世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) 高校生の日本語学習者が増加しています。

アイルランド教育省
榛葉 久美

アイルランドの日本語教育事情

EU/JapanYear2005の俳句コンテストで優秀賞をもらい、緊張した面持ちで林大使と一緒に記念撮影をする小学生の写真
EU/Japan Year 2005の俳句コンテストで優秀賞をもらい、緊張した面持ちで林大使と一緒に記念撮影をする小学生

 アイルランドでは国のリーダーシップにより、中等教育における日本語教育が始まりました。もちろん、まだ「本当に定着した」という所にまでは至っていませんが、それでも、現在では58校で日本語のプログラムが行われています。

 アイルランドでのセカンダリー・レベル(小学校後の6年間)における外国語教育といえば、従来は、圧倒的にフランス語、それに次いでドイツ語でした。
ところが、もっと他の外国語にも力をいれようという動きが大きくなり、2000年から、教育省のプロジェクトのひとつとして、ロシア語、日本語、スペイン語、イタリア語の外国語教育を強化していくことが決まりました。この推進組織が、Post Primary Languages Initiative(以下PPLIとする)です。

 PPLIは、これらの言語コースを開始したいという学校に、関連情報や必要経費補助を提供したり、または教師の再トレーニングや、教材づくりの支援をしてきました。特に日本語においては、新たに教師を雇うところから始まり、今では総合的な教科書開発も行われ、年毎に学習者数も増えてきています。

アドバイザーの仕事

アイルランドで活躍する日本語教師、滝下先生と小学生がおにぎり作りに挑戦している写真
アイルランドで活躍する日本語教師、滝下先生と小学生。おにぎり作りにも挑戦。

 私自身のこちらでの主な仕事は、このセカンダリー・レベルの日本語教育支援です。赴任してから行ったことはまず、高校修了試験(Leaving Certificate,以下LCとする)対策のワークショップです。これは、教師の方々からリクエストの多かったもので、特に口答試験に関しては、今まで不明な点も多かったようで、具体的な評価基準に関する情報や、その為の授業の工夫などを伝えたことで「大変役に立った」という評価を多くの参加者からいただきました。

 また、学校訪問をし、学校長や外国語のコーディネーターと直接会い、日本語教育に関する情報提供もしました。アイルランドの中等教育は全部で6年間あり、その4年目に、自分がどんなことに向いているのかをいろいろ試すことを目的としたトランジッション・イヤー(Transition Year,以下TYとする)が選択できるようになっているのですが、このTYでの日本語クラスは、必ずしも「日本語の言語能力を身につける」ことではなく、「日本文化を知る」ことに高いウエイトが置かれているのです。そこで、これを少しずつ日本語の言語習得に比重をおいたLCクラスに発展させていく、というのが私の仕事のひとつです。LCクラスとなると、学校側の責任もぐっと増す為、その為の情報提供はコース設立を大きく作用する、大きな鍵となります。

 この為に、ダブリンだけでなくコーク、ゴールウェイ、スライゴー、エニスなど各地の学校を訪問し学校ごとの報告書をまとめました。これはかなりの重労働でしたが、その分こちらも学校ごとの細かい事情が理解でき、また学校側も私に直接質問しながら理解を深めてくれたようで、第1回目の訪問としては、かなり効果があったように思います。これをきっかけに、各学校の日本語の先生方から、学校とのコミュニケーションがしやすくなったというコメントをいただき、また実際来年の新学期にむけてその成果がPPLIのオフィスに届いているのを目にすると、本当に訪問してよかったと思います。

 また、アイルランドの日本語教育を考える上で欠かせないのが、教員養成課程の問題です。
先に述べましたように、現在の日本語教師は、PPLIに雇われている為、他教科の教師とはいろいろな意味で雇用形態が違います。また、必ずしもこちらの教員資格を持っているわけではありません。しかし、長い目で見た場合、アイルランドの教員資格を持った人が日本語教師として活躍することが望ましく、その為にもアイルランド国内に日本語教員養成課程を持つ機関ができることが不可欠だと考えています。

 そこで教員養成を担っている大学のうち、トリニティー大学、コーク大学、国立ダブリン・シティー大学などの関係者と話し、日本語教師養成課程の道筋をつけることにも努めています。

アイルランドならではの面白さ

 アイルランドの第一言語は、英語、と言いたい所ですが、公式にはアイルランド語(ゲール語)なのです。こちらに来て驚いたのは、ガイドブックなどを読んで想像していた以上に、アイルランド語を目にする機会が多いことです。アイルランドの西のほうでは、人々が話しているのを聞くことも少なくありません。この国民のアイデンティティーを担うアイルランド語教育に、この国がどれほど真剣に取り組んでいるかということを目の当たりにする度に、自分自身の言語観を問われるような気がします。

 イギリスの長い支配下にあって、アイルランド語人口は減ってしまったのですが、政府の総力をあげた取り組みにより、今では、国民(3歳以上)の40パーセントは、アイルランド語を使えるというところまできています。

 また、さすがにヨーロッパだなと思うのは、複数言語を使える人が多いこと。欧州評議会が掲げる「母語プラス2言語」は、決して非現実的なものではない、と実感しています。でも、「その2言語の中に日本語が入るのか?」ということを考えると、答えはそう簡単ではありません。こちらの人にとっては日本製品との接触は多くても、日本に関するニュースや、日本語との接触は極々限られたものです。そういう中にあって、なおかつ日本語教育を重視する声に出会います。そういう人たちの期待にこたえられる日本語教育の道はどこにあるのか。この問いを心の隅に置きながら、今後の仕事をしていきたいと思っています。

 今後は、日本語教師へのワークショップだけでなく、次の2つのプログラムも展開していく予定です。
ひとつめは、現職の他教科の教師の中には、JETプログラムで英語教師として日本に滞在したことがある人が少なからずいます。この人達にトランジッション・イヤーの日本語クラスを行うためのノウハウを伝授していくこと。

 また、もうひとつは、アイルランドの校長先生向けのプログラム。この世代にとっては、まだ日本語教育はピンとこないものです。ですから、日本語教育が世界的にどのような広がりをもっているのかを始め、コース開設の為の具体的な方法、教材や支援の情報を提供しながら、理解を深めてもらえるよう努めていくつもりです。

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
  及び業務内容
中等レベルの日本語教育支援を中心に、アイルランドの日本語教育全体へのサポートを行う。また、大学機関における日本語教員養成課程成立の為に必要な条件を探り、それに役立つ情報提供を行う。
ロ.派遣先機関名称 アイルランド教育省
Department of Education and Science
ハ.所在地 CG08c, Henry Grattan Bldg., SALIS Centre, Dublin City University, Glasnevin, Dublin 9, Ireland
ニ.国際交流基金派遣者数 専門家:1名

ページトップへ戻る