世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) 立ち上げ期の日本語上級専門家の仕事とは?(2012)

国際交流基金マドリード日本文化センター
熊野 七絵

1.教師会と二人三脚の教師支援

国際交流基金マドリード日本文化センター(以下、JFMD)では、アドバイザー業務、教師支援、学習者支援、日本語講座の運営等を中心に、スペインの日本語教育支援を行っていますが、特に、教師支援活動はスペイン日本語教師会(以下、APJE)と二人三脚で行っています。例えば、APJEJFMDが共催で行う研修会やシンポジウムはいっしょに企画、実施し、教材開発などの共同プロジェクトも行っています。また、情報や教材が不足しがちな地方の教師支援として、日本語教育巡回セミナーも行っていますが、その内数回はAPJE会長に同行してもらうなど、教師会とともにスペイン全体と各地域の状況、ニーズに応じた支援に取り組んでいます。

2.会員による主体的な研修会へ

研修会の講師4人での写真
研修会の講師4人で
コースデザインをしよう!の写真
コースデザインをしよう!

2013年2月に行われた第4回APJE総会兼研修会では、APJE会長から、会員が116名に成長したこと、APJEの特徴は、東アジア研究専攻課程、大学語学センター、EOI(公立語学学校)やCASAASIAなどの公的機関、民間語学学校、個人教授などさまざまな教師が参加していることであり、この3年間での変化として、日本から講師に来てもらって受身で学ぶということから、会員自らが実践を報告する形の主体的な研修会に変わりつつあるということが述べられました。

実際に、3年目に実施された研修会のうち、4月の研修会「CEFRJFS授業実践報告」、9月の座談会「個人レッスンを考える」はスペイン各地のAPJE会員が発表者となってスペインの現場で教えている者同士が共有できる実践例が報告され、和気あいあいとした雰囲気の中、活発な意見交換が行われました。また、6月にバルセロナにて開催された第2回APJEシンポジウムでも、「日本語教育e-learning」をテーマに、講演やワークショップが行われるとともに、会員による口頭発表やフォーラムでの情報交換が活発に行われました。

そして、4年目を迎えた2月の研修会もまさにその集大成であり、アルザス欧州日本語教師研修、JFS日本語講座担当者訪日研修を受けた会員3名が、還元研修として「コースデザイン」という教師にとって避けては通れない課題を、上記の機関種別に具体的な条件設定をして、わかりやすくワークショップ形式で企画、実施したものでした。3人の講師とワークショップをどのように進めようかと数ヶ月にわたり多数のメールを交わし、当日を迎えましたが、3人とも自分の経験を活かしながら、短い時間を最大限に使い、どの参加者も楽しく「私たちのコースデザイン」ができるよう工夫し、目標設定、シラバス、評価まで一貫性のあるワークショップを行うことができました。最後の互いのポスター発表の閲覧では、スペインには個人授業から大学専攻までさまざまな機関があり、さまざまなニーズに対応した課題遂行型の柔軟なコースデザインができるんだということが伝わったのではないかと思います。4年目を迎える研修会で、スペインの日本語教育の今の課題に合わせた研修会を実施できる教師が育っていることを目の当たりにし、とても感慨深く、誇らしく思いました。

3.教材開発、勉強会と地方在住教師の活躍

APJEJFMD では教材開発、勉強会などのさまざまな共同プロジェクト、企画も行っています。2011年度から取り組んできたJF日本語教育スタンダード(以下、JFS)準拠教材『まるごと 日本のことばと文化』のスペイン語話者向けの副教材作成プロジェクトは、2012年度には地方会員も執筆者として参加することとなり、SkypeDrop BoxGoogle Driveなどを活用して、編集会議やコメント交換を行い、制作しました。スペイン人教師もスペイン語版翻訳、作成に参加し、現在までにA1(入門)、A2(初級1)、A2(初級2)の文法解説書の日本語版、スペイン語版が完成しています。また、2012年度には、第3回総会兼研修会で紹介されたオンライン読解支援ツール「リーディングチュウ太」の辞書制作プロジェクト、CEFR(欧州の言語共通参照枠)を週1回読み合わせる「CEFR勉強会」など新企画がどんどん行われました。

これら研修会での発表、各種プロジェクトや勉強会には、地方在住教師が積極的に参加し、巡回セミナーも地方側から具体的な企画、提案がなされるようになってくるなど、地方の教師がメキメキと頭角を現し、各地域のネットワークも根付いて勢いが出てきたことを実感しています。

4.第17回ヨーロッパ日本語教育シンポジウム開催へ

このように、勢いにのっているスペインの地において、2013年9月5、6、7日に第17回ヨーロッパ日本語教育シンポジウムが実施される予定です。APJEからは40人が実行委員として名乗りを挙げ、着々と準備が進んでいます。これまでの3年間のAPJE研修会やシンポジウムの開催、各種プロジェクトの企画や実行などで培ってきたスペインの日本語教師の企画・実行力、協力体制はすばらしく、このシンポジウムはスペインの日本語教師の底力が発揮される絶好の機会となることでしょう。この機会にスペインの教師間の絆がさらに強まり、欧州との情報交換がますます進むことを期待したいと思います。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
The Japan Foundation, Madrid
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
国際交流基金マドリード日本文化センターは2010年4月に開所され、文化芸術交流、日本語教育、日本研究・知的交流の3本柱で各種事業を行っている。2010年9月に初代日本語上級専門家が派遣され、2011年10月に日本語講座担当専門家が派遣されている。スペインの日本語教育支援の拠点として、教師支援(教師会支援、地方巡回セミナーを含む各種研修会の開催)、日本語学習奨励(ポップカルチャーイベント等への日本語ブース出展や特別授業)、アドバイザー業務(リソースセンター整備や日本語教育相談、情報収集)、日本語講座(JFS講座、JLPT講座、目的別講座、文化講座、会話サロン等のコースデザインや実施運営)を行っている。
所在地 Almagro street 5, 4th floor, 28010 Madrid, Spain
国際交流基金からの派遣者数 上級専門家:1名、専門家:1名
国際交流基金からの派遣開始年 2010年
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