世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) 国際交流基金 ローマ日本文化会館の日本語教育専門家

ローマ日本文化会館
高崎三千代

 日本人はかなりイタリアが好きなようですが、さてその逆は?ヨーロッパから見れば日本はやっぱり違いの多い国。それでも、いえ、だからこそ好奇心を持ってくれる人々がいます。そういう人々が増えるといいなと日夜がんばっているのがローマ日本文化会館なのでして、日本語教育専門家(以下「専門家」と略す)はその事業の一つである日本語講座に携わっています。

ローマ日本文化会館 日本語講座

4年目のクラス、最後の授業が終わった記念の写真
4年目のクラス、最後の授業が終わって記念に。
試験が終わって、これからバレーボールをする生徒たちの写真
試験も終わったし、これからバレーボールします。

 当会館の日本語講座は、大学以外で入門から中・上級まで日本語が学べる数少ない語学機関として機能しています。現在、約140名が在籍し、8名の講師と1名の助手が勤務しています。平日の午後には「基本コース」、平日夜間と土曜の午前には「入門コース」と「中上級コース」が開講されています。
 「基本コース」は、4年間かけて初心者を日本語能力試験2級レベルまで到達させるのを目標にしており、履修者の多くは学生です。近年は、日本での交換留学を終えて中級に編入する人が増えてきました。彼らの書いた作文は以下の当会館のウェブ・サイトで読むことができます(http://www.jfroma.it/jp/corsi/composizioni.htm)。
 一方2006年開講の「入門コース」は、平素忙しくて参加できなった人たち待望のコース。オトナな履修者は、短文作りでもありふれたものでなくウィットに富んだ文がお得意です。例えば「頭の上にめがねを忘れました」など、いかがでしょう?「中・上級コース」は全12時間程度の単発コースで、2006年度には「日本語通訳の基礎」、「現代日本文学- 村上春樹を中心に-」などが開講されました。講座の紹介は『月刊日本語』2007年2月号もご覧下さい。

専門家の仕事 会館で 1

 専門家の主な仕事は日本語講座の授業と運営に関する実務です。新規コース企画、年間スケジュール管理、講座概要の改訂、教科書の採択、シラバス作成、講師の勤務管理、講師会の召集、受講者募集と選抜・入学手続き、教科書発注、器材・備品の保守と整備、日本人との交流会「わいわい・しゃべりあーも(2004年の本欄を参照)」の実施…。私一人で全てできないので人に依頼する仕事もありますが、タイミングよく頼むには全部の実務を頭に入れておく必要があります。時に応じて、「頭」を授業用と運営用で切り替えるわけです。日本語学校の教務兼任・専任講師をイメージしてください。

専門家の仕事 会館で 2

 海外での日本語教育がその地の人に発展的に継続されるためには、今、講座の現地講師(主に現地在住の日本人講師)を育成しておくことが大切です。先生方の多くがイタリアに来てから教え始められたので、新人はもちろん、成長を望む全ての先生にとって研修は大切です。今年度は「中級教科書の分析とシラバス作成」のテーマで9時間かけて研修会を行う予定です。
 2006年度には、新規採用の先生と3年目の先生、計4人に、それぞれの毎回の授業計画を2回ずつ検討、ほとんどの授業を観察しフィードバックの時間を持ちました。地味で時間を取る仕事ですが当の先生も一所懸命です。教案へのフィードバックは1回分につき1時間前後かけますが、顔を突き合わせられないときや授業の日に地方から来られる先生とは電話で話します。「月曜の22時45分からはskype(インターネットを利用した電話)」が習慣化した先生もあり、黙認してくださったご家族に感謝です。
 中堅の先生方には、コース・シラバス(授業内容。予定表のようなもの)を立てていただきました。長期の見込みを立てて教授項目を構成するためです。また、意欲の高い先生方には、自分自身の授業を録画して内省の時間を持ったり、国際交流基金の制作番組『エリンが挑戦!にほんごできます。』の授業活用例と結果を尋ねたりと、個別対応しています。学習者を成長に導く教師は、自らの成長も止めない人でしょう。専門家の仕事の大きい部分は、このような先生方の成長をサポートすることです。

専門家の仕事 会館外で

 日常の業務は当講座への専念ですが、近郊の大学に会館行事のご案内をして地道な交流も続けています。教師研修会や前出「わいわい・しゃべりあーも」などです。
 また外部からの問い合わせに応じることもあります。興味深いことに、イタリア在留の日本人の方から日本語教師養成講座の問い合わせがくるようになりました。
 ローマ以外の都市や、あるいは近隣諸国に出向くこともあります。イタリア北部の「ロンバルディア州高校日本語教師会」の集まりでは『エリン(前出)』の紹介と、初級指導の困難点を復習しました。「ギリシャ・アテネ日本語教師会」では、視聴覚教材の探し方と使い方、初級から中級への移行期の指導、教室分析の方法などのトピックで二日間のワークショップを実施しました(http://www.gr.emb-japan.go.jp/portal/jp/culture/news.htm)。
 どちらの会の先生方も熱意に溢れているので、頻繁に会えない専門家への期待はとても高いものがあります。
 さらに海外の現場で気づくのは、教師として成長し続ける先生方が、「現在の日本語教育はどのような理論に基づいているのか」、また「どのような実践が潮流であるか」にも関心を持っているということです。このような先生方に、理論と実践のリンクや海外での日本語教育研究の可能性を例示できれば、現場はさらに希望ある場所となるでしょう。このような側面でも専門家の務めを果たしていければと思っています。

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
  及び業務内容
ローマ日本文化会館は日本文化紹介、文化交流などを幅広く実施しており、日本語講座運営はその重要事業の一つに位置づけられている。専門家は日本語講座の運営、授業担当、非常勤講師の指導、教材作成を行うほか、高校日本語コースなどの教師セミナー、日本語教師のための勉強会・コンサルティングの実施、また日本語学習者と日本人との交流会運営などを担当する。2004~2006年はイタリアの高等教育機関(大学を中心とする)における日本語教育実態把握調査を行った。
ロ.派遣先機関名称
Institute of Japanese Culture in Rome
ハ.所在地 Via Antonio Gramsci 74, 00197 Roma, ITALIA
ニ.国際交流基金派遣者数 専門家:1名
ホ.日本語講座の所属学部、
  学科名称
 
ヘ.日本語講座の概要
(イ)沿革
(1)講座(業務)開始年   1964年
(2)専門家・ジュニア専門家派遣開始年 1986年
(ロ)コース種別
一般社会人対象
(ハ)現地教授スタッフ
常勤:1名(専門家)、非常勤:7名(全員邦人)
(ニ)学生の履修状況
(1) 履修者の内訳   初級I・II:計43名、中級I・II:計35名 入門:71名、単発中・上級:計26名
(2) 学習の主な動機 「日本への好奇心」「趣味」「就職に有利」「留学」
(3) 卒業後の主な進路 コース修了のみ、卒業はない
(4) 卒業時の平均的な
日本語能力レベル
日本語能力試験2級を受験可能な程度。
(5) 日本への留学人数 2006年度の公費は0。私費は不明。

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