世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) イタリアの日本語教育の現場から -この3年をふり返って-

ローマ日本文化会館
衣笠 秀子

 日本で「イタリアブーム」が続いているように、ここイタリアでは「日本人気」が年々高まっています。日本食レストランに人が集まり、日本文化に対するポジティブなイメージが浸透し、漢字や日本語への憧れが若者を中心として広がっています。

日本語講座

 私が勤務するローマ日本文化会館日本語講座にも「漫画、アニメ、Jポップ」への興味から日本語学習を始めた学生が大勢います。彼らの興味は日本語学習の期間が長くなるにつれ、日本文化全般、文学、日本社会など、興味のある分野へと変化していきます。
日本語講座は入門から中上級まで6レベルのクラスがあり、100人ほどの受講生が学んでいます。私の仕事は講座運営、日本語授業の担当、そして非常勤講師と協力して、より充実したコース作りをしていくことです。受講生はまじめで勉強熱心。嬉々として口頭練習を楽しみ、日本人顔負けのきれいな漢字を書きます。

「和伊和伊しゃべりあーも」のようすの写真
「和伊和伊しゃべりあーも」のようす

 海外で勉強する学習者の一番の問題は、一生懸命勉強してもアウトプットする場が限られることです。ローマでも教室外で日本語を使うチャンスがあまりなく、話すのは苦手だという学生が多いのです。そこで、2006年1月から日本人と気軽に話す会「わいわい(和伊和伊)しゃべりあーも」をスタートさせました。月1回、毎回20人ほどが会館のサロンに集まって、おしゃべりを楽しみます。「日本語」を媒介とした日伊文化交流の輪が広がっています。

 もうひとつ、日本語を使う機会として「スピーチ発表」をここ3年、学期末に行ってきました。もともと自己表現の得意なイタリア人、「聞かせるコツ」を熟知しており、すばらしいスピーチを仕上げます。練習の時はつっかえながらなのに、本番は堂々と完璧にこなします。クラスメートの拍手を受け、1年間の学習成果はひとつの「作品」になって、彼らに自信を与えます。このスピーチ原稿はホームページの「受講生の作文」コーナーに掲載しています。ご興味のある方は下記のサイトをご覧下さいますように。

 日本語講座の役割のひとつに「中上級レベルの上質な授業の提供」があります。2005年1月から、日本語能力試験2級レベル以上の学習者を対象に「小説・新聞講読」「映画視聴」「通訳法」などの短期講座を年4回ほど開いています。有能な日本語の使い手を育成する意味で、非常に大切なコースです。上級を目指して日本語をさらに磨こうとする受講生の意欲は高く、担当講師である私にとっても手ごたえのある仕事となっています。

教師支援

高校教師セミナー風景の写真
高校教師セミナー風景

 講座運営の他に、教師支援に関わる仕事もあります。今年は、北イタリア、ロンバルディア州の高校で教える先生を対象としたセミナーに3回出講しました。同州では3年前から30余りの高校で、日本語が課外授業として教えられています。その担当教師のため、コースデザイン、教授法に関する講義のほか、教師自身による模擬授業で具体的な授業活動を考える、などの研修をしました。イタリア人・日本人教師、合わせて20数名が課題について熱心に話し合う姿を見ていると、中等教育機関における日本語教育の発展がここから始まっていくように思われ、頼もしく、心強く感じます。

 2005年5月にはギリシャ日本語教師会セミナーへの出講があり、アテネ周辺の大学、語学学校で教える先生方と出会うチャンスに恵まれました。飛行機で2時間足らずの隣国で、教授法に関する多くの質問を受けながら、イタリア派遣の専門家がすべき仕事がここにもあったと強く実感しました。再度の出講要請があり、2007年2月に2回目のセミナーが予定されています。

 2003年12月から立ち上げた「勉強会」も教師支援の一環です。日本語講座の非常勤講師から「聴解・会話」をどう教えたらいいかと問われ、それに答える形で始まりましたが、会を重ねるうちに、ローマ在住の大学講師も加わり、評価法、日本語教育文法など毎回、活発な話し合いが行われる研鑽の場になってきました。2006年からは参加者による実践報告も行われ、今後はミニ研究会として変わっていくことが期待されます。全11回の勉強会が参加者の意識に何か変化を起こす「きっかけ」になったとしたら、コーディネーターとしてうれしく思います。

日本語教育実態調査・コンサルティング

 着任以来2年半に亘って、イタリアの高等教育機関における日本語教育実態把握調査を実施してきました。25の教育機関(大学、公的教育機関)の教員50名余りから聞き取りを行い、日本語プログラム、学生、留学状況などについて様々な情報を得ました。この調査を続けるうちに、訪問先の教員から多くの質問や相談を受けるようになり、その対応策として「日本語教育相談(コンサルティング)」を開設しました。今では月平均3、4件、教授法や教科書に関する相談が寄せられます。私のポストが日本語教育情報ソースとして機能し、「会館に聞いてみよう」という発想が定着しつつあるのは喜ばしいことです。

 このように、ローマ日本文化会館に派遣される日本語教師はイタリアの日本語教育に関わるさまざまな業務に携わります。純粋な学生、熱心な先生たち、そして、たくさんの感動に出会える仕事です。

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
  及び業務内容
ローマ日本文化会館は日本文化紹介、文化交流などを幅広く実施しており、日本語講座運営はその重要事業の一つに位置づけられている。専門家は日本語講座の運営、授業担当、非常勤講師の指導、教材作成を行うほか、高校日本語コースなどの教師セミナー、日本語教師のための勉強会・コンサルティングの実施、また日本語学習者と日本人との交流会運営などを担当する。2004~2006年はイタリアの高等教育機関(大学を中心とする)における日本語教育実態把握調査を行った。
ロ.派遣先機関名称
Institute of Japanese Culture in Rome
ハ.所在地 Via Antonio Gramsci 74, 00197 Roma, ITALIA
ニ.国際交流基金派遣者数 専門家:1名
ホ.日本語講座の所属学部、
  学科名称
ヘ.日本語講座の概要
(イ)沿革
(1)講座(業務)開始年   1964年
(2)専門家・ジュニア専門家派遣開始年 1986年
(ロ)コース種別
一般社会人対象
(ハ)現地教授スタッフ
常勤:1名(専門家)、非常勤:6名(全員邦人)
(ニ)学生の履修状況
(1) 履修者の内訳   初級I・II:中級I・II各20名入門:24名、中級:10名前後
(2) 学習の主な動機 「日本への憧れ」「趣味」「就職に有利」「留学」
(3) 卒業後の主な進路 コース修了のみ、卒業はない
(4) 卒業時の平均的な
日本語能力レベル
日本語能力試験2級を受験可能な程度。
(5) 日本への留学人数 数名

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