されたり、大学は受難の時代に入ったと言えます。これは大学全体のことですが、特に日本語・日本学関係など、ドイツ全体から見ればマイナーな分野は、学内の政治的力学などもあり、削減の対象にされやすいのです。幸い日本学科の廃止は今のところ1件が予定されているだけですが、学費有料制をまだ導入していない州の大学に学生が流れたり、2000年から新たに導入されたBA(学士課程)コースのある大学に学生が殺到するなど、ドイツの大学の「地殻変動」はしばらく続きそうです。

成人教育 市民大学 その他

 市民大学とよばれる成人教育機関がドイツ全国に存在し、外国語をはじめ、多彩なプログラムを提供していますが、日本語のコースも全国で延べ600近く開講されています。といっても、地方の市民大学では1クラスの受講生が4~6人という場合も多く、日本語クラスは常に閉講の危機にさらされ、担当講師は少人数の学習者の意欲を繋ぎとめる方策に悩んでいます。市民大学のほかにも、ケルン日本文化会館、NRW州立言語研究所、フランクフルト日本語普及センター、ベルリン日独センターなどで独自の日本語教育を行なっているほか、都市部では民間の日本語学校も開講されています。日本語学習者の世代交代は、このような成人教育の場で最もはっきり現れています。ただ、一般に授業料が高いほど、若年層に敬遠される傾向がありますが、各地で市の財政難から成人教育に対する援助がカットされ、それによって授業料が値上げされ、受講者が減るというケースもあり、「日本語学習者の若年化」即、「第2次日本語ブーム」とは行かないようです。

共通課題と日本語教育アドバイザーの活動

 以上のように、ドイツの日本語教育はそれぞれの教育段階で、それぞれの課題を抱えつつ、新たな時代への展開を模索していますが、これに加えて、日本語教師の地位確立、ノンネイティブ教師の養成と現役教師の再研修、IT化教育への対応、年少者に対する日本語教育、在留邦人子女や日独バイリンガル児童への「継承語としての日本語教育」、「欧州言語共通枠組み(CEF)註」への日本語教育としての対応等々、教育段階を超えた共通の課題も山積みです。ケルン日本文化会館の日本語教育アドバイザーは、各教育段階別の教師会と等距離を保ちながら、セミナー、シンポジウムへの参加や、地域勉強会への出講、情報交換やカウンセリング等の活動を通じて、さらには各ネットワーク間のコーディネーター的役割を通じて、課題解決への後方支援を行なっています。また、ベルギー、フランス、オーストリア、スイスなど、日本語アドバイザーの派遣の無い近隣国への支援も、同時に行なっています。
註:CEFについては、ヨーロッパ日本語教師会が国際交流基金の委託を受けて調査を行なっています。

ケルン日本文化会館の日本語講座 受講者のプロフィール

ビギナーコース(撮影:BettinaLockemann)の写真
ビギナーコース(撮影:Bettina Lockemann

 ケルン日本文化会館の日本語講座は、16歳以上の人なら誰でも受講することができる成人教育の場です。自らの意志で日本語を習いたい!という人たちが学校帰り、会社帰りに週二回(各2時間)ここを訪れます。余暇の過ごし方として日本語を選び、この文化会館にやってきた人たちを見ると、どうも最近の日本ブームが引き金になっているようです。街にはすしバーが何軒となく開業し、すしに飽きた人も様々な日本食を食べるようになってきています。テレビをつければ、相撲や漫画が普通に見られ、日本関連のドキュメンタリーがよく流れてきます。日本像が今までの偏った「エキゾティック性」から解放されたことは確かです。それゆえ、"変わっている"ようだけど、手元に届くようになった日本語を習ってみようかな、と考える若者が増えてきたのでしょう。特に今年になってからはっきりと目立つようになった傾向は、インターネット等メディアを通して日本の最近の文化についてかなりの知識を持っている人たちがビギナークラスに入ってくるようになったということです。特に映画や歌の情報が入手しやすいらしく、我々教師は完全に遅れをとっています(世代差?!)。また、休暇に気楽に日本に旅する人たちが多くなっています。しかも、何らかの形で自分達が作った「知り合いネットワーク」を使って、日本の物価にめげない節約旅行を楽しんでいるようです。日本に対し、地理的にも文化的にも障壁を感じない若者が今後どのように日本語を学習していくのかが楽しみです。

