世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) 日本語母語話者と非母語話者の合同研修会

ローマ日本文化会館
三矢真由美

日本語非母語話者教師が研修に望むものとは?

国際交流基金ローマ日本文化会館では、日本語講座運営の他に日本語教師や日本語教師になりたい方を対象に定期的に教師研修会を開催しています。このような研修会に参加してくださる方の大半は日本語を母語とする人たち、いわゆる日本語母語話者です。しかし現在イタリアには154人の日本語教師がおり(国際交流基金『海外の日本語教育の現状 2012年度日本語教育機関調査より』)、その中には日本語を母語としない先生(日本語非母語話者教師)も少なからずいるはずです。そのような先生方にももっと気軽に研修会に参加してほしいという思いがあり、以前非母語話者の先生を対象に教師研修に求めるものを調べたことがあります。すると次のような意見が出てきました。「日本語を教えるスキルは伸ばしたい。でも自分の日本語もブラッシュアップしたい。同時にできる研修会があればいい」。それまで「日本語の先生なのだから教師研修に求めるものは教授スキルの向上に違いない。」と思い込んでいた私にとってこのような意見はとても衝撃的でした。日本語非母語話者教師が、日本語の先生でありながら学習者でもあり続けるのだという当たり前の事実をあらためて認識した出来事でした。それでは日本語母語話者と非母語話者どちらも参加でき、お互いが学び合える教師研修ができないか、しかも非母語話者の先生にとって日本語のブラッシュアップになるような研修ができないか…いろいろ考えた末に思いついたのが教師研修と日本語ブラッシュアップコースをいっしょにしてしまおうということでした。それが今回ご紹介する「誤用から学ぶ日本語の文法」というワークショップです。これは日本語学習者が実際に犯した誤用を直していくことで日本語の文法について考えてみるという内容のワークショップで、日本語母語話者教師にとっては学習者がつまずきやすいところを教えてもらえるという利点があり、非母語話者教師にとっては普段なかなか指摘してもらえない自分の日本語の誤用を直してもらえ、日本語のブラッシュアップになるという利点があります。つまり日本語母語話者教師と非母語話者教師のどちらもお互いから得るもののあるワークショップです。主な対象者は現役日本語教師ですが、今回のワークショップは日本語を今まで教えたことがない日本人の方にも広く参加を呼びかけました。日本語教師がやっている仕事を知ってもらうと同時に自分の母語を客観的に見るいい機会になると考えたからです。こちらの狙い通り、当日は現役日本語教師、日本語教師志望者、学生、日本人補習校の先生など様々な方々がワークショップに足を運んでくださいました。中でも参加者の約3分の1が日本語を母語としない人たちだったのは、それを狙っていたとはいえうれしい驚きでした。

ワークショップ「誤用から学ぶ日本語の文法」

ワークショップではまず参加者に日本語の誤用例を集めたハンドアウトを渡し、誤用を直してもらいました。また現役日本語教師には直したところを学習者にどう説明するかまで考えてもらいました。この作業は個別にやってもらいました。個別作業にしたのは、各自が自分のレベルに合った課題に取り組めるようにするためです。非母語話者は自分が直せる誤用だけを見つけて直す、母語話者は自分が説明できる誤用だけ説明する、経験の浅い先生は学習者がよくする典型的な間違いを直せばいい、ベテランの先生であればもう少し説明の難しい誤用も説明してみる、という具合に、各自が自分のレベルに合ったものをできる範囲でやればいいというふうにしたのです。個別に直したところで今度はグループのメンバー同士で答えをチェックしてもらいました。非母語話者は、誤用をどう直したかをチェックします。母語話者の現役教師には、誤用をどう直し、それを学習者にどう説明するかについても意見交換してもらいました。そして最後に参加者全体で答えを共有するという流れにしました。日本語母語話者であれば明らかに誤りであるところは難なく指摘できますが、なぜ誤りなのかを学習者にわかるように説明するのはそれほど簡単ではありません。逆に学習者として日本語を勉強したことがある非母語話者のほうがうまく説明できるものもあります。ベテランの日本語教師でもどう説明したらいいのか頭を抱えるような誤りもあり、和気藹々としたなかにも活発な議論が交わされました。

日本語母語話者教師、非母語話者教師、それぞれ得意なところは違いますが、お互いがそれぞれのいいところから学び合い、それを日々の授業実践に反映させていけることができれば授業はますます充実したものとなるでしょう。そのような学びと交流の機会をこれからも提供していければと思っています。

真剣に講義に耳を傾ける参加者の写真
真剣に講義に耳を傾ける参加者

日本語は難しい…日本人にも!の写真
日本語は難しい…日本人にも!

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
The Japan Cultural Institute in Rome (The Japan Foundation)
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
ローマ日本文化会館は1962年、政府による海外初の日本文化会館として開館、日本語講座は1964年に開講された。以来、文化芸術交流、海外における日本語教育、日本研究・知的交流を3つの柱として様々な事業を実施。イタリアの日本語教育機関は高等教育がほとんどである中で、ローマ日本文化会館の日本語講座は、高校生や一般社会人にも日本語学習の機会を提供し、年間延べ500名程度が日本語を勉強している。日本語講座の運営の他に、イタリア国内外での研修会を通した教師支援、ネットワーク形成支援、日本語能力試験などによる学習者支援、日本語教育事情の情報収集、地元団体が主催する催し物への出展・協力などにも力を入れている。
所在地 Via Antonio Gramsci, 74, Roma, 00197, Italy
国際交流基金からの派遣者数 上級専門家1名、指導助手1名
国際交流基金からの派遣開始年 1986年

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