世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) きっかけはいろいろ -文化日本語講座-

国際交流基金ローマ日本文化会館
三矢 真由美

ヨーロッパでは漢字をファッションとしてTシャツに書いたり、タトゥーとして入れたりしている若者をよく見かけます。また、日本語はわからないけど、好きなアニメの主題歌は歌えるという人もいます。こういった好奇心や憧れがきっかけとなって日本との深いつながりが生まれることもあるのです。

ローマ日本文化会館では、日本の文化に触れながら簡単な日本語が学べる「文化日本語講座」を開講しています。この講座の目的は、これまで日本や日本語に縁のなかった人たちにも私たちの国や言語、文化に興味を持ってもらうことです。そこで、日本語を勉強したことがない人にも日本語を学んでもらえるよう定型表現や語彙という形で日本語学習を取り入れること、気軽に参加できるよう1~2回(1回2時間)で完結すること、そして知識として知るだけではなく実際に体験することを特徴とした講座内容にしています。これまで「漢字と書道」、「和食で日本語」、「お茶で日本語」、「旅行の日本語」を開講してきましたが、今回はその中から「和食で日本語」と「漢字と書道」をご紹介します。

「和食で日本語」

「和食で日本語」はしの持ち方の写真
「和食で日本語」はしの持ち方

「和食で日本語」では、まず、日本でよく食べられる食材や料理、食事のマナー、支払方法などについてクイズ形式で学んでいきます。さらに、おはしの使い方を実際におはしと豆を使って練習します。次に、食材やメニューの名前、「~をください」、「ごちそうさま」などレストランで使える表現を学習し、簡単な会話練習をします。ここまで習ったら今度は実際に和食レストランへ行って和食を楽しみます。イタリアでも和食は人気があり、今では和食を食べることはそれほど珍しいことではなくなりました。しかし実際に日本語を使って食べたいものを注文し、様々な作法の意味を知った上で食べると、いつもの食事も一味違って感じられるのではないでしょうか。

「漢字と書道」

「漢字と書道」書く前に描くの写真
「漢字と書道」書く前に描く

「漢字と書道」は、漢字のしくみについて理解した後、自分の好きな漢字を筆で書いてみるというコースです。毎回一つテーマを決めて行っていますが、2013年春の講座では象形文字に焦点を当てました。まず講師が漢字についてその起源などをごく簡単に説明します。それから筆の基本的な使い方を練習します。次に、講師が示す事物を受講生が自分の想像力を使って描いてみます。「では『魚』を描いてください」、「あっ、辞書を持っている人、辞書で調べないで。イマジネーションを働かせて描いてみて」。一瞬受講生は戸惑いますが、そこは想像力豊かなイタリア人のこと。すぐに個性豊かな「魚」がたくさん登場します。続いて講師が甲骨文字の「魚」と現在使われている「魚」を比較させながら筆で書いていきます。すると受講生の中から「ああ…!」という驚きの声があがります。このようにして、月、日、目、雨、羊などの漢字を紹介していき、最後に各自が一番気に入った漢字を講師のお手本を見ながら書いてコースを終えました。

近年、学習者や学習環境の多様化に伴い、言語学習や文化学習に対する考え方が変化しつつあります。一昔前は「日本語は『あいうえお』から勉強するもの。話す、書く、聞く、読むの4技能をバランスよく習得していくもの」という考え方がありました。また文化学習に関しては、授業の余った時間に紹介程度に触れられるという扱われ方が多かったように思います。しかし現在では、言語は自分の興味や必要に応じて、好きなだけ、好きなやり方で学べばよいという考え方に変わってきています。文化に関しても、言語と同じぐらい重要であると認識されるようになりました。漢字だけを勉強したい人には漢字だけのコース、旅行で少しだけ日本語を使ってみたい人には観光情報とセットになった旅行日本語コース、日本の最新のファッションや音楽に興味がある人には若者文化コース、様々な選択肢があっていいはずです。「かっこいい」、「興味本位で」、「なんとなく」…きっかけはいろいろでいいのです。この文化日本語講座を通してたくさんの人たちが自分の好きな日本に出会ってくれればと願っています。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
The Japan Cultural Institute in Rome (The Japan Foundation)
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
ローマ日本文化会館は1962年、政府による海外初の日本文化会館として開館、日本語講座は1964年に開講された。以来、文化芸術交流、海外における日本語教育、日本研究・知的交流を3つの柱として様々な事業を実施。イタリアの日本語教育機関は高等教育がほとんどである中で、ローマ日本文化会館の日本語講座は、高校生や一般社会人にも日本語学習の機会を提供し、現在200名以上が日本語を勉強している。日本語講座の運営の他に、イタリア国内外での研修会を通した教師支援、ネットワーク形成支援、日本語能力試験などによる学習者支援、日本語教育事情の情報収集、地元団体が主催する催し物への出展・協力などにも力を入れている。
所在地 Via Antonio Gramsci, 74, Roma, 00197, Italia
国際交流基金からの派遣者数 上級専門家:1名、指導助手:1名
国際交流基金からの派遣開始年 1986年
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