世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) これからの日本語教育に向けて

ローマ日本文化会館
大谷英樹

昨年のミラノ万博では連日のように日本館の前に長蛇の列ができ、日本や日本文化に対する当地の人々の関心の高さをうかがい知ることができる良い機会となりました。そして今年は「日伊国交150周年」にあたり、ローマ日本文化会館でも様々なイベントが企画されています。5月には秋篠宮殿下・妃殿下もイタリアを公式訪問され、限られた時間ではありましたが当館にもお越し下さいました。

JF日本語講座

文化日本語講座「漢字と書道」受講生の作品の画像
文化日本語講座「漢字と書道」受講生の作品

当館JF日本語講座は幅広い年齢層を対象に、より多くの方々に日本語や日本文化に興味を持って頂けるよう様々なコース編成を目指しています。毎年10月から始まる当講座は、午後の「総合コース」、夜間の「夜間コース」、土曜の「土曜コース」を3つの柱とし、学習者が自分の都合にあわせて日本語学習を進められるようになっています。特に希望者の多い入門クラス(夜間1、土曜1)については、それぞれ2クラスを開講していく予定です。さらに使用テキストも入門レベルから中級レベルまで全て『まるごと』に統一され、学期が変わる時のコース変更などにも柔軟に対応できるようになります。

また、日本語講座以外にも単発講座として「漢字と書道」「旅行の日本語」といった「文化日本語講座」を定期的に行ない、日本事情の紹介を行ないながら簡単な日本語を学ぶといったコースもあります。

当地の日本語教育を支える人材の育成

日本語教師養成講座の画像
日本語教師養成講座

JF日本語講座の規模が拡大していくとともに、日々の授業を担当する講師も今後さらに増員していく必要があります。一方で、イタリアの高等教育機関では日本語教育を専門とした教師養成課程のようなものがないため、基礎的な勉強ができる機会が限られています。そのため、日本語教育の理論と実践を学ぶ研修会などに対する需要は高く、専門家のアドバイザー業務の中でも教師研修は主要な位置を占めています。そこで今年6月には日本語教育に関心のある方々を対象に、当館にて「日本語教師養成講座」を開講し、日本語教育について広く知ってもらう機会を設けるようにしました。いざ募集を開始してみると、予想を大きく上回る25名の方が参加を希望され、教師研修に対する期待の大きさを改めて実感しています。

日本語教育の今後

当地では日本語学習への潜在的な需要はあるものの、人材、教材等が不足している、あるいは周囲に日本語学習の環境が全くないなどといった理由から、日本語コースを設置したくともどのようにしたらよいのか分からない、といったご相談が専門家に寄せられることも少なくありません。特に近年では、中等教育での日本語コース導入、在外邦人家庭の子供に対する継承語としての日本語教育などが課題となってきており、多角的な見地で当地の日本語教育を支援する必要性が高まっています。こうした様々な需要にどう応えていくのか、現場の日本語教師の皆さんのご協力を仰ぎながら、当地の日本語教育の今後に向けてこれからも様々な試みを提案していきたいと考えています。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
The Japan Cultural Institute in Rome (The Japan Foundation)
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
ローマ日本文化会館は1962年、政府による海外初の日本文化会館として開館、日本語講座は1964年に開講された。以来、文化芸術交流、海外における日本語教育、日本研究・知的交流を3つの柱として様々な事業を実施。イタリアの日本語教育機関は高等教育がほとんどである中で、ローマ日本文化会館の日本語講座は、高校生や一般社会人にも日本語学習の機会を提供し、年間延べ500名程度が日本語を勉強している。日本語講座の運営の他に、イタリア国内外での研修会を通した教師支援、ネットワーク形成支援、日本語能力試験などによる学習者支援、日本語教育事情の情報収集、地元団体が主催する催し物への出展・協力などにも力を入れている。
所在地 Via Antonio Gramsci, 74, Roma, 00197, Italy
国際交流基金からの派遣者数 専門家:1名、指導助手:1名
国際交流基金からの派遣開始年 1986年
What We Do事業内容を知る