世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) フランクフルト「日本語普及センター」訪問・見学記

フランクフルト「日本語普及センター」訪問・見学記

国際交流基金ケルン日本文化会館
沼崎邦子

 フランクフルトにある「日本語普及センター」は、一般成人を対象にした日本語教育機関です。パンフレットを見ると、既成の通常コースのほかに企業や個人からの要請に応えてオーダーメイドのコースも企画・実施するなど、柔軟な対応をしている様子なので、以前から訪問・見学をしたいと思っていました。5月13日土曜日、とうとうそれが実現しました。

 フランクフルトは、ケルンから特急ICEで約1時間10分。「日本語普及センター」は中央駅からも近く、町の中心部の便利なところにあります。訪問当日は、9時半から12時過ぎまで、3コマの授業時間で5つのクラスを見学させてもらいました。先週始まったばかりの入門クラスから、中級の口頭コミュニケーションのクラスまで、さまざまなレベルの授業でした。

 見学をさせてもらって気付いたことを三つあげたいと思います。

  1. 1.受講生の授業中のやりとりから、フランクフルトが、ほかの町に比べて日本関係の情報が入りやすい場所であることが分かりました。日本映画のDVD(英語の字幕付)やマンガの購入、日本人の友人・恋人との電話や電子メールのやり取り、個人ベースの日本旅行、センター主催の日本研修旅行など、日本との直接コンタクトが想像以上にあるようです。日本語の学習動機も現実的・具体的であるような印象を受けました。日本関係の情報の多寡は、学習の成功・不成功に大いに影響しますので、ドイツ全国の情報量をフランクフルト並にしたいものだと思いました。
  2. 2.授業中のドイツ語使用が思ったより少なく、嬉しいことでした。受講生たちは週1回という頻度で講座に来ているわけですが、ほとんど日本語だけで授業を進めることが「苦しみ」ではなく「楽しみ」になり得ているようで、少人数クラスの利点が生かされていると思いました。
  3. 3.授業見学をするときは、いつも教室環境を乱してしまうのではないかと心配するものです。しかし、今回、あるクラスでは見学者がいることが適度の緊張を促したようで、受講生の一人が最後に「また来てください。私たちは、よく勉強できますから。」と言ってくれました。大変うれしいことでした。担当教師の腕次第でプラスにもマイナスにも持って行き得ることなのでしょう。力量のある先生がいらっしゃるということが分かったのも、うれしいことでした。

 見学を終えてから、代表のI先生を始め、講師の方々と懇談する時間がありました。「継続こそが力なり」という信条で、今後も息長く続けていきたいと思っているそうです。ドイツには、この「日本語普及センター」のような草の根の信頼関係構築に貢献してきた数多くの機関があります。今回の見学は、このような地道な貢献があってこそ、それが今に繋がっているのだと改めて認識させてもらう良い機会でした。私共も、地道に誠実な仕事をしていきたいものだと深く感じました。

 このように、実際に訪問・見学し、その施設や学習者、教師に直接会って話すことは、本当に大切なことです。そうすることで、どんな支援が必要なのか、その支援がどのように役立つのか、具体的なイメージを描くことができるようになり、今後の計画作成の参考にすることができます。また訪問は、精神的な支援をすることになります。それぞれの機関で日本語教育に携わっているスタッフに直接会い、その仕事の価値は高く評価されていると伝えること。それは、現場の者が困難を乗り越え、息長く続けていくためには、一番の、そして最後の支えになるのではないかと思います。アドバイザーとして、できる限り多くの機関を訪問・見学しようと思っています。

初級から上級までそろった日本語講座

国際交流基金ケルン日本文化会館
谷道 まや

 講座担当者としてうれしかったことは、ゼロスタートの1レヴェルから能力試験1級程度の9レヴェルまで、すべてのレヴェルが揃い、開講することができたこと。登録して、やめていく初級の人数は圧倒的に多いが、堅実に中級まで進んでいくレヴェルの学生層も厚くなってきた。おそらくドイツの教育機関では、中上級をきちんと学べるクラスは、大学を除き、ここだけだろう。

