世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) 転換期の日本語講座(2003)

国際交流基金ローマ日本文化会館
黒羽千佳子

イタリアの日本語教育

 イタリアにおける日本語教育は古く19世紀にさかのぼり、それ以来、欧州の他国と同じく常に大学が日本語学習の中心であり、それは現在も変わらない。
 現在のイタリアでは入学試験のない大学がほとんどで、授業登録できる学生数には基本的に制限がない。その結果、大学によっては、日本語の授業の開講時には大教室が一杯になるほどの盛況になるということである。言語学習の環境としては歓迎できる状況とは言えないが、日本や日本語に興味を持つ学生数の多さという点からは、喜ぶべきことでもあるだろう。
 学校教育以外では、筆者の派遣先のローマ日本文化会館(日本・国際交流基金)のほか、イタリア・アジア・アフリカ東洋研究所(イタリア外務省所管)といった公的機関で日本語を教えているが、最近は民間の機関も増えてきている。

ローマ日本文化会館日本語講座

 当講座は、中級までの連続したカリキュラムを持つ4年間(週2回、各3時間)のコースと、中級修了者を対象にした1年間のコース(週1回、2時間、継続可)、そして初級のみの1年間のコース(週2回、2時間、継続不可)を有する。それぞれ10月中旬に開講し、6月中旬に終わる。4年間コースは中間・期末試験の合格によって進級していくシステムで、1年修了時に日本語能力試験4級合格程度、2年修了時に3級合格程度の日本語力を目標とし、実際、受験した学生はほぼ全員が合格している。3年、4年はそれ以上の日本語運用能力の養成を目指しているが、2級合格はそれほどやさしいことではない。

 バブル経済崩壊前には実利目的の受講希望者が増えた時期があった。その勢いがなくなった近年、希望者の減少が予想されたが、ここにきて新たな希望者層が増えてきた。それはマンガやテレビゲームなどから日本や日本語に興味を持った中高校生の若年層である。当講座の受講資格は15歳以上となっているが、実際、今年度の受講生にも6名の高校生がいる。また、イタリア以外の外国籍の学生も数名いる。

 そうしたこともあってか、従来は1年次入学者の半数以上が市内のローマ大学で日本語を専攻する学生であったのが、今年度(02-03年度)は大きく様変わりした。70名の希望者から選抜された20名の入学生のうち、日本語を専攻する学生は2名で、他学部の学生、高校生、社会人など、多様な編成となった。

 午後3時半開始という時間的制約の上に、週2回各3時間の授業と、そこで課される自宅学習課題の多さを考えると、4年間コースは(主専攻か否か、高校生か大学生かに関わらず)学生以外の受講を事実上難しくしている。しかしながら、日本語学習の機会を広く一般に提供しつつ、同時に、しっかりとした日本語の使い手を育てるというのが当講座の主旨であるのならば、これまでの歴史を反映してここに至っている現状を尊重しなければならない点もあるのだろう。当講座だけで日本語を学ぶ受講生の場合は、規定の4年間で修了するのは非常に困難であるが、それでも非常な努力の結果、それを実現した受講生の姿を見ることは、関わってきた教師にとって大きな喜びであり、また、他の受講生にとって大きな目標でもある。

 こうした背景の中で、日本語教育専門家の主な任務は、当会館の日本語講座主任として、質の高い授業を提供することである。当講座は現在大きな転換期にある。過去15年以上にわたり、現地の常勤主任講師と派遣専門家が両輪となって講座を運営してきたが、00-01年度から派遣専門家がただ一人の常勤となって主任講師を務めることとなった。これは、今後、派遣専門家の交代に伴って2、3年ごとに講座の主任講師がかわっていくことを意味する。一方で非常勤講師のほとんどはイタリア人を配偶者に持ってローマ及びその近郊で生活する日本語母語話者であり、長く当講座で授業を受け持つことが期待されている。現地の事情を知らずにやってきて、把握したかと思うと去っていく主任講師、その変化の連続をマイナスではなくプラスに受け止められるよう、非常勤講師に「基礎体力」をつけてもらいたいと考えて任期を過ごしてきた。教授経験の浅い教師もいるが、前任者にひきつづき、教案指導や授業のアイデアの提供など、指導や助言を行なった。同じ文法項目について前任者とは違うアプローチを提示したり、授業に必要な情報のありかやその入手方法を示したり、といったことを意ッ的に行なったつもりである。経験の浅い教師にとっては、異なる言語教育観をもつ複数の主任講師と接していくことは戸惑いでもあるだろうが、将来的にはそれが大きな財産になっていくのではないかと期待している。

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
  及び業務内容
イタリアの日本語教育機関は高等教育がほとんどで、日本語専攻の大学生以外はなかなか日本語学習の機会がない。その中で、ローマ日本文化会館の運営する日本語講座は、日本語専攻ではない大学生や、高校生、一般社会人にも日本語学習の機会を提供しており、同時に、大学以外で中級以上の日本語を学べる数少ない機関でもある。本講座は初級から中級まで4年間の連続したコースと、中級修了者のための継続可能な1年コース、及び、1年限りの初心者コースを設けている。専門家は、講座の授業を担当するとともに、現地教師に対し、授業のアイデア提供、教案指導、助言等を行っている。
ロ.派遣先機関名称
The Japanese Cultural Institute in Rome
ハ.所在地 Via Antonio Gramsci, 74 00197 Roma ITALIA
ニ.国際交流基金派遣者数 専門家:1名
ホ.日本語講座の所属学部、
  学科名称
日本語講座
ヘ.日本語講座の概要
(イ)沿革
(1)講座(業務)開始年   1964年
(2)専門家・青年教師派遣開始年 1986年
(ロ)コース種別
4年間コース(初級、中級)、1年間コース(総合、会話)
(ハ)現地教授スタッフ
常勤1名(うち邦人1名)、非常勤6名(うち邦人6名)
(ニ)学生の履修状況
(1) 履修者の内訳   4年間コース各学年約20名、総合14名、会話24名
(2) 学習の主な動機 日本への興味、大学の専攻言語のさらなる上達、等
(3) 卒業後の主な進路 把握されていない
(4) 卒業時の平均的な
日本語能力レベル
日本語能力試験3級合格以上、2級合格未満
(5) 日本への留学人数 把握されていない

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