世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) 現在の日本語学習者、未来の日本語学習者

国際交流基金ケルン日本文化会館
岩澤和宏 三矢真由美

 ケルン日本文化会館には2名の日本語上級専門家(以下、専門家)が派遣されています。専門家の業務は大きく「日本語教育」と「日本語教師支援」に分けられますが、その他に未来の日本語学習者を育てることも大切な業務です。

 ケルン日本文化会館で学ぶ現在の日本語学習者と、「KinderUni」(後述)で学ぶ未来の日本語学習者の様子を紹介しましょう。

ケルン日本文化会館の日本語講座

日本語講座の様子の写真
日本語講座の様子
「先生、質問があります!」

 ケルン日本文化会館は1969年に開設され、翌1970年には日本語講座が開講しました。日本語講座は2010年に開講40周年を迎えました。長い歴史の中で様々な学習者が日本語や日本文化を学び、また多くの先生方が効果的な教え方を工夫したりカリキュラムを再検討したりしてきました。その蓄積の上で会館の日本語講座は、初級から上級までの日本語が学べる海外では数少ない日本語教育機関のひとつとして機能しています。

 社会人を対象とした日本語教育機関で、初級レベルが約7割、中級と上級レベルを合わせて約3割という学習者の割合も特筆に価します。入門レベルから日本語を始めて2年・3年と学習を続け、今では中級や上級クラスで勉強しているという受講生が多くいます。社会人が夜間講座でずっと勉強を続けていくのは大変だと思いますが、根気よく続ける多くの受講生がいるからこそ、初級から上級までの全てレベルでクラスが開講できるのです。

学習目標、教室活動、評価方法

 ところで、受講生はどうして日本語の勉強を始めようと思ったのでしょうか?日本語学習の目標や目的は何なのでしょうか?

 マンガやアニメが日本語学習の動機付けのひとつになっていることは、ケルンの日本語講座でも例外ではありません。武道をやっていて、それが日本語学習のきっかけになったという受講生もかなりいます。以前は、「マンガの日本語が読めるようになったらそれで良い」という人も時々いましたが、今ではほとんどいなくなりました。インターネットなどを通して動画を見る機会が増えたためか、妙にアニメ調の微妙な日本語を覚えてくる受講生も多くなり、休み時間に受講生同士が日本語で話していることもあります。アニメ日本語は別としても、やはり実践的なコミュニケーション能力を身につけたいと望む学習者が多くなったようです。

 日本国内で日本語を勉強するのと違い、ドイツで日本語を学ぶ学習者の目標は人それぞれで見えにくい部分もあります。身内や知り合いに日本人がいる受講生もいれば、教室以外では日本語を使う機会がほとんどない受講生もいます。学習目標も背景も一人ひとり異なるので、コース開始時には受講生のニーズ調査・分析を行い、なるべく個人個人のニーズに合った日本語教育ができるよう工夫しています。

 「学習目標」に合わせた「教室活動」が行われたら、何がどのくらいできるようになったのか正しく「評価」されなければなりません。「目標」「活動」「評価」は本来一本の線でつながっていなければならないのですが、それがなかなか難しいのも事実です。例えば、コミュニケーション能力を養う活動を行ったのに、知識の量を問うテストだけを行ったのでは、「活動」と「評価」がつながっているとは言えません。日本語講座では、この3つを一本の線で結べるよう様々な改善を行ってきました。

JF日本語教育スタンダードと日本語講座

 国際交流基金では今「JF日本語教育スタンダード」を開発しています。会館の日本語講座では、JF日本語教育スタンダードを試行する中で学習目標を「Can-do」の形で記述したり、目標達成のためのシラバスを作成・改訂したり、評価手法を開発したりしてきました。特に評価についてはまだまだ改善の余地はありますが、作文や口頭試験などで学習者からの発信(産出)を測るなど、学習目標と教室活動に合わせた評価ができるように工夫してきました。