 また、動機として、机上の学問ではなく実際に日本人とコミュニケーションしたいという実際的な動機が増えてきたことも最近の傾向としてあげられる。W杯の開催国ということもあって、このごろ日本人の旅行者の姿が目につくようになったし、配偶者や友人が日本人という人も多くなった。

反対語をさがせカード・ゲーム(中級)の写真
反対語をさがせ カード・ゲーム (中級)
手順を説明してみよう(中級)の写真
手順を説明してみよう  (中級)

 4月には、ケルン市主催の文化事業の一環に参加し、「日本語で名前を書いてみよう」というミニ・日本語レッスンを行なった。一般向けの公開講座で、前売り券は5ユーロ20セント(約650円)。大人、子供あわせ約60名が参加した。筆ペンを使い、カタカナ書きで自分の名前を書く1時間のレッスンだ。筆ペンという筆記具を使ってみる経験、自分の名前を見たこともない文字で表せる喜び、なにより、上から下へ、縦書きにできる不思議さなどを体験してもらった。会館に足をはこび、初めて日本語講座の存在を知った人もいる。会館の事業をアピールするよい機会になったと思う。

 日本語講座では、ひらがな・カタカナ五十音図をラミネートした下敷き(マウスパッドとしても使える)を初心者の学生に配っている。できるだけ、早く日本語表記に慣れてもらいたいがための親心ならぬ、教師心から制作したのだが、他のクラスの学生からも「わけてほしい」という声が上がるほどの人気にびっくり。日本語科の「おみやげグッズ」として、訪問者にも差し上げている。日本語がまず面白そうだなぁとドイツの人に評価される、一番の取っかかりになるものが、何と言っても表記のもの珍しさ、らしいのだ。

 写真でお見せしたのは、中級のクラスの漢字の授業。単に読み方や意味を教えるだけでは、とうてい常用漢字(1945字)にまで到達させることはできない。そこで、語彙カードをトランプのように手に持たせて、反対語を並べたり、品詞ごとに並べ替えたりするゲームをさせている。グループで競わせたりして体を使う作業にしてしまうと、なんとか飽きずにやってくれる。

 漢字も初めの100字程度は、エキゾティックなものとして喜々として学習してくれるが、それ以上の数になれば、西洋人には学習のネックになるようだ。教師は、あらゆる手を使い、漢字に対する初めの好奇心をうまく活用しつつ、あれよ、あれよという間に、中級までひっぱって行ってしまわないといけない。まさに、飴とムチを使い分けているわけだ。

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
  及び業務内容
ケルン日本文化会館は、国際交流基金が行なう日本語普及事業のドイツ語圏における拠点である。基金派遣日本語教育専門家2名は、1)日本語教育アドヴァイザー業務、2)会館主催の日本語講座運営の二つの業務を分担して行なっている。夜間講座は、9レヴェルあり、15歳以上の学習者が熱心に日本語学習をしている。
ロ.派遣先機関名称
The Japanese Culture Institute, Cologne
ハ.所在地 Universitaetsstrasse 98, 50674 Koeln, Germany
ニ.国際交流基金派遣者数 専門家:2名
ホ.日本語講座の所属学部、
  学科名称
 
ヘ.日本語講座の概要
(イ)沿革
(1)講座(業務)開始年   1970年
(2)専門家・ジュニア専門家派遣開始年 1985年
(ロ)コース種別
初級5レヴェル、中級3レヴェル、上級1レヴェル
(ハ)現地教授スタッフ
11名(ドイツ人教師2名を含む)
(ニ)学生の履修状況
(1) 履修者の内訳   初級126名(73%)中級42名(24%)上級6名(3%)
(2) 学習の主な動機 日本文化・サブカルチャー、日本語に対する興味
(3) 卒業後の主な進路
(4) 卒業時の平均的な
日本語能力レベル
日本語能力試験3級程度
(5) 日本への留学人数

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