世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) 日本語講座の二つの大きな変化

国際交流基金ローマ日本文化会館
室屋春光

 ローマ日本文化会館の日本語講座は毎年10月上旬に新学期がはじまり6月中旬の修了式で終わります。2010-2011年度の日本語講座では、二つの大きい変化がありました。

 一つ目は、総合コースの四つのレベル(初級I・IIと中級I・II)の授業にCEFR/JF日本語教育スタンダードを導入したことです。

 CEFR というのは、Common European Framework of Reference for Languages(ヨーロッパ言語共通参照枠)の略で、2001年に欧州評議会が発表しました。CEFRは「複言語主義に基づき、ヨーロッパの言語教育のシラバス、カリキュラムのガイドライン、試験、教科書、等々の向上のために、一般的基盤を与えることを目的とした、ヨーロッパの言語教育・学習の場で共有される枠組み(framework)」であると説明されています。いろいろな言語が使用されている欧州域内で、言語教育・言語学習に透明性と一貫性をもたらし、言語的・文化的多様性を保護し発展させ、域内で使用されている言語をよりよく知ることによって人の移動、相互理解、協力を推進することがその目的となっています。

 JF日本語教育スタンダードは、国際交流基金がCEFRの考え方を基礎とし「相互理解のための日本語」という理念のもとで、「日本語の教え方、学び方、学習成果の評価のし方を考えるためのツール」として開発し、2010年に発表されました。JF日本語教育スタンダードによって、学習者は「日本語で何がどれだけできるかという熟達度がわかり」、また教師はJF日本語教育スタンダードを「コースデザイン、教材開発、試験作成などに活用」できます。当会館ではJFNKSと略称しています。

 当会館の日本語講座では、学習者が欧州域内のイタリアに在住して日本語を学習しているという点を考慮し、またJF日本語教育スタンダードそのものがCEFRに基づいて開発されたものであることから、この二つを融合してCEFR/JFNKSという形で導入しました。CEFRもJF日本語教育スタンダードも、学習者が学習している言語を使ってどのような課題をどのぐらい達成できるのかを自律的にモニターし評価することを重要視しています。当会館の日本語講座でも学生のみなさんがそれぞれ日本語の学習、そしてそのほかの第二言語の学習を自律的に進めていけるようになることを願っています。ただ、正直なところイタリアはCEFRそのものの普及が欧州の他の地域、例えばドイツやフランスなどに比べて遅れているようで、学生たちの多くもCEFR/JFNKSにはなかなか慣れ親しみにくいと感じているようなので、私たちの日本語講座でも長い目で見ながらじっくり腰をすえてやっていくつもりでいます。

自己評価チェックリストとランゲージパスポートの写真
自己評価チェックリストとランゲージパスポート

 二つの変化のうちのもう一つは、各教室にコンピュータとプロジェクタが設置され、パワーポイントやマルチメディアを利用した授業が可能になったことです。スマートボード(電子黒板)が設置されているような環境に比べれば、コンピュータとプロジェクタは最先端の器材とは言えないかもしれませんが、このコンビの導入によって授業で使うことができるようになったリソースは飛躍的に増加し、授業の質も大いに向上しました。

 例えば新出語彙の導入でも、それまではA3やA4のサイズの絵カードを手に持っていたのと比べると、色彩豊かな写真を大きく拡大してスクリーンに示すことで学習者により強いインパクトを与えることができます。また、新しい文型を導入したりドリルをしたりする場合にも、パワーポイントのアニメーション効果機能を利用することによりテキストを動的に提示することが可能で、より視覚的な学習効果が期待できます。

パワーポイントを使った授業風景の写真
パワーポイントを使った授業風景

 そのほかにも、音声ファイル、動画ファイル、画像ファイルなどのマルチメディアリソースをコンピュータ上で統合利用することにより、従来のCD/DVDプレイヤーやビデオプレイヤーなどの操作時間が大幅に削減できるだけでなく、インターネット上からテキストや動画などの生教材を直接入手して使用することも非常に容易になりました。生教材はそこで使用されている言語が真正なものであるだけに、初級のレベルでは逆効果になってしまうこともあって注意が必要ですが、学習者の学習動機を高めるうえでは非常に有効です。

 コンピュータとプロジェクタの各教室への設置による利点はほかにもいろいろとありますが、利点ばかりではなく問題となった点もありました。それは、授業を担当している先生方にとって教案・教材準備の面でこれまで以上の負担となってしまったという点です。ただ、これは生みの苦しみとも言うべきもので、2年目以降は、以前よりも負担は軽くなるものと思います。

 そのほかに、2010-2011年度には上級通年コース、平日午前の入門コース、ミニ文化コースなどの新規コースの開設という変化もありました。2011年3月には東日本大震災が発生し日本の将来もその軌道はこれまでとは大きく異なっていくことと思います。また、世界中いたるところで隣国中国の中国語人気が高まりを見せてもいます。そのような状況の中で日本語教育に対するニーズも絶えず変化していくことでしょう。ローマ日本文化会館の日本語講座もそうしたニーズの変化への対応を怠らないようにしていきたいと思っています。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
Institute of Japanese Culture in Rome
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
ローマ日本文化会館は日本文化紹介、文化交流などを幅広く実施しており、日本語講座運営はその重要事業の一つに位置づけられている。イタリアの日本語教育機関は高等教育がほとんどである中で、ローマ日本文化会館の運営する日本語講座は、日本語専攻ではない大学生や、高校生、一般社会人にも日本語学習の機会を提供している。専門家は日本語講座のコーディネート、授業担当、講師の育成、研修会、授業内外での日本人との交流促進を行う。そのほかに、専門家の業務としては、イタリア国内の日本語教育関係者のネットワーク形成支援、国外・国内の研修会への出講などもある。
所在地 Via Antonio Gramsci, 74, Roma, 00197, Italia
国際交流基金からの派遣者数 上級専門家:1名、指導助手:1名
国際交流基金からの派遣開始年 1986年

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