講座改革をふり返って―

 昨年、ケルン日本文化会館の日本語講座は、大きな改革を経て、新しい講座へと生まれ変わりました。この改革の目玉をご紹介します。

通年制から半年制へ:
今までは一年コースを毎年10月~6月に開講していましたが、途中で止めてしまう人もかなりいました。そこで、2003年の秋からコースを、「冬コース」(11月~2月)、「夏コース」(3月~6月)の2期制として、最後まで息切れせずに受講できるようにしました。この半年制にしてからは、冬・夏コースとも、入門レベルは25名×2クラスの定員があっという間に埋まり、急遽もう1クラス設置しました。
準備コース:
日本語を学習することの向き、不向きをまずチェックしてもらえるよう、本コースが始まる前に2週間(各2時間×4回)の「準備コース」を開講しました。4回の授業で、日本語の雰囲気を捉えてもらい、もし、自分に合いそうだったら本コースに申し込んでもらえればいいという、言わば「お試しコース」です。この準備コースはなかなか好評で、入門レベルは定員の50名がすぐにいっぱいになり、急遽もう1クラスを増設しました。教室は特に若い人たちの熱気に溢れていました。
新レベルシステムと
プレースメント:
これまで初級1・2、中級1・2・3、上級の6段階となっていたレベル分けをStufe(レベル)1からStufe9までの9段階に整理しなおして、自分のレベルの位置づけがはっきりわかるようにしました。また、日本語能力試験の4級から2級までの基準を下敷きにしたプレースメントテストを作り、今までよりも正確なレベル判定ができるようにしました。
特別クラス「日本語AG」:
文化会館の講座で何年も日本語を学んできたけれど、試験を受けるのは苦手とか、日本語を読むのは大好きでも、聞き取りや漢字を書くのは苦手といった、長期継続者(いわゆるリピーター)が、安心していつまででも勉強を続けられる受け皿として、特別クラスを毎週1回開講することにしました。内容は文章講読と自由会話が中心です。
新システムでようやく船出をした日本語講座ですが、かつて先達の努力によって、ドイツの「日本語の総本山」と呼ばれた伝統を追い風に、新しい時代の日本語教育をめざして前進しようとしています。
派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
  及び業務内容
ケルン日本文化会館は、国際交流基金の行なう日本文化紹介事業や文化交流、学術交流プログラムのドイツにおける拠点であると同時に、基金日本語普及事業のドイツ語圏における拠点として位置付けられている。同館に派遣される日本語教育専門家の業務は、1)ドイツ語圏の日本語教育の現状調査や、日本語教育に関する情報提供、教師研修、日本語教師ネットワーク支援等のアドバイザー業務と、2)同会館日本語講座の企画、運営、授業担当を行なう日本語直接指導業務の2種類に分かれる。ちなみに同講座は30年以上の歴史を持ち、大学や市民大学などでは限界のある本格的な日本語教育を行なう機関として、常に注目されている。
ロ.派遣先機関名称
The Japanese Culture Institute, Cologne
ハ.所在地 Universitaetsstrasse 98, 50674 Koeln, Germany
ニ.国際交流基金派遣者数 専門家:2名
ホ.日本語講座の所属学部、
  学科名称
ケルン日本文化会館日本語講座
ヘ.日本語講座の概要
(イ)沿革
(1)講座(業務)開始年   1970年
(2)専門家・青年教師派遣開始年 1985年
(ロ)コース種別
レベル(Stufe)1~9(初級~上級)
(ハ)現地教授スタッフ
10名
(ニ)学生の履修状況
(1) 履修者の内訳   160名(初級65%、中級28% 上級7%)
(2) 学習の主な動機 日本、日本語に対する興味
(3) 卒業後の主な進路
(4) 卒業時の平均的な
日本語能力レベル
日本語能力試験3級
(5) 日本への留学人数

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