世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) 「日本語教育アドバイザーの一日」

「日本語教育アドバイザーの一日」

国際交流基金ケルン日本文化会館
星 亨

 ケルン日本文化会館には二人の日本語教育専門家が派遣されています。そのうち一人は
日本語講座の運営担当、もう一人は日本語教育アドバイザー担当というふうに役割を分担して仕事をしています。今回は、この日本語教育アドバイザーのある一日にスポットを当て、アドバイザー業務とはどんなことをするのか、をご紹介したいと思います。

 まず、出勤するとデスクの上に、なにやら大きな小包が一つ。何だこれは!と思いながら開封してみると、基金制作の「日本語教育用テレビCM集2005」を貸し出していた機関からの返却ビデオでした。中を開いて、利用者が記入したアンケートをファイルに綴じ込み、ビデオと解説書を所定の場所に保管します。

 次に、PCを立ち上げてメールの受信を確認。夕べからなんと60通あまりのメールが、
と思いきや、このところとみに増えてきたスパムメールの山!怪しいメールを全部消し去って、残った10通あまりのメールの内訳は...。会館内での事務連絡が2、3件に、来月出講を予定している2つの勉強会の時間割調整やテーマ決めの相談2件。どちらもドイツの市民大学の地方支部で、ひとつはもう2週間後に迫っているのに、まだ準備が・・・、と動揺しながら、つぎのメールに読み進みます。あとは各地の日本語教師や興味のある方からの問い合わせいろいろ、能力試験の出題基準改訂語の漢字リストがほしい、ドイツで教師養成をしている機関はないか、CEF(ヨーロッパ言語共通枠組み)のA-1レベルは日本語能力試験の何級にあたるか(?)、打消し推量の「まい」は未然形につくのか、終止形につくのか(??)などなど難問が続きます。ちなみに、最近、最も多い問い合わせは、年少者向き教材を紹介してほしいと言うものです。すぐに答えられるものだけ返信し、後はしばらく待ってもらいます。今日、とてもうれしかったのは、ある市民大学の先生からの報告でした。彼女は、突然、経験の無い中学生向きの集中日本語講座を担当させられ途方にくれていたのです。送ってくれた授業プランを見ると、なかなか良く練られていたので、「これなら大丈夫、自信を持ってやってください」と励ましていたのですが、その集中講座が「大成功!」との事で、小躍りせんばかりの文面でした。こういう報告は本当に我が事のようにうれしいです。

 そうこうしているうちに午前中の業務時間は終わってしまいます。昼休みに近所で買ってきたドイツ式の大型(?)サンドイッチを片手に、回覧受けのボックスを見ると、さまざまな回覧資料の中から、「テレビCM集」の貸し出し申し込み書を発見、ビデオの梱包と宛名書き、それから、先週のギムナジウム(高校)日本語クラス視察の出張経費の精算がまだなのを思い出して、あわてて計算し、ふと時計を見ると、夕方の授業時間が1時間後に迫っている。なんとか授業準備を済ませ、時間ぎりぎりで教室に飛び込んだものの、宿題の添削をしていないのに気づき、脂汗を流しながらの授業。こんな自転車操業の毎日ですが、それでも、教室に入って生徒の顔を見ると心が和んでしまうのは、こんな私にも、アドバイザーである以前に、日本語教師の血が流れているからです。

日本語講座を担当して

国際交流基金ケルン日本文化会館
谷道 まや

クラス活動「ひらがなカルタ」の写真
クラス活動「ひらがなカルタ」
「会話の授業」の写真
「会話の授業」

 文化会館の新学期は11月から始まる。隣接するケルン大学の登録終了後でも、大学生が日本語を受講できるように配慮しているからだ。大学生たちの多くは、言語以外の専攻の学生だが、中には、講義中心の授業にあき足らない日本語学専攻の学生も混じっている。三分の二を占める受講生は、一般社会人や退職者。最近の傾向は、10代の若者たちの受講希望が年々増えていること。会館では、受講者の年齢を16歳以上に限っているが、16歳未満のティーンエージャーの親御さんが何とか学習させてくれないだろうかと相談に見える場合もある。彼らが日本語に関心を持つ直接のきっかけは、漫画やゲーム、映画、歌、スポーツ、和太鼓のようなサブカルチャーのようだ。それに対して、中高年層は、文学や能、歌舞伎、浮世絵などの伝統文化に対して関心を持つ。関心があるだけでなく、専門的に研究している人さえいる。その他に、日本人と交流するチャンスが増えて、息子のガールフレンドが日本人だからとか、日本人との交流も大きな動機づけになっている。私が先学期教えたクラスには、16歳から82歳までの生徒がいた。

 授業は、一週間に2回、各2時間。初級のレヴェル1から上級のレヴェル9まで、25回の授業後に修了試験をクリアーして進級する仕組みになっている。レヴェル1からレヴェル5までが初級で、その段階でやっと日本語能力試験三級程度である。夏・冬の2コースしかないから、このレヴェルに達するだけでも数年要することになる。ドイツ人にとって、大変なのは、2種類の仮名に加えて漢字も学習しなければならない点。授業以外に日本語に接する環境にない人々にとって、まず表記が第一の関門となる。

 派遣専門家2名と十数名の講師がティームを組んで教えている。「友だちが歌を教えました」と言えばすむことなのに、どうして「友だちが歌を教えてくれました」というややこしい言い方をするのか。納得できないことには先に進めないという議論好きな学習者の質問に答えるのは大変エネルギーが要る。現地経験の長い教師にドイツ語で解説をお願いすることもしばしばである。その一方で、日本事情をドイツ語で解説することばかりに熱心な教師に、生徒にもっと話させる機会を与えて練習量をふやすようにと指導するのも専門家の仕事の一つである。

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
  及び業務内容
ケルン日本文化会館日本語講座は、国際交流基金が行う日本語普及事業のドイツ語圏における拠点である。基金派遣日本語教育専門家二名は、1)日本語教育アドバイザー業務 と 2)会館主催の日本語講座運営の二つの業務を分担して行っている。夜間講座では、16歳から80歳までの学習者が熱心に日本語を学んでいる。
ロ.派遣先機関名称
The Japanese Culture Institute, Cologne
ハ.所在地 Universitaetsstrasse 98, 50674 Koeln, Germany
ニ.国際交流基金派遣者数 専門家:2名
ホ.日本語講座の所属学部、
  学科名称
ケルン日本文化会館日本語講座
ヘ.日本語講座の概要
(イ)沿革
(1)講座(業務)開始年   1970年
(2)専門家・ジュニア専門家派遣開始年 1985年
(ロ)コース種別
初級5レヴェル、中級3レヴェル、上級1レヴェル
(ハ)現地教授スタッフ
12名(うちドイツ人1名)
(ニ)学生の履修状況
(1) 履修者の内訳   初級124名(77%)中級31名(19%)上級6名(4%)
(2) 学習の主な動機 日本文化、日本語に対する興味
(3) 卒業後の主な進路
(4) 卒業時の平均的な
日本語能力レベル
日本語能力試験2級~3級
(5) 日本への留学人数

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