世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) 日本語ブラッシュアップのための教師研修

オーストラリア
首都特別地域教育省
村上律子

美しい都市キャンベラの日本語学習

カンガルーを横目で見ながら青空の下で日本語の勉強の写真
カンガルーを横目で見ながら
青空の下で日本語の勉強

オーストラリア首都特別地域(Australian Capital Territory)はACTと呼ばれ、首都キャンベラを中心とした人口約30万人の小さな地域である。ここは連邦国家の行政の中枢として人工的に造られた美しい都市だが、車で30分も行けば羊や牛が放牧されたのどかな草原が広がり、カンガルーやコアラなどの野生動物が生息する自然保護区もある。

オーストラリアの初中等教育では外国語はLOTELanguages Other Than English)と呼ばれ、ACTLOTEの中で最も学習者が多いのは日本語である 。1992年から本格的に始まったACTLOTE政策では小学校へのLOTE導入が推進され、特にアジア言語の教育が奨励された。その結果小中学校の日本語学習者数は着実に伸びてきた。それに準じてACT政府の日本語支援も、各学校への助成金やカリキュラム開発、教師研修など多岐に渡って行われてきた。日本語アドバイザーはそれらの支援を企画・実施するLOTEグループで働いている。

日本語アドバイザーの仕事


ACTの日本語教育は日本語教師会(JLTA)のネットワークやさまざまな活動によって、自立的に研修を積み重ねる土台ができてきている。経験を積んだ日本語教師が中心となって、教室内活動のアイデアをシェアする定期的なセミナーや、ITを導入した授業のセミナーなどを開いている。こうした活動は忙しい教師たちが自分の時間をやりくりしてお互いに助け合う形で成り立っている。こういった状況の中でACTの日本語アドバイザーの仕事は、現地教師が必要としているけれども彼らだけでは実現が難しいことを供与していくのが基本である。例えば教師自身の日本語能力を向上させる研修や、教材の開発・紹介、ITを組み入れた授業の紹介、日本人リソースとしての授業への参加、大学関係者も含めたネットワークの構築などが主な仕事になる。ACTの教師研修について知ってもらうために、ここでは教師の日本語能力向上のための研修について紹介したいと思う。これらの研修は週末を利用した「イマージョンプログラム」や放課後の「会話クラス」で、いずれも大学の日本語コースで教えている日本語母語話者の先生方に協力を得ているものである。

イマージョンプログラム


イマージョンプログラムは1泊2日の間、日本語の授業を受けたり、日本語母語話者と食事を共にしたりして、日本語だけの環境に浸りましょうというワークショップである。今年は参加者13人に対して日本語母語話者12人という恵まれた日本語環境で行われた。

授業の内容は助詞の総復習、敬語の使い方などの文法から、アニメビデオを使って文化を教える授業やストーリーテリングの発表などの話す・聞く能力に焦点を当てたもの、また川柳やゆかたの着付けなどの実技的な文化の授業まで、バラエティに富んでいる。ほとんどの参加者が日本長期滞在経験者であるため、日本食に対する物珍しさはないが、すきやきやお弁当、すしなどの日本食はいつでも好評である。宿泊するのは子供たちがキャンプや野外学習に利用する教育省の施設で、カンガルーが庭を飛び回り、エミューがのんびりたたずんでいるような環境である。抜けるような青空と暖かな陽光の下で、そして満天の星空の下で行う研修は、実施する側にとっても参加する側にとっても大自然の力に癒されたさわやかな週末となったようである。

会話クラス

会話クラスは放課後に週1回集まって日本語をブラッシュアップしましょうというコースである。一日の授業を終えて疲れてクラスに来る先生がたに、毎回フレッシュな気分でわくわくと授業を受けてもらうために、各クラスを3人の講師が担当し、各人各様の授業をしている。この研修は言語能力アップに主眼を置いているが、複数の講師が担当することによって、さまざまなアクティビティも経験することになり、それをヒントに授業に活かしてもらえたらという意図もある。例えば私はサッカーのワールドカップをトピックに取り上げ、ウェッブページで開催地や参加国を説明したり、日本の試合をビデオで見たり、パワーポイントでクイズをしたりというアクティビティをしたが、翌週何人かの教師が「授業でワールドカップを取り上げた」と言ってハンドアウトを見せながら報告してくれた。研修の後で授業に応用したという声を聞くときが、アドバイザーをしていてよかったと思うときである。

メリットとデメリット

ACTの日本語教育は小さい規模であることから、ネットワークが維持しやすい。これにより教師間の連絡や、各学校のカリキュラム作成、リソースの共有、評価システムの統一化などが円滑に行われていると思われる。その反面、大規模な教材開発や学会開催などを行う活力に欠けるというデメリットもある。こじんまりしたこの地域で着実に教師研修の成果を上げ、教師のネットワークを強化して、現地化を図っていくのがこれからの課題である。

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
  及び業務内容
 首都特別地域教育省は、首都特別地域の公立・私立の初等中等教育に関わり、教育政策の立案、カリキュラム作成、生徒や学校の評価、教師人事、教師研修、職業経験や訓練、ITサポート、児童や青少年の育成などを行う行政機関である。国際交流基金からの専門家は1998年から現在まで継続して派遣されている。アドバイザーは、教師養成、日本語教師のネットワーキング、個々の教師へのコンサルティング、教材作成、国際交流基金主催の各種プログラムの実施や補助(日本語能力試験・日本語弁論大会・教師研修プログラムの人選)等を行っている。
ロ.派遣先機関名称 オーストラリア・首都特別地域教育省
ACT Department of Education and Community Services
ハ.所在地 186 Reed St Tuggeranong ACT 2901 Australia
ニ.国際交流基金派遣者数 専門家:1名

ページトップへ戻る