世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) 古くて新しい日本語講座

国際交流基金ローマ日本文化会館
高崎三千代

 国際交流基金ローマ日本文化会館の建物は1962年の建築ですが、平安様式を取り入れた特徴ある和風現代建築は、貴族や領主の館が多々残るローマでも異彩を放っています。内装も木材や布や障子が多用され、装飾にも日本風のモチーフが見られます。このような環境で日本語を学ぶと、ある種のイマージョン効果が生まれるのか、受講者はいまどきの日本人よりも慎み深かったりします。

 さて、当館の日本語講座は、14歳から65歳まで(上限なし)の日本語学習希望者が初級から中上級まで一貫して学べる、イタリアで数少ない社会人教育・生涯教育の場です。

 実は、イマージョン効果は日本風施設の影響だけでなく、20年以上に亘る教授法の特徴「直接法」にあると思われますが、近年のヨーロッパ言語教育の潮流をにらんで、欧州共通参照枠(以下、CEFR)をコースの運営において具体化しようと新しい取り組みを行っているところです。

 ところで、CEFRとは、欧州評議会というところが「ヨーロッパ共通で使いましょう」と提唱した言語教育と評価の方法のガイドラインです。多言語使用が特別なことではないヨーロッパで、共通の指標があるのは確かに便利です。たとえば「私の英語はこのレベルだけどイタリア語はこのレベル。よし、今年はイタリア語をがんばろう!」と自分で比べて考えられますし、履歴書に「CEFRで○○レベル」と書けばEU内のどこに行っても通用します。また、CEFRで大切なのは、言語能力を知識の高さだけでなく実際に「聞く、話す、読む、書く」ことができる技能の達成度を重視するという考え方です。

ビジターを判定員に「ディベート本番」の写真
ビジターを判定員に「ディベート本番」

 このCEFRを受けて、講座では日本人ボランティアに参加していただく日本語会話の会「しゃべりあーも」や「ビジターセッション」で具体化を進めています。海外では教室以外での日本語使用がどうしても限られていますが、本番にこそ力を発揮するイタリア人学習者にとって、教室でのバーチャルな会話練習ではなく、実際に日本人と話すことができる「日本語で何々できる-Can-Do活動-」は、課題にチャレンジできるよい機会です。協力してくださる日本人ボランティアに感謝です。

 次に学習評価について。会館では、初級と中級の最終試験合格者に修了書を発行していますが、2007年度の修了生には、「Can-Do Statement」の達成度を基にCEFRを参照した証明書を個人別に発行しました。また、コースの最初に、授業で取り組む作文や日本語の新聞、日本語プレゼン用パワーポイント等が、自分の学習の成果物として『言語ポートフォリオ』に保存するものだと意識させます。そのおかげか、提出物のレベルは向上したように思います。2008年度からは、年度当初に欧州評議会のインターネットサイトから『言語パスポート』をダウンロードする方法を紹介しました。

 さて、日本語教育専門家(以下、専門家)の仕事は、良質の日本語講座を提供することの他に、日本語教育支援を必要とする人や機関に各種教師研修を行ったり、相談に応じたりすることもあります。

Show Me Boardを使った漢字の時間の写真
Show Me Boardを使った漢字の時間

 ローマ日本文化会館では、2008年度に4回の教師を対象とした研修会を行いました。テーマは『日本語教師のためのワード、エクセル活用法』『初級レベルの楽しい活動』『試験問題の見直しと改善』などです。第3回からは、意欲的な日本語教師から自身の関心領域の研究についての中間発表を行ってもらっています。

 イタリア北部では、ロンバルディア州日本語教師会が、新しく「さくらネットワーク」のメンバーになりました。またギリシャにも意欲的な教師会があります。日頃、教師研修の機会が限られるこれらの教師会と相談して、需要の高い講義・ワークショップを行うのも専門家の仕事です。

 今後の課題を2点挙げますと、まず会館の講座運営について。2009年3月、「JF日本語教育スタンダード(以下、JFスタンダード)」の中間発表がなされました。これはCEFRとほぼ照合するもので、JFスタンダードを使って、講座のCan-Do活動も継続できそうです。次のステップは、ビジターセッションだけでなく平常の授業でも行っているCan-Do活動をレベルごとにリスト化する作業、つまり会館版「Can-Do Statement」の作成を進めていくこと、それにJFスタンダードとCEFRと当コースの三点の照合作業です。

 次に、教師研修を通じた日本語教育ネットワークについて。2010年から実施される新日本語能力試験は、当然日本語教育関係者の関心のあるところなので、その情報を広く提供すること、加えて「新試験で求められる日本語能力を養成するには」といった研修への期待が寄せられると考えています。

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
  及び業務内容
ローマ日本文化会館は日本文化紹介、文化交流などを幅広く実施しており、日本語講座運営はその重要事業の一つに位置づけられている。専門家は日本語講座のコーディネート、授業担当、非常勤講師の育成、公開の研修会、授業内外での日本人との交流促進を行う。そのほか、欧州日本語教師研修会(フランス・アルザス)、イタリア・ロンバルディア州高校日本語研修会など国外・国内の研修会に出講する。
ロ.派遣先機関名称
Institute of Japanese Culture in Rome
ハ.所在地 Via Antonio Gramsci 74, 00197 Roma, ITALIA
ニ.国際交流基金派遣者数 専門家1名
ホ.日本語教育専門家派遣開始年 1986年

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