世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) 英国の小学校でもっと日本語を!

国際交流基金ロンドン日本文化センター
宇田川洋子

 世界各国で小学校からの外国語教育が盛んになってきています。英国でも、イングランドだけではありますが、7~11歳まで(初等教育Year3~6、Key Stage 2というレベル)の生徒全員が外国語を学習する権利を有する、という政策を2010年から導入する予定で準備を進めています。

 このため、今年3月にマンチェスターで開かれた’Primary Languages Show’には、昨年よりさらに多くの参加者があり、会場のマンチェスター大学の会場はどの部屋もいっぱいという状況でした。参加者は、小学校の外国の先生だけでなく、中等教育の先生、地域の教育委員会の外国語教育アドバイザー、言語教員養成コースのある大学の教官などです。

 会場を歩いても、各書店が出しているブースの教材を見ても、フランス語、イタリア語、スペイン語、ドイツ語などのヨーロッパ言語が大多数です。これは、もちろん、地理的な近さと、英国がEU(ヨーロッパ連合)の一部ということが大きな要因だと思われます。また、小学校では、言語専任の先生を雇う予算がなく、スタッフの中からフランス語やスペイン語ができる人が教えるケースが多いからだ、という話もよく聞きます。

 とはいえ、政府の方針としても、生徒や保護者のニーズとしても、ヨーロッパ言語以外の言語も含めた、幅広い言語の教育機会の提供が望まれているようです。

 確かに、英国にとって日本はちょっと遠い存在ですが、EU以外の国では米国に次ぐ輸出相手国ですし(日本国外務省サイトより)、なんといっても、学習者である生徒たちにとって、日本はアニメやマンガ、コンピューターゲームなどですでに馴染みの国であることを利用しない手はありません。

「まえ、うしろ、みぎ、ひだり」をダンスで覚えている写真
「まえ、うしろ、みぎ、ひだり」をダンスで覚える
新聞記事の内容を推測している写真
新聞記事の内容を推測する

 そこで、まずは先生方に日本語を理解していただこうと、ロンドン日本文化センター日本語センターのアドバイザーである私の同僚が、日本語の「お試し」セッションを実施しました。お昼休みであるにもかかわらず、20人近い人が参加してくれました。あいさつ程度に日本語を知っている人がいるほかは、まったくゼロの人がほとんどです。

 まずは、あいうえお五十音図をラップのリズムにのせて紹介します。それから、あいさつの練習や、体操しながらの「前、横、後ろ」の導入もしました。さらに、日本語の新聞の記事を見て、いろいろな知識を総動員し、何について書いてあるか、何が書いてあるかを想像するというアクティビティーもありました。45分という短い時間になかなか盛りだくさんな構成だったのですが、そこはもともと語学の先生方、こちらの意図することをすぐに理解してくださって、積極的に楽しみながら学んでくださいました。

 セッションのあとでの感想もなかなか前向きなものが多く、「私の学校ではヨーロッパ言語を二つ教えているが、もう一つ、アルファベットでない言語を教えたいと思っている、日本語教育ではどのような教材や支援があるのか」などのいろいろな質問を受けました。

 ロンドン日本文化センター日本語センターでは、先生方を対象にした日本語教授法の研修を行っていますし、日本語非母語話者の先生方を対象にした日本語ブラッシュアップの研修も実施しています。また、Japan Societyとの協力で、「Ready Steady NihonGo!」という無料でダウンロードできる小学校レベル向け日本語入門教材も作成しました。また、図書館からは各種教材の貸し出しなども行っています。

 また、小学校とはいえ、4年間の授業をするとなれば、英国のカリキュラムに準じた教材が必要になってきます。しかし、現在はまだ、外国語全体のフレームワークはあるものの、日本語のカリキュラムもありません。ですから、ロンドン日本文化センター日本語センターの課題の一つが、このような教材作成ということになります。

 現在、すでに日本語を教えている小学校が英国全国で16校ほどあります(2006年国際交流基金日本語教育機関調査より)。今後、新しい政策のもとで日本語を教える学校がもっと増えるよう、いろいろな面で、より積極的な支援を行っていきたいと思っています。

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
  及び業務内容
  • 国際交流基金ロンドン日本文化センターは1997年に日本語センターを開設。その業務は、当地の教育情報の収集と支援事業の企画・実施である。
  • 教材開発と提供:初等教育用には「Ready Steady NihonGo!」、中等教育用にはリソース群「力CHIKARA」を開発、公開している。
  • 初中等各校における日本語導入促進を目的とした出張授業、教師のための研修会や日本語コース、教育情報を提供するコースなどを実施している。
  • このほか、スピーチコンテストの実施、英国日本語教育学会との共催事業、ウェッブサイトを通しての情報提供などを行っている。
ロ.派遣先機関名称
The Japan Foundation London
ハ.所在地 Russell Square House, 10-12 Russell Square,London WC1B 5EH,UK
ニ.国際交流基金派遣者数 日本語教育専門家:1名

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