世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) いろいろな日本語試験のために

国際交流基金ロンドン日本文化センター
宇田川洋子

 私は今までに、英語圏では、ニュージーランド、オーストラリア、カナダの各国で、国際交流基金派遣の日本語教育アドバイザーとして働きました。いずれの国でも、日本語学習者の半数以上が初等中等教育レベルです。ですから、主な仕事は、小学校から高校までの日本語教育の支援で、教授法や日本語能力向上のための教員研修や、教材作成などが中心でした。

 この点では、英国も同じですが、英国にはこれらの国とかなり違っている点が一つあります。それは、中学から高校段階での全国統一試験の多さです。イングランド、スコットランドなど地域ごとに教育制度が違いますが、今回は主に、日本語関係の試験が実施されているイングランドについてお話したいと思います。

 英国では、中学や高校を卒業しても卒業証書のようなものはもらいません。つまり、履歴書に書けるような学習成果の証明が必要なら、国が認定した試験を受けなければならないのです。しかも、試験は1種類ではなく、いくつかの系統があります。

 主なものを少しご紹介しましょう。

 まず、伝統があり現在のところ最も重要とされているのは、義務教育の最終学年(11年生、16歳)で受験することが多いGCSEGeneral Certificate of Secondary Education)という試験と、それに続く、12年生、13年生(中等教育の最終学年)で受験するGCE (General Certificate of Education, Advanced Level) 試験があります。これらは、大学進学に影響しますから、日本で言えば、センター試験を3年続けて受験するようなものでしょうか。日本語も試験科目のひとつで、毎年少しずつですが受験者も増えています。

Asset試験についての教員研修の写真
Asset試験についての教員研修

 また、最近、イングランドでは、生涯学習の概念に基づく、年齢制限のない外国語の資格(試験)システムも推進されています。これは、ヨーロッパとも共通性のあるスタンダード (Languages Ladder) に基づいたAssetという試験で、このシステムを導入する学校も増えています。こちらも、日本語の試験が中級レベルまであります。

 そのほか、世界中で受験することができるInternational Baccalaureate (IB) という試験も英国で作られており、英国内外で、この日本語の試験の受験者数も増えています。

 試験によっては、毎年、受験者の成績が学校別に発表されます。これは、先生や学校の評価にもつながるため、学校側も真剣にならざるを得ないわけです。

 ところが、これら試験に準じた日本語の教科書や参考書はありません。そのため日本語教師は、海外で出版された教材と、試験の出題基準を照らし合わせながら授業を組み立てたり、いろいろな教材から自分のコースに適したものを集めて編集したりしなければならないのです。

 このような理由もあって、英国の先生方からは、試験に適したコースデザインや、教材作成についての相談、あるいは素材そのものへの要望が、よく聞かれます。国際交流基金ロンドン日本文化センター(以下、JFL)が管理しているWebサイトでも、こうした試験に関する問い合わせや意見交換が頻繁に行われています。

力Chikaraワークショップの写真
Chikaraワークショップ

 そこで、JFLでは、日本語の試験に関連した教材の開発や教員研修を企画、実施しています。例えば、JFLが開発したGCSEレベルの教材「力Chikaraリソース」は2008年春に完成し、無料ダウンロードサイトを通じて教材を提供すると同時にCD-ROMも作りました。また、この教材を使った教員研修「力Chikaraワークショップ」も毎回盛況です。教師会や試験作成機関と協力して試験対策の研修も実施しています。2009年に入ってからも、GCSEGCEAsset、IB各試験の試験対策研修を行いましたが、参加希望者が多すぎて複数回実施することにした研修もあります。

 当然、日本語アドバイザーとしては、これらの試験の文法項目や語彙、漢字などをレベル毎にしっかり把握しておく必要があります。研修や教材作成だけでなく、市販の教材に関するアドバイスや、他の外国語と合同の会議への参加など、いろいろな業務が試験に関係しているからです。このため、着任早々、内容を一通り覚えるまで苦労しました。

 しかも、試験のシステムや内容はどんどん変わっていきます。改訂されるものもありますし、新しい資格や試験の実施も検討されているという話も聞きました。こんなに試験を作ってどうするのだろうと思うときもありますが、競争の激しい国際化社会を生き延びるには、技能や知識の証明である資格が必要なのかもしれません。これからも試験とにらめっこする日々が続きそうです。

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
  及び業務内容
国際交流基金ロンドン日本文化センターは1997年に日本語センターを開設。その業務は、当地の教育情報の収集と支援事業の企画・実施である。
  • 教材開発と提供:初等教育用には「Ready Steady NihonGo!」、中等教育用にはリソース群「力CHIKARA」を開発、公開している。
  • 初中等各校における日本語導入促進を目的とした出張授業、教師のための研修会や日本語コース、教育情報を提供するコースなどを実施している。
  • このほか、スピーチコンテストの実施、英国日本語教育学会との共催事業、ウェブサイトを通しての情報提供などを行っている。
ロ.派遣先機関名称
The Japan Foundation London
ハ.所在地 Russell Square House, 10-12 Russell Square,London WC1B 5EH,UK
ニ.国際交流基金派遣者数 日本語教育専門家:1名
ホ.日本語教育専門家派遣開始年 1997年

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