世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) 転換期の日本語講座(2002)

国際交流基金ローマ日本文化会館
黒羽千佳子

イタリアの日本語教育

 イタリアにおける日本語教育は古くは19世紀にさかのぼり、以降、大学が常に日本語学習の中心であり、それは今でも変わらない。海外日本語教育機関調査1998年の統計数値では学習者約3500名のうち、7割以上を大学生が占めており、調査年以降も地方のいくつかの大学で日本語講座が新規に開講されている。学校教育以外では、筆者の派遣先のローマ日本文化会館(日本・国際交流基金)のほか、イタリア・アフリカ東洋研究所(イタリア外務省所管。ローマ支部、ミラノ支部、ラヴェンナ支部)といった公的機関で学ぶ学習者が4分の3を占めている。民間で日本語を教える機関は最近多少は増えているようだが、他国に比べて数は少なくレベルも高いとは言えない。

 ローマ日本文化会館日本語講座の受講者も、1年次入学者(01-02年度は30名)の半数以上が市内のローマ大学で日本語を専攻する学生である。バブル経済崩壊前の90年代には実利目的の学習希望者が増えた時期があり、その勢いがなくなった今、希望者の減少が予想されたが、ここにきて新たな希望者層が増えてきた。それはマンガやテレビゲームなどから日本や日本語に興味を持った中高校生の若年層である。当講座の受講資格は15歳以上となっているが、実際、今年度の受講生にも6名の高校生がいる。

ローマ日本文化会館日本語講座

 当講座は、中級までの一貫したカリキュラムを持つ4年間(週2回、各3時間)のコースと、中級修了者を対象にした1年間のコース(週1回、2時間、継続可)、そして初級のみの1年間のコース(週2回、2時間、継続不可)を有する。それぞれ10月中旬に開講し、年末年始の休み等をはさんで6月中旬に終わる。4年間コースは中間・期末試験の合格によって進級していくシステムで、1年修了時に日本語能力試験4級合格程度、2年修了時に3級合格程度、3年、4年はそれ以上の日本語運用能力の育成を目指している。

 午後3時半開始という時間的制約の上に、週2回、各3時間の授業とそこで課される自宅学習課題の多さ、という学習量を考えると、4年間コースは(主専攻か否か、高校生か大学生かに関わらず)学生以外の受講を事実上難しくしている。しかしながら、日本語学習の機会を広く一般に提供しつつ、同時にしっかりとした日本語の使い手を育てるというのが当講座の主旨であるのならば、これまでの歴史と伝統を反映して今に至っている現状を尊重しなければならない部分もあるのだろう。しかし、そう言いながらも、主教材に「日本語初歩」という今となっては相当古いと言わざるを得ない教科書を使っていて、その変更がスムーズには進まないことなど、着任直後の「新参者」にとっては歯がゆさを感じることもある。

 さて、こうした背景の中で、ローマ日本文化会館に派遣された日本語教育専門家の任務は、当会館の日本語講座主任として講座の運営にあたり、質の高い授業を提供することである。当講座は現在大きな転換期にある。過去15年以上にわたり、現地の常勤主任講師と派遣専門家が両輪となって講座を運営してきたが、00-01年度から派遣専門家がただ一人の常勤となって主任講師を務めることとなった。このことは、今後、派遣専門家の交代に伴って2、3年ごとに講座の主任講師がかわることを意味する。一方で非常勤講師のほとんどはイタリア人を配偶者にもってローマ及びその近郊で生活する日本語母語話者であり、長く当講座で授業を受け持つことが予定されている。現地の事情を何も知らずにやってきて、把握したかと思うと去っていく主任講師、その変化の連続をマイナスではなくプラスに受け止められるよう、非常勤講師に「基礎体力」をつけてもらいたいと考えてこの1年間を過ごしてきた。まだ教授経験の浅い教師もいるが、00-01年度の前任者にひきつづき、01-02年度も、教案指導や授業のアイデアの提供など、指導や助言をおこなった。同じ文法項目について前任者とは違うアプローチを提示したり、授業に必要な情報のありかやその入手方法を示したり、といったことを意識的に行なったつもりである。経験の浅い教師にとっては、異なる言語教育観をもつ複数の主任講師と接していくことは戸惑いでもあるだろうが、将来的にはそれが大きな財産になっていくのではないかと期待している。

以上

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
  及び業務内容
 イタリアでの日本語教育は高等教育機関がほとんどで、日本語専攻の大学生以外はなかなか日本語を習うことができない。その中で、ローマ日本文化会館の運営する日本語講座は、一般社会人や日本語専攻ではない大学生や高校生にも日本語学習の機会を提供している数少ない日本語教育機関のひとつであるとともに、大学以外で中級以上の日本語を学べる国内唯一の機関である。同講座は初級から中級まで4年間一貫したカリキュラムを導入しており、イタリア日本語教育界においてモデル校としての役割も果たしている。専門家は同講座の授業を担当するとともに、現地教師に対し、授業のアイデア提供、教案指導、助言等を行っている。
ロ.派遣先機関名称
The Japan Cultural Institute in Roma
ハ.所在地 Via Antonio Gramsci, 74 00197 Roma ITALIA
ニ.国際交流基金派遣者数 専門家:1名
ホ.日本語講座の所属学部、
  学科名称
言語芸術学部 外国語学科 日本語プログラム
ヘ.日本語講座の概要
(イ)沿革
(1)講座(業務)開始年   1962年
(2)専門家・青年教師派遣開始年 1982年
(ロ)コース種別
日本語教育専攻、日本文学専攻、日本語学専攻
(ハ)現地教授スタッフ
常勤1名(うち邦人1名)、非常勤5名(うち邦人3名)
(ニ)学生の履修状況
(1) 履修者の内訳   各学年で20名程度
(2) 学習の主な動機 興味、日系企業への就職希望
(3) 卒業後の主な進路 ガイド、翻訳
(4) 卒業時の平均的な
日本語能力レベル
日本語能力試験2級~3級の間
(5) 日本への留学人数 毎年1~2名

ページトップへ戻る