世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) 『まるごと』現地化計画!! ―副教材制作とドイツ国内の期待―

国際交流基金ケルン日本文化会館
羽太 園・伊藤 秀明

『まるごと』授業風景の写真
『まるごと』授業風景

国際交流基金ケルン日本文化会館(以下、当館)では、日本語講座本コース(以下、本コース)、入門体験コース、テーマ別コース、文化体験講座など様々なレベル・ニーズに合わせた日本語講座を展開しています。その中でも当館の日本語講座の中心は年2回3ヶ月単位(4月~6月の夏学期と10月末~1月末の冬学期)で行われる本コースです。本コースは9レベル12クラスで構成されており、2013年4月現在、203名もの方々が本コースで日本語を学んでいます。そして、本コースでは2012年4月より「何ができるか」という言語熟達度でレベル設定をするため、国際交流基金開発のJF日本語教育スタンダード準拠教材『まるごと 日本のことばと文化』 i(以下、『まるごと』)への主教材の変更を開始しました。ゼロ初級のクラスから1学期ごと順次、『まるごと』を使用したクラスを拡大し、数年かけて本コースの初級クラスの使用教材を『まるごと』に移行する計画を進めています。

自主製作で『まるごと』授業を支援―ドイツ語圏でより使いやすく―

『まるごと』のコース終了後の学習者アンケートでは「写真や聴解がたくさんあって、楽しい!」、教師からも「『まるごと』へ移行する前のコースよりも聞いたり、話したりすることができるようになっている」と学習者・教師ともに好意的なフィードバックが多く返ってきています。しかし、既存のコースの教材を変えることは単に教材を変えるだけではうまくいかず、様々な点で工夫が必要です。そこで、当館が『まるごと』移行計画に際して行っている取り組みを少しご紹介したいと思います。

1つ目は自己評価表です。『まるごと』では各課の到達目標が「何ができるか」を記述したCan-do Statements(以下、Can-do)で示されています。そこで、毎回の授業後に学習内容について自己評価できるよう『まるごと』のCan-doチェックを1課ごとの「自己評価表」という形で作成しました。イラストも入れて、楽しく書き込みやすいデザインにしました。他機関の先生方からも、自己評価を取り入れる際に参考になるという声をいただいています。

2つ目は漢字です。非漢字圏であるドイツでは「漢字を学びたいから、日本語学習を始める」という方もいるほど漢字熱は非常に高いです。一方、ドイツの日本語学習者にとって文字学習の負担が大きいのも事実です。そこで、当館では漢字を書きたい学習者が自主的に楽しみながら『まるごと』の内容に合わせた漢字学習ができるように、『まるごと』のトピックに合わせた漢字練習帳を製作しました。

3つ目は文法解説書です。授業では課のCan-doに必要な文法を学びますが、学習意欲旺盛な学習者から「もっと日本語の文法について詳しく知りたい」との声が出たことから、国際交流基金マドリード日本文化センターが製作した『まるごと』文法解説書をドイツ語に翻訳し、ドイツ語圏の学習者にも文法解説書を利用してもらえるようにしました。

『まるごと』素材ページの写真
『まるごと』素材ページ

この自己評価表、漢字練習帳、文法解説書は現在、「A1 入門」「A2 初級1」レベルまで製作・翻訳しています。そして当館受講者だけに限らず、ドイツ語圏や世界中で『まるごと』を使用している・使用する予定の方々に利用・参考にして頂けるよう、当館HPの『まるごと』素材ページiiにて、いつでもダウンロードできるようにしています。

Can-doを具体化した教材への期待―ドイツで手に入る日を楽しみにしています―

当館の日本語講座内だけではなく、『まるごと』への期待はドイツ全土で広がっています。ドイツの各都市にはVolkshochschule(以下、VHS)と呼ばれる市民大学が点在しており、そこでは一般成人を対象とした日本語講座が開かれています。特にこのVHSの日本語教師は各VHSから要求されるヨーロッパ言語を主眼に置いた言語熟達度によるレベル設定を日本語にどう対応させるか、日々悩んでいることから到達目標がCan-doで示されている『まるごと』への期待は非常に大きいものがあります。そのため、VHSの日本語教師を対象とした教師研修会のテーマは常に「『まるごと』に関連するセッションを行ってほしい」との声が多く、ある時は『まるごと』の全体像を把握し、ある時は当館の『まるごと』を使用した授業のビデオを見るなど、2012年度はドイツの各地域を巡り、『まるごと』に関連したセッションだけでも計8回行いました。そして、研修会の後にはいつも「ドイツで手に入る日を楽しみにしています。」との温かいお言葉を頂くと同時に、ドイツでの『まるごと』への期待感をより一層強く感じています。

今後も当館では『まるごと』に限らず、様々な現場の声を聞かせて頂きながら、ドイツやドイツ近隣諸国の様々な形で日本語教育普及・支援への積極的な活動を行っていきたいと思います。

  1. i『まるごと 日本のことばと文化』に関しては、『まるごと』紹介ページ
    http://jfstandard.jp/language/ja/render.doを参照。
  2. ii国際交流基金ケルン日本文化会館『まるごと』素材ページ
    http://www.jki.de/japanische-sprache/marugoto.html
派遣先機関の情報
派遣先機関名称
The Japan Cultural Institute in Cologne (The Japan Foundation)
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
ケルン日本文化会館はドイツ語圏における日本語普及事業の拠点として、日本、日本語、日本文化の理解促進を目的に多様な活動を行っている。1970年から一般社会人対象の日本語講座を開講しており、現在ゼロ初級から上級まで約200名が日本語を学んでいる。通常の日本語コースだけでなく、日本文化体験コース、テーマ別コースなども開講し、様々なニーズに対応している。日本語講座運営の他に、研修会の企画・開催を通した教師支援、日本語能力試験などによる日本語学習者の支援、日本語教育に関する情報の収集と提供などを行っている。近年では地元機関と協力して行う各種催し物を通して新規学習者の発掘や広報にも力を入れている。
所在地 Universitaetsstr 98, 50674 Cologne, Germany
国際交流基金からの派遣者数 上級専門家:1名 専門家:1名
国際交流基金からの派遣開始年 1985年

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