世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) Ready Steady NihonGo! コース -「小学生のための日本語パイロットコース」策定に向けて-

Ready Steady NihonGo! コース -「小学生のための日本語パイロットコース」策定に向けて-

ロンドン日本文化センター
中込達哉日本語教育専門家

 ロンドン日本文化センターは、ノンネイティブ教師のための日本語コース、学校長や外国語主任教師のための短期日本語コース、日本語教師のための教授法セミナーおよびワークショップなどを開催し、英国の日本語教師への支援活動を行なっている。こうした教師への支援活動と平行して、英国の言語教育事情とその動きを把握すること、そして、その動きに合わせて、日本語教育を推進していくことも活動の一つである。

1.初等教育段階での日本語教育

 教育技能省(DfES: Department for Education and Skills)が、 言語政策文書'Languages for All: Languages for Life'の中で「10年以内に(イングランドの)キーステージ2のすべての小学生(7歳から11歳)に外国語を学ぶ機会を与える」と宣言してから、すでに一年以上が経過した。英国の小学校では、すでに約25%の小学校でフランス語、スペイン語、ドイツ語などのヨーロッパ言語が教えられているが、日本語はどうだろうか。2003年3月から2004年3月にかけて、アンケートおよび訪問調査を実施した。

2.小学校で日本語を教える教師

 調査の結果、英国の31の小学校で日本語教育が実施されていることが分かった。31の小学校で、どんな教師が教えているかを見ると、(1)小学校教員(14校)、(2)日本人ボランティア(10校)、(3)ランゲージ・カレッジ(外国語教育を重視しているセカンダリースクール)の日本語教師(6校)、(4)小学校専属日本語教師(1校)に分けられる。

英国での日本語教育関連の写真1
Haberdashers' Aske's School for Girls

 (1)の小学校教員は、JETプログラムなどでの日本滞在経験を活かして、日本や日本文化と共に簡単な日本語を教えている場合が多い。また、最近は、日本語未習者である小学校教員からも、「日本語」や「日本文化」を教えてみたいので協力してほしい、日本語のトライアルレッスンをしてほしい等の問い合わせも増えている。こうしたニーズに対しては、在英日本大使館やJapan 21 Education等の機関とも協力して、支援を行なっている。(2)は、地域の日本人や生徒の母親(日本人)によるクラブ活動的な場合が多いが、一部インターンシップ派遣の日本人による授業も行なわれている。(3)は、ランゲージ・カレッジの日本語教師が、地域の小学校で、日本語を教えるケースを指している。(4)は、私立小学校での特例である。この女子小学校では、2003年9月から フランス語と日本語の二言語を週に各二回(各35分)ずつ教えている。
 約一年に渡り、13校を訪問し、授業見学を行なった。どの教室でも、歌、ゲーム、ダンスなどを取り入れながら、小さな学習者達が楽しく学習していた。

3.小学生向け日本語パイロットコースの試行

 前述した調査結果に基づき、まず英国人小学校教員と日本人ボランティアへの支援を具体化することとした。Japan 21 Educationとの共同プロジェクトとして「小学生のための日本語パイロットコース」Ready Steady NihonGO! コースを2004年9月から12月にかけて試行予定である。この日本語コースでは、日本語学習の中に文化体験アクティビティーを取り入れ、「日本の文化や言葉を学ぶことで、異文化に対する肯定的な姿勢を学び、自身の言語や文化についても考える」ことを目標としている。45分授業10回分を一つのステージとして、授業案や教材を作成中である。このコース内容を基に、セカンダリー日本語教師や日本人ボランティア向けセミナーおよびワークショップも開催していきたい。

 グローバル化が進む21世紀を担う子ども達にとって、「異文化への肯定的な姿勢」は必要不可欠な能力である。日本語教育がそうした能力育成の一助となり、いつか日本語を学んだ英国の子ども達が日本の子ども達とも交流をし、相互によりよい形で理解を深めていってほしい。そんな夢を語りながら、小学生のための日本語コースを策定している。

