世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) やる気いっぱいの受講生に囲まれて

国際交流基金マドリード日本文化センター
西岡 あや

 「こんにちは!」「元気ですか?」火曜日と木曜日の夜7時、国際交流基金マドリード日本文化センター(以下、JFMD)の授業は、受講生の元気な声で始まります。昨年10月に開講したこの年間講座は、仕事帰りの社会人や大学生12人のクラスです。

 「スペインで日本語を?受講生のほとんどが男性?いったいどんな人たちなんだろう?」 マドリードに到着して2週間目、不安と期待でいっぱいの私を待っていたのは、日本のアニメやマンガ、日本文化が大好きな優しくてフレンドリーな受講生たちでした。私の拙いスペイン語に何度も頷いて「分かった」のサインをくれる人、ペアでの会話発表をアドリブで演じてクラスを盛り上げてくれる人、できる人が休みがちな人に教えてあげて助け合うアットホームなクラスです。

日本語で自己紹介!の写真
日本語で自己紹介!

 今年1月からは、6か月限りの入門講座も始まりました。日本語を気軽に始めてみたい人向けのこの講座には、40、50代の受講生が多く、和気あいあいとした和やかな雰囲気に包まれています。授業は年間講座と同様、週2日夜7時から2時間ずつです。日本の作家の本を貸し借りし合ったり、連れだって日本食レストランに行ったりする仲良しグループです。最近では、クラスのほぼ全員が6か月のお試し講座では飽き足らず、年間講座に移って、来期も勉強を続けたいと言うほど熱心な受講生たちです。

 JFMDの日本語講座の大きな特長は、国際交流基金(以下、JF)が開発した新しい教科書『まるごと にほんの言葉と文化』(以下、『まるごと』)を使っている点です。『まるごと』を手に取った時の私の第一印象は「わぁ楽しそう!」でした。豊富なカラー写真やイラストに加えて、各課のトピックに沿って日本の社会や文化についての情報も盛り込まれています。仲見世の雑踏、コンビニや自動販売機、朝の通勤ラッシュ…写真を眺めているだけで、なんだか日本に旅行しているみたいにワクワクしてきます。

 でも、『まるごと』が他の日本語教科書と一番違う点は、学習の順番が今までの教科書とは逆になっていることです。文法や文型を勉強した後、発展練習としてロールプレイなどの活動をするというのが定番の順序でした。『まるごと』では、「まず学習言語で活動しよう!その後文法を確認しよう!」と逆の順番で勉強します。私もマドリードに来るまでは、定番の順序でしか教えたことがなかったので、文法も勉強しないで、いきなりアクティビティなんてできるのか、半信半疑でした。でも、今では、はじめに意味ある活動をクラスメートと楽しくやった後、次の時間にアクティビティの中で出てきた文型や文法についてしっかり確認する、という学習のスタイルが、とても効果的であることを実感しています。

 スペインの受講生たちは、みんなの前で演じるのが大好きです。タクシーの運転手、デパートの店員、買い物客…など茶目っ気たっぷりに演じて、いつも笑わせてくれます。嬉しいことに、受講生のJFMD講座に対する評価は大変高く、『まるごと』の評判も上々です。「『まるごと』を使った授業では、知らないうちに、読み、書き、話せるようになっている」とアンケートに書いてくれた人もいました。

クラスはいつも楽しいの写真
クラスはいつも楽しい

 もう一つ、私が全面的に実施を任されている講座として、今年3月から始めた「日本語会話サロン」があります。月1回、金曜日の夜1時間の無料講座で、日本語学習者とマドリード在住の日本人が、日本語の会話を通して交流するものです。年間、入門講座の受講生の他、一般の日本語学習者にもオープンな講座ですが、毎回ウェブで広報すると、学習者の方はあっという間に定員20名に達してしまい、くじ引きで選別しなければならないほどの人気です。

 一方、会話の相手になってくれる日本人が何人参加してくれるかは、毎回当日までハラハラしながら待たねばなりません。「日本語会話サロン」は、日本人の参加なくしては成り立たない講座です。「わたしは○○です。」「スペイン人です。」と、学習者が初対面の日本人を前にドキドキしながら話す一方で、「日本人は退屈しないだろうか?」「1回限りで来てくれなくなるのでは?」と、初回は特に心配でした。でもアンケートには「とてもよかった。日本語を学んでいるスペイン人が多くいることを知ってうれしかった。」「次もぜひ参加したい。」など好意的なコメントが多く、日本人にも有意義な時間だったと感じてもらえたことがとても嬉しかったです。

 これまで3回実施しましたが、日本人参加者は留学生など20代~30代の若者が中心です。終わりの時間が来ても、大半の人たちが教室に残って、いつまでも日本語とスペイン語でのおしゃべりを楽しんでいる光景に、疲れも吹き飛び、満足感でいっぱいになります。翌週の授業で「会話サロンの後、みんなで飲みに行った」「日本人の友達ができた」と嬉しそうに話す受講生を見ると、日本語教師の仕事の素晴らしさを感じずにはいられません。

 これからも、ささやかながら国際交流に貢献できるように、努めていきたいです。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
The Japan Foundation, Madrid
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
国際交流基金マドリード日本文化センターは2010年4月に開所され、文化芸術交流、日本語教育、日本研究・知的交流の3本柱で各種事業を行っている。2010年9月に初代上級専門家が派遣され、2011年10月に日本語講座担当専門家が派遣されている。スペインの日本語教育支援の拠点として、教師支援(教師会支援、地方巡回セミナーを含む各種研修会の開催)、日本語学習奨励(ポップカルチャーイベント等への日本語ブース出展や特別授業)、アドバイザー業務(リソースセンター整備や日本語教育相談、情報収集)、日本語講座(JFS講座、文化講座、会話サロン等のコースデザインや実施運営)を行っている。
所在地 Almagro street 5, 4th floor, 28010 Madrid, Spain
国際交流基金からの派遣者数 上級専門家:1名、専門家:1名
国際交流基金からの派遣開始年 2010年

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