国際交流基金ロンドン日本文化センター
根津誠

BrexitEU離脱問題)をめぐって議論が沸騰している英国ですが、実は中・高校での日本語教育においても大きな出来事がありました。資格試験「Aレベル」における日本語科目の廃止決定がいったん発表され、翌年には廃止を見直して試験を継続することになったのです。このレポートではAレベル継続と、同じく中等教育で行われる日本語スピーチコンテストを取り上げ、日本語教育アドバイザーとしての専門家の仕事を紹介します。

多様な外国語を学習する機会の提供

中・高校での日本語教育といっても実感がわかないかもしれません。ちょっと日本の教育状況と比べると実はすごいことがわかります。日本の中・高校で英語以外の外国語というと、一部の学校が仏、独、中、韓国語などを開講していて、大学入試センター試験でも選択できますが、教える学校、入試に採用する大学とも多くありません。英国では、1990年代から種々の外国語教育施策が行われた結果、EU圏内言語を筆頭に多様な外国語が中・高校の選択科目として広く教えられています。日本語は160校以上の中・高校で計6,000人近い生徒が学んでいて、ヨーロッパ諸国の中でも中・高校の割合と生徒数が多いことが特徴です。

資格試験重視の教育と科目廃止の危機

このうち、おおむね10年生、11年生はGCSE(General Certificate of Secondary Education)と呼ばれる試験に向けて8~10科目を選択し、受験します。また大学に行く12年生、13年生の生徒はAレベル(General Certificate of Education Advanced Level)と呼ばれる試験で3~5科目に絞って受験し、これに向けて学習します。2009年度レポートにあるように、この資格試験の結果は大人になってもついて回るため、先生は生徒が資格試験でできるだけ良い成績を取れるよう、個々の指導に心を砕いています。ところが、試験開発実施機関は日本語やポーランド語、ウルドゥー語を含むいくつかの外国語のAレベルの問題作成を2017年から行わないと、2015年4月に発表したのです。生徒や学校が外国語を選択するときは上の段階まで継続して学習できることが理由になるため、Aレベルでの日本語科目廃止は、GCSE受験者の減少や、学校での開講取りやめにつながります。

これを回避するべく、多くの人たちが活動しました。現場の先生が立ち上げたインターネット署名では、国内外から3600を超える署名が集まりました。また、校長先生が政治家に手紙を書いたり、学校を挙げて日本語科目継続を訴えるところもあり、日英の報道でも取り上げられました。さまざまな働きかけの結果、2016年4月に教育省と試験開発実施機関が、相次いで日本語を含む外国語のAレベル継続を発表しました。とはいえ、この間に開講しないと決めた学校もありました。今後は学校への働きかけと、試験のより良い形での改訂、それに伴う教育方法の変化が課題です。世界の日本語教育の現場を飛び回る派遣専門家としては、ここが正念場です。

日本語カップで表彰を受けるPost-GCSE部門出場者の画像
日本語カップで表彰を受けるPost-GCSE部門出場者

中・高校の先生が支えるスピーチコンテスト

中・高校といえば、毎年行われるスピーチコンテスト「Nihongo Cup」を忘れてはいけません。同じく、日本で英語以外の外国語による弁論大会を行うことを想像してみてください。6月に行われた今年の本選には、全国の20校から応募した147人のうち予選を勝ち抜いた18名が、レベル別の3部門に分かれて、100名を超える聴衆の前で自分の考えを披露しました。実行委員会のメンバーは現場の先生で、教え子を応援する傍ら、献身的にイベントを進めます。専門家も委員会に交じって審査基準の改訂などの準備や当日の審査に関わりました。ここでの課題の一つは、学校での日本語教育の振興と、多様化する生徒への対応です。上に述べた試験重視のカリキュラムで、忙しい合間を縫ってスピーチを準備するには、コンテストへの準備が学校の日本語学習と重なる必要があります。また、学年と日本語力が比例して、その学年に合った表現を使うことが想定されます。一方で、今時は先生以外に日本語や日本情報に触れる機会も増え、試験やカリキュラムの学習項目に縛られない生徒が増えてきています。これらは他の国、教育段階でも起きていることで、結局は英国の先生方が相談しながら、現場に見合った形にしていくしかありません。専門家としては議論に参加して「日本語力より内容の配点を思い切って上げては?」などと他の視点から提案をすることで、先生方の意思決定を手伝うようにしています。

上下の教育段階をつなぐ中等教育

2015年に小学校で日本語を学んでいる生徒数は、2012年の2.5倍になり、順調に伸びています。また、大学では専攻に関わらず全学生が選択できる講座や、社会人向け夜間講座で、日本語学習者数が増えています。小学校の受け皿となり、大学や社会人向け講座に未来の学習者を送り出す中・高校は、学習の継続、そして英国の日本語教育の発展のために重要な位置を占めます。ここしばらくは、資格試験改訂に対応した動きなど、中・高校のサポートに力を入れながら、大学や初等教育との連携に力を入れていきたいと思います。

派遣先機関の情報
派遣先機関名称
The Japan Foundation, London
派遣先機関の位置付け
及び業務内容
ロンドン日本文化センターは1997年に日本語センターを開設。その業務は、JF日本語講座、当地の教育情報の収集と支援事業の企画・実施である。
  • 教材開発と提供:初等教育用には「Japanese Scheme of Work」「Ready Steady NihonGo!」、中等教育用にはリソース群「力CHIKARA」を開発、公開している。
  • 初中等各校における日本語導入促進を目的とした出張授業、教師研修会や日本語コース、教育情報を提供するコースなどを実施している。
  • このほか、スピーチコンテストの実施、英国日本語教育学会との共催事業、ウェブサイトを通しての情報提供などを行っている。
所在地 Lion Court, 25 Procter Street, Holborn, London WC1V 6NY, UK
国際交流基金からの派遣者数 上級専門家:1名 日本語指導助手:1名
国際交流基金からの派遣開始年 1997年

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