世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) ケルン日本文化会館に集う人々

国際交流基金ケルン日本文化会館
羽太園・式部絢子

国際交流基金ケルン日本文化会館(以下、会館)が土曜日も開館し多様な講座展開を始めてから3年余。会館に集まる人々は、年齢も国籍も学習歴も興味も関心もどんどん広がりを見せています。今回は、会館の様々な講座に集う人々にスポットを当てて紹介します。

20~30代を中心とした本コース

まずは日本語本コースの紹介から。本コースは、初級から中上級まで9レベル、14クラス。受講生は20代~30代が全体の60%以上を占めていますが、10代から70代まで幅広い世代が日本語を学んでいます。土曜日のクラスが始まってからは特に高校生の姿が増えてきました。教室では世代を超えて活発に日本語が飛び交い、次第に仲間意識が芽生えていくようで、仲の良いクラスが目立ちます。学習動機では日本語や日本文化への興味とともに、「日本訪問」もかなり多く、実際に旅行や留学、ワーキングホリディなどで日本を訪れ、その時の写真や情報をfacebookなどで交換している人たちもいます。

日本語で広がる輪 ~しゃべりーれん~

日本語しゃべりーれんの写真
日本語しゃべりーれん

「しゃべりーれん」とは、日本語の「しゃべる」をドイツ語風に語尾変化させた造語で、毎月1回、土曜日の午後に日本語学習者と日本人が集まって日本語で会話をするという会です。じわじわと口コミで広がり、最近は遠方からの参加も含めて毎回総勢で60名近い参加者があります。

しゃべりーれんがなぜ人気を集めているのか知りたくて、昨年末に常連の人たちにアンケートと聞き取り調査をしてみました。その結果を見ると、日本語学習者の参加動機は、最初は日本語の上達を目的に参加していたものが、だんだん「人と知り合うこと」に変化しているようでした。「ありのままに受け入れられている気持ちのいい場所」「楽しくおしゃべりしながら、自分の世界を広げることができる」といったコメントもありました。また日本人側の参加動機としては、「熱心に日本語を学んでいるドイツ人」を見て感心し支援したいという気持ちになったり、「人脈が広がる。友人としてはもちろん、困った時に親身になって助けてくれる」といった声もあるようです。もちろん、日本語学習支援という面では、「ここは(日本語を)やり続ける意義を汲む井戸」と日本語を学ぶ動機となっているケースや、「わくわくして、疲れるけど、楽しい、おもしろい」と日本語を使う楽しさが感じられる点で貴重な場といえるでしょう。そして参加者みんなにとって「リラックスした楽しい土曜日を過ごせる場」であることは確かなようです。

2時間話しっぱなしで、「口が痛い」と言いながら、その後、場所を移しての二次会も習慣になっている様子。日本語を介したゆるやかなコミュニティは、ドイツ人、日本人関係なく、居心地の良い場として広がり続けています。

土曜講座を組み合わせてマイコース作り

土曜日には、しゃべりーれんの他、日本語に少しだけ触れてみたい人のための「入門体験講座」や、アニメ・マンガや、昔話、方言などを題材とする「テーマ別日本語」など、さまざまな講座が年間を通じて開催されています。こうした土曜講座を組み合わせて、マイコースを作ってしまう人もいます。例えば「入門体験講座を全部受けて、日本旅行の準備をする」という人。確かに「あいさつ」「文字」「数字と時間」「買い物」など入門体験講座で提供している7つのテーマの講座を受ければ、十分に日本でサバイバルできるでしょう。また、本コースには参加しないけれど土曜日のテーマ別講座やしゃべりーれんは欠かさないという「土曜日の常連」もいます。学び方は人それぞれ。これからもテーマや形態に工夫を凝らして、学び方がさらに広がるような講座を提供したいと考えています。

テーマの広がりが参加者の広がりへ~文化体験講座~

日本文化体験講座については、2012年のレポートでも紹介していますが、「ひな祭り」や「七夕」といった年中行事の他に、「温泉」「関西」といった新しいテーマの講座も始めました。年中行事の文化体験講座には、老若男女いろいろな参加者がありますが、やはり目立つのは子どもたちや家族連れ。最近では国際結婚でドイツ生まれのお子さんをお持ちのお母さんが「子どもに年中行事を体験させたい」と親子で来られることも。一方、「温泉」や「関西」といったちょっと毛色の変わったテーマの講座は大人が多く、日本の生活文化に関する知識をある程度持っている人も多いようです。ちなみに「関西」をテーマにした講座は、関西の歴史やコミュニケーションスタイル、京都、大阪、神戸の違いなどについて○×クイズやビデオなどで紹介した後、関西弁の会話や歌を体験し、最後にたこ焼き作りに挑戦するというもの。参加者には来日経験のある人や大学で日本学を専攻している人もいて、「もっと関西弁が習いたい」「もっと関西のことが知りたい」と、日本の新たな一面に興味をそそられた様子でした。

あらゆる層に人気なのは毎回ウェイティングが出る「手巻き寿司とおにぎり」の体験講座。ケルンの地元紙に紹介されたり、先日はラジオ番組の取材が入りました。番組では講師の解説や参加者のインタビューを通して「すし文化を楽しむドイツ人たちの姿」を伝えていました。会館のfacebookページでは、講座の様子をアップしています。ぜひ覗いてみてください。

満員御礼! 第1回夏祭り

第1回 夏祭りの写真
第1回夏祭りの写真

2013年度には、初めての会館夏祭りを開催しました。日頃のネットワークを活用して、折り紙や盆踊りのグループ、書道の先生、日本関連の書店などの協力を仰ぎ、ヨーヨー釣りや、浴衣の着付け、アニメ映画の上映、けん玉、おはじきといった日本の遊びなど、全館をあげて様々な出し物を用意して、日本の夏を満喫してもらいました。「日本的なものを何か身につけてきたら、小さいプレゼントを進呈」とポスターなどで呼びかけたので、みな袴をはいてきたり、割りばしを髪にさしてきたり、オリジナルな「日本」が会館にもあふれました。講座の受講者はもとより、「しゃべりーれん」の仲間たちや文化講座の参加者、また現地在住の日本人親子、日本ファンのお年寄り、ポスターに誘われてふらりと来た人など、普段会館ですれ違っている人たちや、会館に足を運んだことのない人が一同に集った夏の一日となりました。その数なんと800人近く。もちろん今年も開催予定。これからも、ケルン日本文化会館は日本をキーワードに様々な人々が集う広場を目指します。乞うご期待!

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
The Japan Cultural Institute in Cologne (The Japan Foundation)
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
ケルン日本文化会館はドイツ語圏における日本語普及事業の拠点として、日本、日本語、日本文化の理解促進を目的に多様な活動を行っている。1970年から一般社会人対象の日本語講座を開講しており、現在ゼロ初級から上級まで約200名が日本語を学んでいる。通常の日本語コースだけでなく、日本文化体験コース、テーマ別コースなども開講し、様々なニーズに対応している。日本語講座運営の他に、研修会の企画・開催を通した教師支援、日本語能力試験などによる日本語学習者の支援、日本語教育に関する情報の収集と提供などを行っている。近年では地元機関と協力して行う各種催し物を通して新規学習者の発掘や広報にも力を入れている。
所在地 Universitaetsstr 98, 50674 Cologne, Germany
国際交流基金からの派遣者数 上級専門家:1名 専門家:1名
国際交流基金からの派遣開始年 1985年
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