世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) 立ち上げ期の日本語上級専門家の仕事とは?(2011)

国際交流基金マドリード日本文化センター
熊野七絵

はじめに

 国際交流基金マドリード日本文化センター(以下、JFMD)は2010年4月に開所されたばかり、そして、スペイン日本語教師会(以下、教師会)も2010年2月に設立されたばかり、というできたてほやほやの中、2010年10月に初代日本語上級専門家として着任しました。

 スペインの日本語教育は、支援体制が充実し、まさに花開こうとしているところ、このような立ち上げ時期の専門家として、どのように支援を行っているのか、業務の全体像をご紹介します。

教師支援

 全国的な教師会もこれまでなかったことから、スペインの日本語教師達はそれぞれが現場で奮闘しているという状況でした。そこで、まずはできたばかりのスペイン日本語教師会と協力して、教師への支援やネットワーク作りをしていくことが第一歩です。

 実は、派遣が決まってから、2010年2月の教師会設立総会および研修会、同6月の第1回日本語教育シンポジウムにも日本から講師として参加したことなどから、派遣前から教師会との交流があり、ニーズを把握することができたことは幸運でした。

教師向けワークショップ風景の写真
教師向けワークショップ風景

 スペイン日本語教師会のメンバーは鈴木裕子会長をはじめ、みんなバイタリティーにあふれ、とても明るく熱心です。専門家として、教師会と二人三脚で、セミナーやワークショップの企画、実施を行います。

 着任してからは、教師会の要望に応え、10月にマドリードで新しい日本語能力試験ワークショップを実施したのを皮切りに、バルセロナ、バレンシア、セビージャ、サンティアゴ・デ・コンポステーラなどスペイン各地でワークショップを実施しました。

 地方にはそれぞれの特徴がありますが、とにかく教材や情報が不足しており、しかも同じ地域にいても交流の機会がなかったとのこと、巡回セミナーは情報提供と教師の研鑽の機会となるとともに、地域の日本語教師同士のネットワーク作りの機会ともなりました。

 そして、2011年2月には設立1周年を迎える第2回総会および研修会「初級を教える」を行いました。総会には57名が参加し、教師会会員は89名と着実に増えています。スペインの日本語教師のネットワークはどんどん広がり、活発に機能しています。

学習者支援

 スペインの日本語学習者は2009年度に行われた海外日本語教育機関調査によると4,045人、3年前は2,802名でしたから、学習者数は上昇気流にあるといえます。その多くはアニメ・マンガなど日本のポップカルチャーがきっかけで日本語学習を始めるといわれており、学習者の掘り起こしと動機づけのため、JFMDではさまざまな学習奨励活動を行っています。

 デビューはバルセロナで毎年行われるスペイン最大のポップカルチャーイベント、サロンデルマンガ。JF日本語ブースを出展し、JFが開発した日本語学習Webサイト「アニメ・マンガの日本語」Web版エリンが挑戦!にほんごできます。」の体験デモンストレーションを行いました。参加者は3,100名を超え、アンケートではその多くが「サイトを体験し、日本語を学びたくなった!」と答えてくれました。

 また、学習者向けに「アニメ・マンガの日本語」授業も行っています。リクエストに応えて大学の特別授業に出講したり、2011年4月には連続講座「マンガ講座―描き方、日本語、文化―」の「マンガの日本語」を担当したりしました。

 そのほか、スペインでは初級レベルが中心で、上級学習者の学習機会が限られていることから、上級学習者と日本人が集まって自由に会話する「上級会話サロン」も始めました。

サロンデルマンガにおけるJF日本語ブースの写真
サロンデルマンガにおけるJF日本語ブース

アドバイザー業務

 立ち上げでもう一つ大切なのは、支援体制を整えることです。

 まず、スペインの日本語教育事情と支援ニーズをしっかり把握するため、各種統計調査結果をまとめ、主要な機関への訪問、関係者との会合、問い合わせなどを行い、情報収集します。教師向けの研修会や地方巡回などの際に、先生方から現地事情やニーズをじっくり聞くことも大切です。

 そして、情報や教材の不足などのニーズに応えられるよう、JFMDにリソースセンターとして、日本語教材や参考書、日本文化や文学に関するスペイン語書籍、漫画やアニメ、J-popなど、教師と学習者が利用できるリソースを揃えました。図書館として公開するとともに、教師への教材等の貸し出しも始めました。地方には郵送貸し出しも行っています。

 また、個々のニーズに応えるため、日本語教育相談も行っています。カリキュラムや教材、CEFRやJF日本語教育スタンダードなど、さまざまな問い合わせへの対応が求められます。

おわりに

 情熱の国スペインの日本語教育は、今のりにのっているところ。明るさと勢いではどこにも負けません。教師向け研修会では、いつも積極的な参加と発言が見られ、明るい笑いに包まれます。学習者も一生懸命。個人授業や独学で日本語を学んでいる学習者もたくさんいますが、みんな日本と日本語が大好きだといいます。

 JFMDによるスペインの日本語教育支援はまだ始まったばかりですが、教師や学習者の気持ちやニーズに応えられるよう、今後もさらに支援を続けていきたいと思います。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
The Japan Foundation, Madrid
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
国際交流基金マドリード日本文化センターは2010年4月に開所され、文化芸術交流、日本語教育、日本研究・知的交流の3本柱で各種事業を行っています。スペインの日本語教育支援の拠点として、2010年10月には初代日本語上級専門家が派遣され、教師支援(教師会支援、地方巡回セミナーを含む各種研修会の開催)、日本語学習奨励(ポップカルチャーイベントへの日本語ブース出展や特別授業、上級会話サロン)、アドバイザー業務(リソースセンターの整備や日本語教育相談、情報収集)、日本語講座(コースデザインや運営)を行っています。
所在地 Almagro street 5, 4th floor, 28010 Madrid, Spain
国際交流基金からの派遣者数 上級専門家:1名
国際交流基金からの派遣開始年 2010年

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