世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) ケルン日本文化会館での専門家の役割 ~日本語教育と日本語教師支援~

ケルン日本文化会館
岩澤和宏 三矢真由美

 ケルン日本文化会館には2名の日本語教育専門家(以下、専門家)が派遣されています。専門家の業務は大きく「日本語教育」と「日本語教師支援」に分けられます。2名の派遣専門家の内1名が会館での「日本語教育」を主担当とし、もう1名が「日本語教師支援」を含めたアドバイザー業務を主担当としています。

ケルン日本文化会館の日本語講座

 ケルン日本文化会館は、2009年の9月に開館40周年を迎えます。開館の翌年には日本語講座が始まったので、日本語講座も会館と同じくらいの長い歴史があります。長い歴史の中で様々な学習者が日本語や日本文化を学び、多くの先生方が効果的な教え方を工夫したりカリキュラムなどを再検討したりしてきました。その蓄積の上で当館の日本語講座は、初級から上級までの日本語が学べる数少ない日本語教育機関のひとつとして機能しています。現在約170名(本コースのみ)の学習者が、学校や仕事を終えてから当館に集い、楽しく、時には厳しく、知的な汗を流しながら日本語を学んでいます。

様々な学習者

 日本語講座には実に様々な学習者がいます。年齢で言えば15歳の高校生から年金生活者まで。仕事も将来の夢も学習動機も様々です。ドイツ人以外の学習者が比較的多いこともケルンという街の状況を反映しているのかもしれません。

 学習スタイルも様々です。次々に新しい言葉や表現を吸収してとにかく実際に使ってみようとする学習者もいるし、文法的な説明をきちんと聞かないと納得せず、間違いのない完璧な文が出来るまで口を開こうとしない学習者もいます。

 学習者が様々とは言え、自己主張が強く周りに自分を合わせようという気持ちが弱いところは共通しています。頑固な学習者がマイペースで学習を進めていける点も、当館の日本語講座の特徴だと言えるでしょう。

少しずつ変わる日本語講座

 近年ヨーロッパでは、言語学習や言語教育に関する考え方が少しずつ変わってきました。これまでは学習時間や言葉の数、文法知識の量などが重要視されましたが、最近ではその言語で「何ができるのか」という観点から言語能力を測ることが多くなりました。当館の日本語講座もその考え方を取り入れ、各クラスの到達目標を「○×ができる」という記述、いわゆる「Can do記述」で示すことにしました。「○×ができる」ようになるためには何をどう教えればよいかを考え、シラバス(教授項目)を決めていきます。

 それに「自己評価」という考えを取り入れました。自分としては何かどのくらい出来るようになったと考えているかをチェックしてもらい、それをポートフォリオに挟んでおきます。これは、自分の学習は自分で管理するという「自律学習」の考えが基本になっています。

 新しいことが馴染むまでには時間がかかります。ベテラン学習者の意見なども傾聴しながら少しずつ良いものを作っていけたらと思っています。

日本文化理解、日本体験

日本語講座の様子 学習者によるプレゼンテーションの写真
日本語講座の様子
学習者によるプレゼンテーション

 日本語能力と日本理解・文化理解能力とは別物です。しかし、日本文化を理解することなしには日本語の上達が望めないことも事実です。特に中級から上級へと進むにつれて、日本理解・文化理解が鍵となることもあります。

 当館の日本語講座では、特に中級から上級へ進むにつれて学習者からの発信が求められます。教室で受身的に座っているだけでは越えられない壁があると考えられるからです。学習者は自分の興味や関心に基づき、学んできた日本語を駆使してプレゼンテーションを行います。学習者によるプレゼンテーションは、日本語だけではなく日本理解、文化理解が磨かれ試される場でもあります。

 前述したポートフォリオには、日本語能力に関するものと並んで、日本体験や日本理解に関する部分もあります。日本理解・文化理解の度合いについては客観的に測る基準がないし、また日本語講座ではそれを測る必要もありません。ですが、日本語能力だけではなく日本理解・文化理解についても日本語を学ぶ上で大切にしたいと考えています。

