世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) アイルランドの中等教育における日本語教育の充実に向けて

アイルランド教育省
榛葉 久美

求められる教師研修の場

研修の様子(2007年5月19日)の写真
研修の様子(2007年5月19日)

 2000年に始まったPost Primary Languages Initiative(以下PPLIと略す:詳細については、2006年度の「世界の日本語教育の現場から(アイルランド)」もご参照ください。)のプロジェクトも7年を経て、もうすぐ第2ラウンドに入ろうとしています。
 PPLIとは、スペイン語、イタリア語、ロシア語、日本語の4つの外国語を中等教育において支援するアイルランド教育科学省のプロジェクトです。開始当初こそ教師一人一人の経験も浅く、教材・教授法についての知識も少なかったものの、今では10人あまりの人が学校から信頼される教師として活躍しています。
 この中で日本語教育専門家に求められるのは、3~6年の経験を蓄積した先生方に、より良い授業を展開する方法を考えてもらうきっかけを提供していくことです。その為には教師研修は欠かせません。そこで私は、主催者として、あるいは講師としてここ1年ほどの間に以下のような研修を開催してきました。

’06 4月 1日(土) 榛葉久美「LC Writing の評価基準について」
’06 4月 1日(土) 榛葉久美「LC Writing の評価基準について」
黒田いずみ「基金海外邦人研修での成果発表」
’06 4月29日(土) 来嶋洋美 (国際交流基金ロンドン日本語センター 日本語教育専門家)
「日本文化をとりいれた日本語指導」
’06 10月14日(土) 榛葉久美 「TVコマーシャルをもっと授業に!」
’06 11月10日(土) 榛葉久美 「高校修了試験の口答試験について」のワークショップ
’06 11月18日(土) 榛葉久美 「元JET経験者の為の日本語教育ワークショップ」
’06 11月18日(土) オヘイガン統子/カルメン・ミニョン(ともにDublin City 大学の先生)
「テレビゲームの翻訳」
’06 1月20日(土) 若林陽子(PPLI教師)、滝下まり子(PPLI教師)
「基金海外邦人研修での成果発表」
’07 5月12日(土) 榛葉久美 「元JET経験者の為の日本語教育ワークショップ」
’07 5月19日(土) 飯塚晶子(国際交流基金ロンドン日本語センター 日本語教育専門アドバイザー)
「生徒もいきいき!教室ですぐに使える日本語アクティビティー」

アイルランドのシラバスに沿った日本語教科書の作製

教科書「NihongoKantan」の写真
教科書「Nihongo Kantan

 アイルランドの中等教育にあわせた教材としては、これまでに、「Katakana Kantan」「Hiragana Kantan」という文字教材が2冊出版されていますが、高校修了試験のシラバスに沿った日本語教科書の出版が長い間待たれ、2007年夏、完成することになりました。「Nihongo Kantan」が完成することの意味は、教師や学習者にとってはもちろんのこと、日本語のクラスを開設するか否か等の決定権をもつ学校長へのアピールとしても大変大きいものです。これからは、この教科書の補助教材の開発、及び教科書の使い方の研修などが、課題となるでしょう。
 実は、この教科書は、2006年の夏には完成している予定でした。なぜこんなに難航したかというと、それは、やはり海外で教科書をつくることによる、思いがけない困難にぶつかったからです。
 まず、執筆者(日本語非母語話者)は一人だけで、国際交流基金からの日本語教育専門家がくるまでは、サポートがほとんどないというような過酷な執筆環境。そして、レイアウト・デザインなどの担当者は日本語が一切わからない。つまり、原稿を渡されてもそのうちのどれがタイトルで、どれが本文なのか、全然区別がつかないのです。そして、イラストレーター。日本に行ったこともない人に、日本の家の玄関を描いてもらう、ということがどんなに大変なことか、、。そして、使用していたソフトのルビ対応が悪く、一つ一つ手作業をしなければならなかったこと。上記に挙げられる気の遠くなるような作業、修正を乗り越え、やっと印刷所に回してやっとホッとしたのもつかの間、印刷所から刷り上ってきた本を見てびっくり! ルビが漢字と重なっていたり、ところどころ文字が消えていたり、ひとつの単語の途中で色が変わり、虹のようにカラフルになっていたり。そうかと思えば、なぜか、微妙に縮んでいるページも。パッとみただけでは、気がつかないのですが、よく見ていくと、ミスだらけ。ひとつの問題を解決すると次の新たな問題が出てきたりして、一体本当にこの教科書は完成するのだろうか、と不安になることもしばしばでした。加えて印刷所は、アルファベット以外の文字の扱いに慣れていなかったのです。
 やがて、「印刷関係の技術に詳しい専門家」に聞いて調べていくうちに、致命的なことも明らかになりました。このような300ページにもなる教科書の場合、プロなら絶対使わないフォントがこの「Nihongo Kantan」には使われてしまっていたということ。このフォントをすべて別のフォントに変えるということは、すべての文章の行間の調整、レイアウトなどを一からやり直すことを意味する、つまり、デザイナーの何か月分かの仕事が無駄になるということがわかったのでした。
 それでもなんとか、完成まであと一息というところまで漕ぎ着けました。
 「Nihongo Kantan」を、どこかで見かけましたら、この苦難のエピソードをチラリと思い出しながら、どうぞお手に取ってみて下さい。

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
  及び業務内容
中等レベルの日本語教育支援を中心に、アイルランドの日本語教育全体へのサポートを行う。また、大学機関における日本語教員養成課程成立の為に必要な条件を探り、それに役立つ情報提供を行う。
ロ.派遣先機関名称 アイルランド教育省
Department of Education and Science
ハ.所在地 CG08c, Henry Grattan Bldg., SALIS Centre, Dublin City University, Glasnevin, Dublin 9, Ireland
ニ.国際交流基金派遣者数 専門家:1名

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