Stepping Out

ロンドン日本文化センター
櫂谷紅美子青年日本語教師

 国際交流基金ロンドン日本文化センターのプログラムの一つにStepping Outがあります。これは英国の小・中高校への「出前授業」または「出前コンサルタント」です。学校からの申請を受け、普段はロンドンの事務所でアドバイザー業務をしている日本語教育専門家や青年日本語教師が学校に出かけて、出前授業を行う、または訪問した学校の日本語の授業の様子を見学して訪問先の教員に日本語や教授法、教材等に関してのアドバイスを行います。ロンドンから離れた地方の学校では、日本人に接する機会や、教員が日本語の教材等に関して情報を得られる機会は少なく、そのような学校・教員達にとっては非常に便利なプログラムです。

 最近では小学校からの申請が増えています。これまでは英国では外国語を必修科目として履修するのは中学生からでした。しかし、政府が昨年「2010年までに小学校Key Stage2 (7~11歳)での外国語を必修科目とする」と新しい方針を策定したため2010年に向け多くの小学校が外国語の導入に努力しているのです。既に英国の小学校25,000校のうち25%が外国語(主にヨーロッパ言語)を教えています。日本語を教えている学校は31校ありますが、これからも益々増えることが予想されます。特に小学校ではこれまで外国語を教えた経験がないため、又地方の学校では日本人も少なく、学校教員も日本語について知識がないため、私達が小学校に出向き、日本や日本語の紹介を行います。

 外国語を導入する第一歩として、多くの小学校で「Japan Day」や「Japan Week」が企画され、生徒はその間、日本語だけではなく、凧作り、名刺作り、折り紙等、日本に関する様々な授業を経験しながら日本という国について学びます。日本は英国から地理的にも遠く、日本の生活や文化について余り知られていないのが現実です。最初の授業の前には不安な目をしていた生徒達も、授業が進むにつれて興味津々の目に変わり、一日の終わりには自己紹介ができたり、名前をカタカナで書けるようになっていたり、皆満足した表情で帰っていきます。帰宅後、嬉しそうに日本語のレッスンについて話す子ども達を見て、両親から「学校で引き続き日本語を教えてほしい。」とリクエストが上がることもあるようです。

英国での日本語教育関連の写真2

 子ども達にとって、「異文化」=「異質」ではなく、「異文化」=「自分達は知らない文化」=「興味の対象」としてとらえているように感じます。新しいものに興味を示し、一生懸命「知ろう」とします。「知りたい」「知ろう」とする欲求は最良の学習モーティベーションになります。初めての日本語の授業に、最初は戸惑った様子を見せていますが、すぐに自分達の知らない文化・言語を知ろうとドンドン積極的に参加してきます。日本について学習した子ども達は「面白い」「クール」等と嬉しそうに感想を口にします。日本についてだけではなく、外国語や外国文化について小さい頃から触れた子どもは、非常に豊かな人間性をもった大人になるのではないかと期待しています。

 これから小学校での日本語教育は益々広がることが予想されますが、特に小学生児童に対する外国語教育は言語だけでなく、文化や社会も含めた総合的な外国語教育が重要です。そのためには国際交流基金ロンドン日本文化センターだけでなく、英国で日本の文化や社会を扱う他の団体(主に在英日本大使館やJapan21)と共同で活動することが必要となっています。今年9月からはJapan21との共同プロジェクト(Ready Steady NihonGO II)も始まり今後も他団体と協力しながら英国の日本語教育を支援していきたいと思います。

注)英国の教育制度は各地方(EnglandWalesScotlandおよびNorthern Ireland)により異なります。ここではEngland地方の教育制度について述べています。

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
  及び業務内容
国際交流基金ロンドン日本文化センターでは、Head Start(中等レベルの外国語主任、初等レベルの校長や外国語コーディネータを対象にした日本語初心者集中コース)や、非母語話者教師の日本語能力向上のための研修、邦人教師向研修などをはじめ多様な研修を実施している。また在英日本大使館やJapan21Education、Cilt(The Centre for Information on Language Teaching and Research)等関係機関と協力しつつ、英国における日本語の普及・現地化を目的とした活動を展開している。ニュースレター「MADO」を発行している。
ロ.派遣先機関名称 国際交流基金ロンドン日本文化センター
The Japan Foundation London Languge Centre
ハ.所在地 Russell Square House 10-12 Russell Square, London WC1B 5EH
ニ.国際交流基金派遣者数 専門家:1名 青年教師:1名

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