世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) 英国再訪:広がりゆく英国日本語教育

国際交流基金ロンドン日本語センター
中込達哉

 2002年3月、12年ぶりに英国に戻ることになり、大きな変化に驚いた。日本語を教えている大学もかなり増えている。しかし、何よりも驚いたのは、当時ほとんど行われていなかった中等教育が、急激に伸びていることであった。現在学習者数は、高等教育の3倍強にもなっている。中等教育が盛んになっていることは、聞いていたがここまで伸びるとは当時だれが予想しただろう。

Tavistock Collegeの写真
Tavistock College

Katharine Lady Berkeley's Schoolの写真
Katharine Lady Berkeley's School

 ロンドン日本語センターのデータベースは、イングランドとウェールズのみのデータとなっているが、教育機関と学習者の推移は、以下の通りである。
(2002年のデータは5月現在のもの)

中等教育:学校数と学生数
  1993年 1997年 2002年
SCHOOLS 98 123 268
LEARNERS 2,164 4,000 8,436
高等教育;大学数と学生数
  1993年 1997年 2002年
SCHOOLS 27 47 49
LEARNERS N/A 2,684 2,629

 高等教育機関に関しては、過去5年、数値的には大きな変化は見られないが、新しく日本語を始めた機関、副専攻課程が増加している。一方、96年以降スターリング大学やアルスター大学などを含む10機関が日本語コースを廃止するなど、動きは大きい。

 高等教育機関の教師間ネットワークも構築された。1998年、BATJ(英国日本語教育学会)が設立され、英国のみならず、ヨーロッパ規模でも活発な活動を行っている。高等教育支援のため、BATJとの協力もロンドン日本語センターの大切な役割の一つである。

 また、1993年、中等レベルの教員養成のため、PGCEPost-Graduate Certificate in Education大学院課程教員資格)がノッティンガム大学で始められた。こうした英国での教師養成課程修了者、留学経験者、JETプログラム経験者の英国人日本語教師も増えている。1999年には、中等教育レベルの教師会として、JLCJapanese Language Committee)もALLAssociation for Language Learning)内に設置され、中等教育での教師間ネットワークを強化している。

 ロンドン日本語センターは、中等教育機関で教える教師との協力および支援にも力を注いでいる。情報収集、情報提供(例 「まど」の発行)、学校訪問、リソースの開発、セミナー(例 Getting to Grips with Grammar)、教師向け日本語コースの開催等、幅広い活動を行っている。最近は、英国だけでなくアイルランドからも問い合わせや、セミナーの参加者が増えている。

 それにしても、日本から遠く離れた英国で、なぜこんなにも中等教育が盛んになったのだろうか。もちろん、英国日本語教師たちの努力によることは言うまでもない。しかし、背景にある教育制度改革の影響も大きい。前任者の木谷直之氏は、この10年間で中等教育が盛んになった理由として、以下の2つの教育改革をあげている。

  1. 1)1991年のナショナルカリキュラム導入の際、義務教育に取り入れられた19の現代外国語に日本語が含まれたこと。
  2. 2)1995年 語学カレッジ制度が導入され、非ヨーロッパ言語の外国語学習が奨励されたこと。

の二点である。

 こうした教育制度改革後の1997年、国際交流基金ロンドン日本語センターがオープンした。英国の教師と協力し日本語教育を支援してきた当センターを評価する声は大きく、それゆえ、また期待も大きい。

 教育制度改革に関して、今年2月、新たな動きがあった。教育技能省(DfES)がグリーンペーパー(14-19:extending opportunities,raising standards)を 提案し議論を呼んでいる。

 議論の焦点は、義務教育修了後(17歳)の進学率を上げるため、中等教育での負担を減らし、「必修科目を「英語」「数学」「理科」「ICT情報技術」の4科目とする」という提案に対してである。これは、外国語を選択科目とすることになり、外国語学習者の減少につながると危惧されている。EU加盟国として、ますます国際色を深めていく将来、外国語のできない英国人が増えることになり、失業者が増えるのではとの懸念もされている。グリーンペーパーへの意見書の提出は5月末に締め切られた。当センターからも意見書を提出した。教育技能省が、これからどう改革を進めていくのか目が離せない。

<エピローグ>
 昨年ロンドン日本語センターでは、日本語の授業の様子を収めた「Class Act」と言うビデオを作成した。半年の時間をかけて20校で撮影した膨大な映像を150分にまとめたものである。このビデオを見て誰もが、うなずくことがある。日本語教育がイギリスの中等教育で大きな広がりを見せているのは、「楽しいから」なのだ。現場の教師も教えることを楽しみ、そして生徒たちも、楽しく学習している。教育制度の改革の影響は確かに大きい。しかし、教師たちの質問に答えようと、力強く挙げた若き学習者たちの手が、英国での日本語教育の未来を照らしているように見える。

以上

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
  及び業務内容
 ロンドン日本語センターでは、CGSE(中等教育修了一般資格)及びAS/A(準上級/上級)に則した日本語教育教授法についての研修会や、非母語話者教師の日本語能力向上のための研修、邦人教師向研修などをはじめ多様な研修を実施している。特に英国における日本年であった平成13年度は、模範授業ビデオClass Acts制作、IT日本語教材開発、GCSE漢字カード作成、リソースボックス作成、Home-Stay UK(在英日本人家庭での週末ホームステイ)などを実施した。ニュースレター「MADO」を発行している。
ロ.派遣先機関名称
The Japan Foundation London Languge Centre
ハ.所在地 27 Knightsbridge, London AW1X 7LY
ニ.国際交流基金派遣者数 専門家:1名 青年日本語教師:1名

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