世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)多様な学びの機会をつくる

国際交流基金 ローマ日本文化会館
鶴田靖行

国際交流基金ローマ日本文化会館(以下、「会館」)は日本政府による海外初の日本文化会館として1962年に開館しました。日本語講座は2年後の1964年にスタートし、一般向け日本語講座として50年以上の歴史を有します。受講生の年齢層は10代から80代までと大変幅広く、属性や生活スタイル、日本語学習の目的や目標は多種多様です。「JF日本語教育スタンダード」準拠講座として、課題遂行能力と異文化理解能力の育成を柱としつつ、受講生の様々なニーズに対応できる講座を用意しています。

一方、インターネットの発達により、言語学習の方法にも大きな変化が訪れています。これまで当たり前とされていた教師や教室がなくても自分自身で日本語を学ぶことができる環境が整いつつあります。会館では、日本語講座の運営と並行して、学習者の自律的な学びの支援にも取り組んでいます。

日本語講座

会館では、学習者の生活スタイルや学習目的に合わせ、国際交流基金『まるごと 日本のことばと文化』(以下、『まるごと』)を使用した「総合コース」、「夜間コース」、「土曜コース」という3種類のコースを開講しています。

総合コースは、じっくり時間をかけて日本語を学びたい方向けのコースで、夕方の時間帯に開講しています。授業は1回3時間、週2回行われ、2年間(336時間)で初中級レベル(『まるごと初中級』)まで学習します。2018年10月からは『まるごと中級』を使用した1年間の総合コースも開講する予定です。

夜間コースは、日本語学習にある程度の時間をかけられる大学生や社会人が多く通うコースです。授業は1回2時間、週2回行われ、3年間(336時間)で初級~初中級レベル(『まるごと初中級』の途中)まで学習します。

土曜コースは、ゆったりとしたペースで学習したいという方や、日本語学習を趣味として楽しんでいる方が多く通うコースです。授業は1回2時間で毎週土曜日に行われます。3年間(168時間)で入門~初級レベル(『まるごと初級1』)まで学習します。

以上の3コースが半年または1年単位で開講されている日本語講座ですが、この他にも日本語学習者の趣味嗜好に合わせた短期特別講座も実施しています。たとえば2017年度は「旅行の日本語」、「書道の日本語」、「かるたの日本語」を実施し、大変好評を得ました。

このように会館では、日本語を学びたい、日本語に触れたいという方々の生活スタイルや学習目的、趣味嗜好に応じた講座運営に取り組んでいます。

自律支援講座

自律学習支援の取り組みのひとつとして、2017年10月より自律支援講座を開講しました。この講座は、受講生が自らあるいは他の学習者と協働しながら、自主的に学ぶ習慣を作ること、そしてゆくゆくはオンラインリソースなどを使って自分自身で学習を進められるようなることを目的としています。講座は会館内の図書館で週2回開かれ、参加を希望する人はその日の学習内容やCan-do(なにができるようになるか)といった学習計画を事前に提出して参加します。

講座当日は、各自がその学習計画に基づいて学習を進めます。教師は図書室に待機していますが、レッスンは行いません。受講生が学習計画を達成できるよう必要に応じて相談にのったりアドバイスを行ったりするだけにとどめています。継続的に参加している受講生の中には、友人と共に様々なテーマでレポートを書き上げたり、その日に学んだ漢字で作文を書いたりするなど、通常の日本語講座とは異なる学びの姿が見られます。

多読活動、読書スタンプラリー

最後に、多読活動と読書スタンプラリーを紹介します。これらの活動は、日本語講座受講生が教科書以外の日本語に触れる機会を増やすこと、また図書館の利用促進を目的として、会館図書館と協力して実施しているものです。イタリアの学習者は翻訳指向が強く、言葉の意味をイタリア語で知りたがる傾向があります。そのため、推測を働かせながら文章を読み進めることがあまり得意ではありません。そこで、辞書や教師なしで日本語を読む楽しみを知ってもらうため、多読活動では語彙がコントロールされた多読用教材を用い、前半は各自で数冊の本を読む活動を、後半はグループで本の感想を共有し合う活動を行っています。参加者アンケートには、わからない言葉があってもそれほどストレスを感じることなく楽しめた、これからも多読という方法で本を読んでいきたいというコメントが多数寄せられました。今後は日本語講座受講生以外の方も参加できるようにしていく予定です。

図書館で多読活動している写真
多読活動の様子

感想文集、スタンプカード、賞状の写真 詳細は以下
読書スタンプラリーの感想文集、スタンプカード、賞状

読書スタンプラリーは図書館内の本を読んで簡単な感想文を書くという活動です。感想文の数に応じて、手作りの賞状と記念品を贈呈しています。さらにこの活動では、読書という私的な営みを外の世界とつなげるため、感想を文集にまとめ、日本語講座の受講生が自由に閲覧できるようにしています。

会館では、今後も多様な人々が集い、共に学びあう教室という場を大切にしていきながら、必ずしも教師や教室を必要としない自律的な学びの支援に取り組んでいきたいと考えています。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
Istituto Giapponese di Cultura in Roma
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
ローマ日本文化会館は1962年、政府による海外初の日本文化会館として開館、日本語講座は1964年に開講された。以来、文化芸術交流、海外における日本語教育、日本研究・知的交流を3つの柱として様々な事業を実施。イタリアの日本語教育機関は高等教育がほとんどである中で、ローマ日本文化会館の日本語講座は、高校生や一般社会人にも日本語学習の機会を提供し、年間延べ600名強が日本語を勉強している。日本語講座の運営の他に、イタリア国内外での研修会を通した教師支援、ネットワーク形成支援、日本語能力試験などによる学習者支援、日本語教育事情の情報収集、地元団体が主催する催し物への出展・協力などにも力を入れている。
所在地 Via Antonio Gramsci 74, Roma 00197 Italy
国際交流基金からの派遣者数 専門家:1名、指導助手:1名
国際交流基金からの派遣開始年 1986年
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