日本語教師を支援する-ベルリン日本語教師研修会-

教師研修会 招聘講師によるワークショップの写真
教師研修会 招聘講師によるワークショップ

 日本語教師というと、外国人学習者を相手に教室で日々日本語を教えている姿をまず想像するかもしれません。しかし、日本語教師の仕事はそれだけではありません。学習者を取り巻く環境を整備するというのも実はとても大切な業務の一つです。国際交流基金の2006年の調査によると、ドイツで日本語を教えている日本語教師は465人でした。先生方がより楽しく、効果的に日本語を教えられるよう、勉強会や研修会に講師を招いたりすることも私たちの海外での大切な業務の一つなのです。

 ケルン日本文化会館はベルリン日独センターの協力のもとに毎年ベルリンで日本語の先生方を対象とした1日研修「ベルリン日本語教師研修会」を実施しています。2007年に始まったこの研修会も今年で3回目を迎え、参加者は今年初めて30名を超えました。そのうち半数近くがリピーターとして参加し続けてくださっているのは大変うれしいことです。今年は日々の授業を生き生きとしたものにする様々な教室活動を紹介しました。日本文化体験を学習するためのホームビジットの紹介では、日本とドイツという2つの文化を身をもって体験している参加者ならではの視点から興味深い議論が行われました。また、発話能力のレベルアップをはかるには、まず自分ができないことに気づくことが大切だとし、「気づき」を促す活動「ディクトグロス」が紹介されました。

 漫画を使って擬音語を楽しむワークショップでは、参加者は漫画のコマに合った擬音語をグループごとに考えて選んだり、その擬音語を会場のドアや用意された水を使って実際に体感したりしました。「ドンドン」と「バタン」の違いがわかるようにドアを閉めたり、水を実際に飲んで「ゴクッ」と音を出したりと、まるで理科の実験かゲームをしているような楽しくわくわくするワークショップでした。擬音語は言葉で説明してもなかなかすっきりと理解してもらえないものですが、実際に体験して感じることが大切なのだなと実感させられました。ちなみに今回講師をしてくださった方は、ドイツにいらしてから日本語教育に携わるようになった方です。こういう先生が研鑽を積み、やがて研修会で講義を担当してくださるのは、他の先生方にとっても大変刺激になるのではないでしょうか。

 さて、研修会の目的(と楽しみ)は、講義を通して知識を深めたり、教える技を磨くことだけではありません。日本語教師として志を共にする仲間の先生方と交流を深め、情報交換をし、悩みや問題を共有するというのも大切な目的です。実際に教師研修に行くと「仲間に会いたかったから今日は来ました」という方も少なくありません。周りに日本語の先生がいなく、孤軍奮闘されている方々にとってはこういった集まりは一種のオアシスのようなものなのかもしれません。

 この研修会は来年で4回目になります。この研修会に参加してますますパワーアップした先生方の何人かが今度は別の研修会で講師として講義を担当されることでしょう。そんなことを思い描くと今からとても楽しみです。

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
  及び業務内容
ケルン日本文化会館は、国際交流基金が行なう日本語普及事業のドイツ語圏における拠点である。基金派遣日本語教育専門家2名は、1)日本語教育アドバイザー業務、2)日本語講座運営の二つの業務を分担して行なっている。日本語講座は9レベルあり、15歳以上の学習者が熱心に日本語を学んでいる。学習者数約170名(本コースのみ)。
ロ.派遣先機関名称
The Japan Cultural Institute in Cologne (The Japan Foundation)
ハ.所在地 Universitätsstraße 98, 50674 Köln, Bundesrepublik Deutschland (Germany
ニ.国際交流基金派遣者数 日本語教育専門家:2名
ヘ.日本語講座の概要
(イ)沿革
(1)講座(業務)開始年   1970年
(2)専門家・ジュニア専門家派遣開始年 1985年
(ロ)コース種別
初級5レベル、中級3レベル、上級1レベル
(ハ)現地教授スタッフ
非常勤12名(うち非母語話者4名)
(ニ)学生の履修状況
(1) 履修者の内訳   初級120名(70%)中級42名(24%)上級10名(6%)
(2) 学習の主な動機 日本文化・サブカルチャーに対する関心、教養として
(3) 卒業後の主な進路 該当しない
(4) 卒業時の平均的な
日本語能力レベル
日本語能力試験3級レベル
(5) 日本への留学人数 該当しない

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