 また、「自己評価」という考えを取り入れました。学習目標をどのくらい達成できたと見ているかを、コースの開始直後、中頃、コース修了直前に自分でチェックしてもらいます。そのチェックリストはポートフォリオに挟んでおいて、学習者がいつでも見られるようにしてあります。ポートフォリオは学習者が自分で管理します。これは、自分の学習は自分で管理するという「自律学習」の考えが基本になっています。

 これらの試みは常に未完成なので、まだまだ改善のための検討が必要です。

未来の日本語学習者を育てる-「ケルンこども大学」-

 「すし以外に日本の食べ物、知ってる人は?」「あひる(北京ダックのこと)!」「さめのスープ(ふかひれスープのこと)!」。実はこれ、ドイツ・ケルン市とその近郊に住む8歳から12歳までの子どもを対象とした催しもの「KinderUni(日本語に訳すと『子ども大学』)」の一場面なのです。

 「KinderUni」は、子どもたちの好奇心と探究心を育てようとケルン大学が主催で行っている地域の催しもので、様々な学術分野のワークショップや講義が子供向けに行われるというものです。このうちケルン日本文化会館の日本語講座は、日本や日本語をテーマにしたワークショップを開催しました。

 まず、ケルン大学の日本学の関係者が日本という国について映像を見せながら短い講義を行います。冒頭のやりとりはこの講義の中で出てきたもので、これは明らかに中国と日本を混同しています。子どもたちからこういった発言が出てくるということは、周りの大人たちも同じようなイメージを持っているということ。日本人が聞くとちょっとがっかりしてしまう答えなのですが、だからこそ海外で日本や日本語を教える意義があるのではないでしょうか。

うまく言えるかなの写真
うまく言えるかな?

 講義に続いて、子どもたちは3つのグループに分かれ、「折り紙」「文字」「日本語」の3つのワークショップを受けます。一つのワークショップは20分。この短い時間の中で「日本語」のワークショップでは、「こんにちは」「さようなら」などの日本語のあいさつと簡単な自己紹介を学びます。まずは普通の授業でやるように絵カードを見せながらリピート。そして友達同士で練習。慣れてきたら、立って、おじぎをしながら練習します。おそらく生まれて初めてするおじぎなのでしょうか、ぎこちなさが残ります。でも一生懸命です。ワークショップの最後は、本当の日本人(日本語講座の講師とインターンの学生)を相手に力試しです。自己紹介がうまくできたら、講師の先生から「はなまる」がもらえます。恥ずかしがってなかなかチャレンジしない子もいますが、うまくできた子もできなかった子も、最後は皆いい笑顔で無事に大学を卒業しました。

 たった2時間の日本体験ですが、数年後にはひょっとしたらこの子たちのだれかが、今度は本当の大学生として日本語を学び始めるかもしれません。そして、日本語に興味を持ったきっかけがKinderUniであったら、こんなにうれしいことはないと思います。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
The Japan Cultural Institute in Cologne (The Japan Foundation)
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
ケルン日本文化会館は、国際交流基金が行なう日本語普及事業のドイツ語圏における拠点である。国際交流基金が開発を進めている「JF日本語教育スタンダード」を積極的に活用している。国際交流基金日本語上級専門家2名は、1)日本語講座運営、2)日本語教育アドバイザー業務の二つの業務を分担して行なっている。日本語講座は初級から上級まで9レベルに分かれており、15歳以上の学習者が熱心に日本語を学んでいる。学習者数は本コースのみで170~180名。
所在地 Universitaetsstr 98, 50674 Koeln, Germany
国際交流基金からの派遣者数 上級専門家:2名
日本語講座の所属学部、学科名称 該当しない
日本語講座の概要
沿革
講座(業務)開始年   1970年
国際交流基金からの派遣開始年 1985年
コース種別
初級5レベル、中級3レベル、上級1レベル
現地教授スタッフ
非常勤11名(うち非母語話者4名)
学生の履修状況
履修者の内訳   初級125名(70%)中級40名(23%)上級12名(7%)
学習の主な動機 日本文化・サブカルチャーに対する関心、教養として
卒業後の主な進路 該当しない
卒業時の平均的な
日本語能力レベル
日本語能力試験N4レベル
日本への留学人数 該当しない

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