世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)日本語でアイルランドと日本を結ぶお手伝い

アイルランド教育・技能省
尾崎裕子

私は2014年7月にアイルランド教育・技能省のPost-Primary Languages Initiative(以下、「PPLI」という。)に赴任してきました。PPLIはアイルランドの中等教育(中高一貫で6年間)における外国語教育を推進する機関で、日本語を含めた現代語教育の普及・発展のための施策を行っているところです。ここで私は日本語アドバイザーとして高校の日本語教師の支援をしています。

Ursuline CollegeのBrenda先生の授業風景の写真
Ursuline CollegeBrenda先生の授業風景

アイルランドの日本語学習者は2,800人あまり(2012年国際交流基金調査による。)ですが、その8割以上が高校生です。PPLIが統括している高校の日本語教師は21名おり、この先生方が全国の30余りの学校で教えています。その学校の多くが首都ダブリンと第2の都市コークに集中していますが、他の主要な都市から遠く離れた町で孤軍奮闘している先生もいます。

私は、アイルランドの各地域の学校を訪問し、日本語の授業を見て、先生方にフィードバックをしています。特に、経験の浅い先生には継続的に授業見学をして、授業改善のためのアドバイスをしますが、ベテランの先生の授業を見て参考になるところは他の先生にシェアしたりして、全体のレベルアップも図ります。

教師研修(2015年2月21日)の写真
教師研修の様子(2015年2月21日)

PPLIが主催して高校の日本語教師のための研修会も実施します。2015年1月にコークで、2月にはダブリンでワークショップをしました。2月のワークショップでは、Leaving Certificate(高校修了試験。以下、「LC」という。中等教育の最後の2年間にLCのための科目を学習する。)の日本語の教え方をテーマに取り上げました。LCコース終了時に求められる生徒の日本語コミュニケーション力と学習・教育上の問題点や課題について、私がLC日本語クラスの授業を見たり、ダブリン・シティ大学でLC日本語既習組の1年生のクラスを実際に教えたりして考えたことを参加者にお話ししたり、参加者が自分のクラスでどんな実践をしているかをグループで話しあったり、クラスで使える活動案を作ったりしました。このPPLIの研修は高校の日本語教師が集まれる貴重な機会でもあり、参加した先生方は活発に情報交換や意見交換をしていました。アイルランドは、日本語教師の数も少ないので、研修もこぢんまりとアットホームな雰囲気でできるのがいいところだと思います。

教師の日本語能力向上のための日本語Upskillingコースも2014年11月〜2015年5月の期間、PPLIで実施しました。参加者は4名だけでしたが、参加者が自律的に日本語リソースを自分で探して日本語学習を続けられるようになることを目標に、WEB日本語学習ツールやリソースを紹介し、先生方の日本文化理解と日本語力の両方を伸ばせるような題材をとりあげて授業をしました。高校の先生は多忙で、日本語の学習に時間を割くのは大変ですが、参加者は全員真剣に、かつ楽しみながら日本語学習に取り組んでくれ、私もやりがいがありました。

日本語アドバイザーは、アイルランドの日本語教育全体のサポートをすることも求められており、アイルランド日本語教師会(The Japanese Teachers of Ireland。以下、「JLTI」という。)の活動の支援も重要な仕事です。JLTI主催のセミナーで講師をしたり、JLTIと日本大使館共催の日本語弁論大会で審査員をしたりします。また、上述のようにダブリン・シティ大学で授業をしたり、他の大学にも日本語コースのカリキュラムの相談や試験の評価などで協力したりしています。大学の日本語教育にも関わることで中等教育での日本語教育と高等教育での日本語教育の全体的な状況がわかり、両者のよりよい繋がりについて方策を考えることができます。

アイルランドは日本とは地理的にも遠く、一般的にはどちらも互いの国のことをよく知らず、心理的な距離も遠いような気がします。しかし、一方で私はアイルランドで1年近く生活する間に、日本についての好印象を語ってくれる実に多くのふつうのアイルランド人に出会いました。そして日本への熱い思いを抱いて日本語を学んでいる多くの若者の存在も知りました。日本での3週間の短期留学ですっかり日本が気に入り、将来医者になって日本で働きたいという女子高生や、日本語学習数カ月で非常にシンプルな日本語を使って落語の「寿限無」のパロディ動画を作った高校生グループ、日本のポップカルチャーが大好きな大学生達。彼らはこれからもきっと日本語を学び、仕事や趣味の世界で日本語を駆使して、アイルランドと日本の二つの国の距離を縮めていってくれることでしょう。日本語アドバイザーの仕事を通してそのような希望にあふれた日本語学習者や彼らを支え励ます日本語教師のお手伝いをできることは本当に幸せなことだと思います。私自身がアイルランドについてもっと学びながら、この国でより広く楽しく日本語が学ばれるように、力を尽くしていきたいと思っています。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称 アイルランド教育・技能省 ポスト・プライマリー・ランゲージ・イニシアティブ
Department of Education and Skills, Ireland (PPLI: Post-Primary Languages Initiative)
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
Post-Primary Languages Initiativeは、教育技術省(現在の教育・技能省)のもとNational Development Planの予算で2000年に設立された。中等教育機関で外国語として教えられていたフランス語とドイツ語に加え、新たに4つの外国語(日本語、イタリア語、スペイン語、ロシア語)の促進を目的に始まったが、現在ではフランス語、ドイツ語、Sign Languageも加えた現代語教育発展のために支援を行っている。国際交流基金日本語専門家は日本語教育アドバイザーとして高校の日本語教育支援を中心に、アイルランドの日本語教育全般のサポートを行っている。
所在地 Post-Primary Languages Initiative, Marino Insitute of Education, Griffith Avenue, Dublin 9, Ireland
国際交流基金からの派遣者数 上級専門家:1名
国際交流基金からの派遣開始年 2005年~2007年、 2008年~

ページトップへ戻る