世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) ギムナジウムの日本語クラス訪問記

ギムナジウムの日本語クラス訪問記

ケルン日本文化会館
沼崎邦子

 アドバイザー業務担当の日本語教育専門家として、ドイツ国内の、いろいろな日本語学習機関を訪問し、日本語クラスの授業見学をさせてもらったり、先生方からお話を聞いたりして、現状把握に努めている。昨年のこのページには、一般成人向けの日本語クラスを訪問したときのことを書いたので、今年は、高校生の日本語クラスについて報告しよう。

 実は、ドイツの学校制度は日本の学校制度とはかなり違っていて、今「高校生」と書いたが、訪問したのは「ギムナジウム」という11歳から19歳までの生徒が通う学校だ。ドイツの子どもは、小学校4年生を修了する時点で、将来、高等教育を受けて知的な職業に就くか、専門技能者または、その他の仕事をする人になるかという、重大な選択が迫られる。ギムナジウム生は、卒業後、大学に進学して知的職業に就くという道を選んだ子どもたちである。

 さて、5月のある日の午後、デュッセルドルフ郊外のギムナジウムを訪問し、日本語クラスを見学した。この学校では、11年生(高校2年生の年齢に当たる)から13年生(高校4年生の年齢に当たる)の日本語クラスがあって、週2回の午後、デュッセルドルフ市内のあちこちのギムナジウム生たちが、ここに集まって来る。この地区は、デュッセルドルフの中でも特に日本人が多く住んでいる地区で、デュッセルドルフ日本人学校(全日制)、お寺、日本食材店などもある。日本人学校とは25年前から姉妹校として交流を盛んに行っているということだ。

 見学したのは11年生のクラス。日本語の勉強を始めて1年目が終わろうとしている生徒たちだ。ドイツの他の高校生学習者たちと比べ、スムーズに話せる生徒が多いし、発音が聞き取りやすい。デュッセルドルフは日本人の多い町だし、姉妹校交流のおかげで、普通の学校より日本語に接する機会が多いためかもしれない。このクラスを担当するK先生は、在勤23年のベテラン教師。生徒の興味の対象、日常の行動、学習のしかたなどを、よく知っておられる様子だ。てきぱきと指名し、ときどきドイツ語の説明を入れる。日本語との切り替えが巧みである。生徒たちの視線が先生に注がれるとき、まるで見えない糸が一本に束ねられているようだった。見学した授業では「誕生日のパーティーへの招待状を書く」という活動をしていた。この活動をするためには、単語や文法の勉強だけでなく、文化を背景とした社会言語的な運用の力が必要だ。日本語の文化という、自分の母語文化とは違うものと接して、生徒たちは自然に出自文化を振り返り、比較し、内省しているように見えた。このような活動は、ギムナジウム11年生という伸び盛りの年齢の生徒たちの、頭脳にも感性にも多方面から刺激を与え、人間としてのトータルな成長にきっと貢献しているものと頼もしく思った。

ドイツ人と日本人講師によるティーム・ティーチング

ケルン日本文化会館
谷道 まや

さくらの見える教室の写真
さくらの見える教室
初級のクラスの写真
初級のクラス

 ケルン日本文化会館のホームページと月報には長い間、講座の講師は全員日本人であると麗々しく書いてあった。母語話者だから、本物の日本語が聞ける、日本の文化に関する解説には間違いがなかろうと・・・それが信頼性の裏づけになっていた。

 しかし、2005年から2007年にかけて、ドイツ人の講師を採用し、日本人とのティーム・ティーチングで教えるようにしていった。今では、5人の非母語話者講師(ドイツ人4名、トルコ人1名)と日本人講師7名の陣営で、協同して教えている。非母語話者は日本語能力試験1級、2級の合格者で、充分な指導力をもった方たちである。

 私自身もドイツ人の先生と組んで授業をしてみて、自分の観察がどうしても「日本的常識の枠」から抜け出せないことに気づかされる。教室活動をしても、“元学習者”だった。
 非母語話者講師は、生徒の反応を、わがことのように感知できる。そういう教師から得られる観察や意見は非常に貴重だ。学習者の立場からすると、おや、日本人ではないのか、と始めはちょっと落胆するようだ。しかし、すぐに落胆は驚きに、驚きは尊敬に変わる。学習を続けてゆけば、あのように自由に話せるようになれるという一つの理想像が見えてくる。目標が見えれば、学習はより現実的になる。われわれ母語話者講師も、うかうかしてはおられない。非母語話者の教師への連絡を、明確に伝達しなければ、思わぬ誤解を招く。人にものを伝え、理解してもらうということは、どういうことなのか、日々勉強させてもらっている。

 ここ数年間を観察し思うことは、1)文法解説を求める学習者よりも、じっさいに日本語で話したいと希望する学習者が増えてきたこと。2)かつては、入門者が突出して多く、中、上級に進むにつれて、先細りになる傾向であったが、わずかながら、中級の層が厚くなり、中級、上級へと進もうという学習者が増えていること。3)機が熟したのか、高いレベルの日本語力を身につけた非母語話者で、日本語を教えたいという人が現われ始めたこと。専門家のアドバイスを受けながら、日本人と一緒に指導する道が開かれつつあること。
 このようなティーム・ティーチングの試みは、まだ緒についたばかりで、その功罪については、今後明らかになってくるだろう。独日の教師たちが、それぞれに力を補い合って、日本語学習をよりダイナミックに、ここの学習者にとって快適なものにできたらなぁと願っている。

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
  及び業務内容
ケルン日本文化会館は、国際交流基金が行なう日本語普及事業のドイツ語圏における拠点である。基金派遣日本語教育専門家2名は、1)日本語教育アドバイザー業務、2)会館主催の日本語講座運営の二つの業務を分担して行なっている。夜間講座は、9レベルあり、15歳以上の学習者が熱心に日本語を学んでいる。学習者数150~170名。
ロ.派遣先機関名称
The Japan Cultural Institute in Cologne
ハ.所在地 Universitaetsstr 98, 50674 Koeln, Germany
ニ.国際交流基金派遣者数 日本語教育専門家:2名
ホ.日本語講座の所属学部、
  学科名称
 
ヘ.日本語講座の概要
(イ)沿革
(1)講座(業務)開始年   1970年
(2)専門家・ジュニア専門家派遣開始年 1985年
(ロ)コース種別
初級5レベル、中級3レベル、上級1レベル
(ハ)現地教授スタッフ
非常勤 12名(非母語話者 5名を含む)
(ニ)学生の履修状況
(1) 履修者の内訳   初級112名(72%)中級34名(22%)上級9名(6%)
(2) 学習の主な動機 日本文化・サブカルチャー、非西洋言語に対する関心
(3) 卒業後の主な進路
(4) 卒業時の平均的な
日本語能力レベル
日本語能力試験3級程度
(5) 日本への留学人数

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