世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) 「つなげる仕事」「つながる仕事」

アイルランド教育・技能省
近藤 裕美子

アイルランドは、よく北海道に似ていると言われます。北海道よりやや小さい国土(約7万平方キロメートル)に、北海道よりやや少ない数の人(450万人)が住んでいます。

そこで二十名あまりの教師が、アイルランド各地の三十数校の高校で日本語を教えています。

アイルランド教育・技能省のPost Primary Languages Initiative(以下PPLIに派遣されている日本語アドバイザーの業務の一つとして、これらの機関を訪問し、授業見学、アドバイジングなどを通して日本語教師の方々をサポートすることがあります。日本語を学ぶ生徒たちのため日本語教師の方々のために何ができるか考えながら、アイルランド国内を回っています。

教師研修でのグループワークの様子の写真
教師研修でのグループワークの様子

しかしながら、日本語教師の方々への支援は、個別のサポートだけでは十分ではありません。そこで年に2回、教師研修を実施し、日本語教師が実践のアイディアを発表・共有したり、グループワークを通して教え方に関する意見を交換し、自分の教育実践を振り返ったりする機会を作っています。また「他の先生たちの授業を見学したい」という多くの希望に応えるため、学校訪問の際に、授業を撮影し、担当教師と話し合って「おすすめの活動」の部分を一部とりあげ、それを他の教師たちと共有できるようにするプロジェクトも少しずつ進めています。このように、アイルランド国内を回りながら行っている「つなげる仕事」は日本語アドバイザーの業務の一つです。

PPLIのホームページの写真
<More Languages More Options> PPLIのホームページ

一方、「つながる仕事」もあります。所属先のPPLIは、日本語だけでなく、フランス語、ドイツ語、スペイン語、イタリア語、ロシア語、Sign Language(手話)も含めた外国語の中等教育段階での普及・発展を支援している機関です。したがって、日本語アドバイザーは、National Coordinatorや他の言語の教師やアドバイザーと意見交換をしたり、協力しあったりしながら、時には日本語関連事業という枠を越えて業務を進めています。

例えば、今後予定されている中等教育前期(中学)のカリキュラム大改革に伴って新しく始まるコース(科目)に合わせて、全外国語で共有できる共通のカリキュラムや到達目標の枠組み作りを進めています。そのほか、日本語教師研修に他言語のアドバイザーがオブザーバーとして参加したり、他言語の教師研修会で直接法での学習経験をしてもらうため日本語アドバイザーが日本語の授業を行ったりするなど、教師研修でも相互に協力しています。

 アドバイザー業務の魅力の一つは、このように、語学教育・学習に携わる人たちとつながったり、つなげたりしながら、その関わり合いの中で様々なことにチャレンジできることだと思います。これからも北海道ほどの広さのアイルランド国内を回りながら、つなげる仕事、つながる仕事を進めて行きたいと思います。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称 アイルランド教育・技能省 (ポスト・プライマリー・ランゲージ・イニシアティブ)
Department of Education and Skills, Ireland (PPLI: Post-Primary Languages Initiative)
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
派遣先機関、Post Primary Languages Initiativeは、教育技術省のもとNational Development Planの予算で2000年に設立された。中等教育機関で外国語として教えられていたフランス語とドイツ語に加え、新たに4つの外国語(日本語、イタリア語、スペイン語、ロシア語)の促進を目的に始まったが、現在ではフランス語・ドイツ語、Sign Languageも加えた現代語教育発展のための支援を行っている。国際交流基金派遣専門家は日本語教育アドバイザーとして高校の日本語教育支援を中心に、アイルランドの日本語教育全般のサポートを行っている。
所在地 Adviser's office: School of Applied Languages and Intercultural Studies, Dublin City University, Dublin 9
PPLI office: Marino Institute of Education, Dublin 9
国際交流基金からの派遣者数 上級専門家:1名
国際交流基金からの派遣開始年 2005年~2007年、 2008年~
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