世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) 楽しく!

オーストラリア
ニュー・サウス・ウエールズ州教育省
矢崎 満夫

1.基金専門家の役割は?

ひらがな、ちょっと難しいね。の写真
ひらがな、ちょっと難しいね。

4月の下旬にニュー・サウス・ウェールズ州(以下NSW州)教育省に着任したので、この2ヵ月の中で見えてきた専門家としての役割について述べてみたい。

言語教育の支援を担当する言語ユニットは、省内のカリキュラムサポート部の中に属し、日本語をはじめとした8言語のコンサルタントがおり、それぞれの言語教育の支援を担当している。日本語のコンサルタントは2名配置されており、これまでにそのうちの1名の職務を基金専門家が担ってきた。もう1名の日本語コンサルタントは、NSW州内において長年活躍してきた現地人スタッフである。

基金専門家は、基本的に約2年の周期で交代してしまうため、教育省における継続的な支援は担当しにくい。そのため、小中高校日本語教員に対する、細かいシラバスの内容や教材に関する助言等の業務は、現地人コンサルタントが行い、基金専門家は、ネイティブスピーカーとしての視点を生かした、新しい教材の作成、日本語教員研修及び生徒に対する出張授業等を中心に担当している。

2.実践例

以上挙げた基金専門家の主な役割の中で、この2ヵ月の間に私が行った具体的な実践は次の3つである。

(1) バリナ地区の11,12年生対象特別セッション「であい」
(2) 5~10年生対象日本語教員セミナー「ワールドカップ!」
(3) ニューキャッスル地区スチューデント・キャンプにおける、41名の8,9年生対象特別セッション「日本旅行・・ワールドカップの町をたずねて」

 この中で、一番最近行った(3)を例にとり、以下述べていくことにする。

 1グループ13~14人の8,9年生生徒を対象に、同じ内容の特別セッションを3回行った。その頃、日本はちょうどワールドカップで盛り上がっていたところだったので、トピックにはワールドカップを使うことにした。セッションの流れは次のとおりである。

(a) 「シンプソンズファミリー」の登場人物の絵を利用した、人の数え方「ひとり、ふたり・・・」の紹介
(b) 歌「10人の友だち」
(c) 「数集まりゲーム」・・・歌を歌った後、例えば「さんにん!」とコールしたら、3人グループをつくるというゲーム。できたグループの中で、自己紹介をする。ここまでは、後の活動のためのグループを作るとともに、全体の緊張を和らげる意味も含んだアクティビティである。
(d) 「日本旅行・・ワールドカップの町をたずねて」・・・10の開催地(札幌、宮城、新潟、茨城、埼玉、横浜、静岡、大阪、神戸、大分)を回りながら、各地の名物(ラーメン、笹かまぼこ、お米、納豆、せんべい、シューマイ、お茶、たこ焼き、牛肉、刺身)について知り、それぞれ「食べたり飲んだりしたことがあるか」「好きか」「食べたい・飲みたいか」のアンケートに答えていくというアクティビティ。
 それぞれの開催地の名前(ひらがな)、場所を示した地図、名物の名前(ひらがな)と写真及び英語の説明、次に行く場所の名前(ひらがな)を1つにつなげたディスプレイを作り、授業会場の壁に、10の場所に分けて貼っておく。生徒たちは、最初の行き場所だけを知らされ、(各グループでスタートは異なる)あとはグループで協力し合いながら、順番に次の場所に進んでいく。
 なお、笹かまぼこ、納豆、せんべい、お茶、たこ焼きの5品は、シドニーの日本食料品店で購入し、実物も陳列した。 アンケートシートには、行った場所の名前や、そこで見た名物の名前を正しくひらがなで書いていかなければならない。文法事項は行き場所を示す「~にいきます」と、アンケートの中の「すきです」の2つを取り入れた。
(e) すべてのグループが回り終わったら、アンケートの集計をとり、後で「一番好きが多かったものは何か」「一番食べたい・飲みたいが多かったのは何か」というクイズをグループ対抗戦で行う。集計はアシスタントの人が行い、その間生徒たちは、私が作った特製「サッカーすごろく」をする。
(f)  最後に集計の結果を発表し、チームごとの得点を発表。優勝チームには、賞品(この時は日本のペロペロキャンディーを用意)を渡した。
 実際にやってみると、グループで広い会場の中を動き回る活動だったので、生徒たちは楽しそうに取り組んでくれていたが、アンケートの集計に非常に時間がかかるという問題点があった。時間の都合で、クイズまで至らなかった回もあったのは残念だった。ちなみに集計結果であるが、「好き」の一番は「ごはん」、「食べたい・飲みたい」の一番は「ラーメン」だった。

3.そしてこれから

私のNSW州における日本語コンサルタント業務は、本当に始まったばかりである。まだ現地のニーズをつかみきれておらず、勉強していかなければならないことも多い。日本語教員セミナーや生徒対象の特別セッション等についても、現地の日本語コンサルタントとともにアイデアを交換しながら、よりニーズに合った活動を創造していきたいと思う。

何はともあれ、キーワードは、「楽しく!」である。自分にとっても、こちらの人にとっても。

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
  及び業務内容
 ニューサウスウエールズ州教育省は、州内の初等・中等教育を管轄する州政府省庁である。言語教育の支援を担当する言語ユニットは、省内のカリキュラムサポート部の中に属し、政策的な助言の提供やカリキュラム支援教材の開発、語学教師に対する研修の実施等を行っている。なお、州の高校修了試験および小中高校のシラバスやカリキュラムの作成は、Board of Studies という、別の組織が担当している。国際交流基金からの専門家は1991年から継続して派遣されおり、アドバイザー業務は、教員研修会開催、ニューズレターの作成、教材開発、翻訳、日本語教育コンサルティング等を行っている。
ロ.派遣先機関名称 オーストラリア・ニューサウスウエールズ州教育省
New South Wales Department of Education and Training
ハ.所在地 3A Smalls Rd.Ryde NSW 2112 Australia
ニ.国際交流基金派遣者数 専門家:1名

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