世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) ウィスキーとバグパイプと『ハリーポッター』が生まれた国の日本語教育(2002)

エディンバラ大学
黒川美紀子

エディンバラ大学の日本語コース

日本人学生へのインタビュー活動の写真
日本人学生へのインタビュー活動

 日本では「イギリス」とひとくくりにされがちですが、正式名称は「United Kingdom of Great Britain and Northern Ireland」。イングランド、ウェールズ、スコットランド、北アイルランドから成る連合王国で、特にスコットランド、北アイルランドは独自色が強く、教育制度も異なっています。現在、日本語の主専攻コースを設置している大学は英国全体で8校ありますが、エディンバラ大学はそのうちのひとつで、スターリング大学が日本語コースの廃止を決定した今となっては、スコットランドで唯一日本語で学位をとることができる大学です。日本語のコースは、初級前半の文法項目を学習する「Japanese1」、初級後半の文法項目と共に日本語ワープロや翻訳、簡単なスピーチの仕方などを学ぶ「Japanese2A」、主に3年次の日本留学に備え実践的な力をつけていく「Japanese 2B」、そして1年間の日本留学から戻ってきた日本語主専攻の学生たちだけを対象とした「Japanese 4」の4つがあります。日本語を主専攻とする場合、3年次に日本の大学に留学することがコースの一環として組み込まれており、これが学生たちの励みになっています。卒業後の進路は様々ですが、JETプログラム(Japan Exchange & Teaching Programme)に応募し、英語のアシスタントティーチャーや国際交流委員として日本に戻る学生たちが増えています。

 スコットランドは独自色が強い、と言いましたが、そんな「スコットランド人の誇りとこだわり」は、授業の初日から発揮されます。名前や国籍の言い方を勉強する際、「日本人には『イギリス人』で十分だよ」と言っても、やはり「はじめまして。○○です。スコットランド人です」あるいは「イングランド人です」と自己紹介する学生が跡を絶ちません。

イギリスの言語教育政策と今後の展望

 TEFLTeaching English as a Foreign Language)がこれほど進んでいる英国であるにもかかわらず、自国民に対する外国語教育は立ち遅れており、英国は、欧州で母語以外の言語を話せる人の割合が最も低い国と言われています。英国政府はこの悪評を払拭するべく、近年様々な政策を打ち出しています。1995年に導入されたLanguage College制度は中等教育機関における日本語学習者の数を急増させました。また、今年の2月には英国の公立学校における言語教育発展のための10年計画が発表され、これによると、現在は11歳からとなっている外国語教育開始年齢が7歳に引き下げられるそうです。こうした初中等教育機関での動きは、当然近い将来、高等教育機関にも影響を及ぼすはずですが、残念ながら大学側にはまだその危機感が薄い、というのが現状です。それでも英国日本語教育学会が、2001年度の年次大会のテーマに「中等教育と高等教育の連携」を掲げるなど、教育段階を超え長期的な視野に立った日本語教育の実現に向けて歩み出しています。エディンバラ大学でも、現在のところはまだ全員にひらがなの書き方から指導をしていますが、今後はレベル別のクラス編成や、主専攻と選択コースの別などを考えていく必要があると思います。

日本語によるインタビュープロジェクト

 英国政府の言語教育政策が日本語教育の裾野を広げたことは事実ですが、これは日本語に限ったことではなく、フランス語やドイツ語など全ての外国語学習が奨励されているわけで、こうしたヨーロッパ諸言語に比べれば、日本語はまだまだマイナーな存在と言わざるを得ません。多くの学生がホリデーにフランスやスイスに出かけていくイギリスでは、やはり日本は遥か彼方の遠い国です。ロンドンと違って住んでいる日本人の数も限られており、教室を一歩出れば日本語に触れるチャンスはほとんどありません。そんな学生たちに少しでも教師以外の日本人と日本語でコミュニケーションをはかる機会を与えたい。学生たちの真摯な学習態度を見るにつけ、そう思ってきました。そして、今年度初めてその思いをひとつの形にすることができました。エディンバラ大学言語学科の付属機関である語学学校の方々に協力を仰ぎ、そこで英語を学ぶ日本人へのインタビュープロジェクトを実現させたのです。初めは日本人学生の話す速い日本語や、いわゆる若者言葉に戸惑っていた学生たちも、自分たちより一足先に留学を実現させている日本人学生に数ヶ月後の自分たちの姿が重なったらしく、「留学はいい経験?」「日本とスコットランドの一番大きい違いは?」「カラオケについて教えて!」などと積極的に質問していました。日本人学生たちも「彼らがこんなに一生懸命日本語を勉強しているなら私たちももっと英語の勉強をがんばります!」。お互いにいい刺激となったようです。

 自分の大学時代の外国語学習経験を考えても、言葉は使わなければ忘れられていきます。でも、その言葉を使って心を通い合わせた経験は、決して色あせることなくその人の人生を豊かに彩ってくれます。日本語というひとつのツールを与えるだけでなく、そういった経験を少しでも多く学生たちに与えたい。スコットランドは今、一番美しい季節です。

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
  及び業務内容
 エディンバラ大学は、オックスフォード大学、ケンブリッジ大学に次ぐ名門大学とも言われており、その大学が日本語講座を持っている意義が大きい。英国で日本語を選択科目として履修できる大学は多いが、主専攻として学位の取得できる大学は英国全体でも8校しかなく、スコットランドではエディンバラ大学のみである。
 青年日本語教師は日本語講座の授業を担当、学期末試験問題の作成及び採点、現地講師への指導、助言を行っている。
ロ.派遣先機関名称 エディンバラ大学
The University of Edinburgh
ハ.所在地 School of Asian Studies 8 Buccleuch Place, Edinburgh EH8 9LW United Kingdom
ニ.国際交流基金派遣者数 青年教師:1名
ホ.日本語講座の所属学部、
  学科名称
エディンバラ大学文学部アジア学科日本センター
ヘ.日本語講座の概要
(イ)沿革
(1)講座(業務)開始年   選択:1976年から
専攻:1990年から
(2)専門家・青年教師派遣開始年 1997年
(ロ)コース種別
主専攻、副専攻、選択科目
(ハ)現地教授スタッフ
常勤3名(うち邦人1名)
(ニ)学生の履修状況
(1) 履修者の内訳   主専攻で各学年8~10名程度
(2) 学習の主な動機 ヨーロッパ以外の言語に対する関心
(3) 卒業後の主な進路 特にデータなし
(4) 卒業時の平均的な
日本語能力レベル
日本語能力試験2級程度
(5) 日本への留学人数 毎年8~10名前後

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