世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) 中学生から元気をもらって:ロンドン日本文化センターのアドバイザー

国際交流基金ロンドン日本文化センター
来嶋洋美

 ヨーロッパの日本語学習者数は、アジア・大洋州ほどには多くありませんが、日本語教育の歴史は長く、今も熱心な学習者と先生方によって支えられています。なかでも英国は、ヨーロッパでは学習者数がいちばん多い国で(2位フランス、3位ドイツ)、近年の特徴としては中等教育の学習者が多いこと(英国の学習者全体の約72%)があげられます。これは世界の日本語教育の動向とも軌を一にするものですが、中等教育における外国語教育に力を入れてきた英国教育技能省の言語政策を反映する結果だと言えます。初等教育においても2010年を目標に外国語科目の導入が計画されていますし、また、外国語能力を一生の財産ととらえ、その能力を認定するための基準「Language Ladder」の開発も発表されています。このような状況の中、筆者は3ヶ月前にロンドン日本文化センターに派遣されてきたわけですが、二人の同僚講師といっしょに日々どのような仕事をしているか、以下にご紹介しましょう。

情報収集と状況把握

 まず、英国での仕事は、この国における教育事情及び日本語教育事情の把握から始まります。英国の教育事情は教育制度一つとっても、もともと複雑で分かりにくい上に、現在、ダイナミックな言語政策が次々と実施されている最中です。したがって、その情報収集は重要な仕事になります。関係資料を読む、学校を見学する、先生方と交流するなど、様々な手段を講じて、日常的に情報収集を心がけています。

教育イベントに参加する

スピーチコンテスト「日本語カップ」記念撮影の写真
スピーチコンテスト「日本語カップ」記念撮影

 次に、スピーチコンテストや外国語教育関係の学会・研究会など、教育イベントへの参加があります。4月には中等教育の学習者による全国規模のスピーチコンテスト「日本語カップ」が行われました。キーステージ3(中等教育11~14歳)からキーステージ5(中等教育16~18歳)の若い人たちが日ごろの学習の成果を披露しましたが、日本語力と同時にスピーチの内容にも人としての成長がはっきりと見られました。人間の成長期にある若い人たちに対する日本語教育には、単に言語を教えるだけではない、それ以上の可能性と意義があることを感じさせる大会でした。

教材をつくる・授業をする

中学校での日本語授業の様子の写真
中学校での日本語授業の様子

 また、日本語教育用教材作成や日本語授業も行っています。ロンドン日本語センターのニュースレター「まど」の教材記事執筆、中学校への日本語出張授業、日本語教師向け日本語コースの実施などがその具体的内容です。3月下旬に、ロンドンから電車で2、3時間ほどのところにある中学校から「インターナショナル・デイ」での日本語授業5クラス分を依頼され、同僚のロシェル・マシューズ講師と一緒に出張してきました。能力別の5つのクラスで、ICT教材を使ってあいさつや文字を教えましたが、どのクラスの生徒も反応が良く、日本語にたいへん興味を持ったようでした。

新しい動き

 さて、ロンドン日本文化センターの新しい動きとしては、日本語講座の新設があります。そこで、その準備段階の作業として、ジュニア専門家の田中真寿美講師と一緒に、コースデザインの案を作成しました。この講座はロンドン日本文化センターにとって、一般の人たちを対象にした初めての日本語講座になります。日本語学習の場を英国の人たちに直接提供することによって、この国の日本語教育に関するより深いフィードバックを得ることが出来るだろうと
期待しています。まだクリアしなければならない課題が残っていますが、実際に開講する日が待ち遠しく思われます。

 以上はロンドン日本文化センターの派遣専門家としてこの3ヶ月間に行った仕事の一部ですが、もう一つ、すべての仕事の土台としていちばん大切なことがあります。それは、関係者とのより良い人間関係の構築です。というのは、ここロンドン日本文化センターの日本語教育支援は、たくさんの関係機関や関係者との協力関係の中で、一つ一つの仕事が動いているからなのです。当地の教育関係者の方々にお会いして、いろいろな話をし、良い人間関係を築くことは、今までに述べた仕事をより円滑に進めていくための必須条件と言えるでしょう。
 海外事務所は一般的な日本語教育機関とは業務内容が異なりますし、ロンドン日本文化センターには日本語講座もまだありません。したがって、毎日学校で日本語の授業をするという、教師としての「普通の仕事」はありません。とは言っても、海外事務所の仕事は紛れもなく日本語教育の仕事なのです。日本語教育と多面的にかかわる面白さがここにはあるように思われます。

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
  及び業務内容
●国際交流基金ロンドン日本文化センターは1997年に日本語センターを開設した。現在の業務は、当地の教育情報の収集と支援事業の企画・実施である。●初等教育は2010年までに外国語科目の導入計画があり、これに向けた教材開発を完了させた。●中等教育への支援では、各校における日本語科目設置促進を目的とした出張授業や学校長・外国語学科主任のための日本語コース、また教師支援のための教授法セミナーや日本語コースなどを実施している。●このほか、スピーチコンテストの実施、英国日本語教育学会との共催事業、ニュースレター「まど」やウェッブサイトを通しての情報提供、などを行っている。
ロ.派遣先機関名称 国際交流基金ロンドン日本文化センター
The Japan Foundation London
ハ.所在地 Russell Square House 10-12 Russell Square, London WC1B 5EH
ニ.国際交流基金派遣者数 専門家:1名 ジュニア専門家:1名

ページトップへ戻る