世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) 西オーストラリア州の日本語教育(2002)

オーストラリア
西オーストラリア州教育省
西浦久子

日本語教育概観

 西オーストラリア州はオーストラリアの約3分の1を占め、日本の7倍という大きな州で人口は約130万人です。日本語学習は初等・中等・高等教育機関で行われています。5大学には日本語コース、外国語教員養成課程があります。

1994~2001年 公立学校における幼稚園から12年生の言語別
学習者数の変遷

1994~2001年 公立学校における幼稚園から12年生の言語別学習者数の変遷のグラフ
(2001年 西オーストラリア州教育省統計)

 初等・中等教育では日本語を含むLOTE(Languages Other Than English)は西オーストラリア州における8つの必修科目の一つになっています。上のグラフが示しているように日本語はLOTE12言語の一つでイタリア語、インドネシア語に次ぎ3番目に学習者が多いです。上のグラフは公立学校のみの学習者数を示しています。2001年の調査結果では公私立学校を合わせると日本語の学習者は約3万6000人、学校数は240校でした。

 西オーストラリア州では11、12年生用高校終了時の試験のためのシラバスはありますが3-10年生のシラバスはありません。参考資料としてNational Curriculum Guidelines for Teachers「よろしくシリーズ」という教科書と指導書があります。教師はカリキュラム・フレームワークに示された目標が達成できるよう指導計画を立てます。日本語による基本的なコミュニケーションの習得と日本文化の理解を目標に、生徒の興味を考慮しながらトピックを選び、アクテイビテイ中心の学習が行われています。

 LOTE教師のいない地方の生徒のためにTelematicsと呼ばれる衛星回線を使用した教育が行われています。2002年は小学生410人、高校生35人がこのプログラムを利用しています。各言語の教師が学習番組を作り衛星放送や電話、コンピューターを使って教えています。

派遣専門家(日本語教育アドバイザー)の役割


 アドバイザーは教育省で唯一の日本語教育担当スタッフで日本語関係のすべての仕事に関わるため仕事は多岐にわたっています。主に次のような仕事しています。現在は二代目のアドバイザーで、その存在や役割も定着してきました。

1.日本語教師サポート

日本文化に親しむ現地の人たちの写真

  • アクテイビテイや指導法、教材などについてのアドバイスや情報提供
    電話、ファックス、メール等で寄せられる問い合わせや質問に応じます。
  • 日本語教育セミナー、ワークショップの企画運営や講師
    教師のための研修会を企画運営します。自分で行ったり、日本語教師会と共催したり、兵庫文化交流センターや私立学校で講師を務めたりもします。2001年から2002年はコンピューター、イマーション、日本文化・若者文化、ビデオテープ、文字指導、「であいキット」等についての研修会を行いました。ネットワーク作りにも大切な役割を果たしています。各地でネットワークができ、その成果を研修会で発表する等新しい動きも出てきています。
  • ニュースレター発行、送付
    各学期の初め(年4回)に「こんにちは」というニュースレターを日本語教育を行うすべての学校に送付しています。内容は日本語教育に関する情報、セミナー・ワークショップの案内や報告、教師の実践報告やアイデア、教材紹介やその使い方、イベント、会話クラスの案内等です。広い西オーストラリアのすべての学校を訪問することは不可能ですがニュースレターは届けることができます。楽しみに待ってくださる先生達がいるのはとてもうれしいことです。
  • 教師のための会話クラス
    生徒のみならず教師も教室以外日本語を使う機会が少ないので放課後週一回リソースセンターで行っています。会話だけでなくネットワーク作り、教材研究にも役立っています。リラックスして会話を楽しみます。
  • 学校訪問
    教師からの要請で学校を訪問します。訪問校の教師といっしょにティームティーチングをしたり、日本文化を楽しむアクテイビテイをしたりします。高校ではTEE(大学入学レベル試験)の口頭試験の模擬試験としての要請に応えることも多いです。教師のニーズやオーストラリアの教育を知る大変よい機会でもあります。

2.日本語・LOTE教育促進のイベント企画運営

  • 日本語・LOTE教育促進のイベント企画運営

    ひらがな・かたかなコンテスト
    2000年からボランティアの教師と委員会を作り、行っています。生徒達にひらがな・かたかな学習に興味を持ってもらい、意味のある学習となることを目標としています。今年、小学校の部は3部門(しりとりの本、ひらがなカード、ゲーム)。高校の部も3部門(しりとりの本、かるた、ゲーム)です。年々応募数が増えているので今年も楽しみです。

    昨年、地方の教師からは「他の学校と離れていること、州都から遠いことは障害になることが多いが、コンテストでは州内全部の生徒が同じ土俵で勝負できる」とコメントが寄せられました。また、遠隔地教育を行っている教師からはテレビ、ファックス、郵便などで各地に散らばる生徒にコンテストについて知らせ、応募プロセス、結果のフィードバック等と共に入賞の喜びの声が届きました。

  • 外国語映画祭
    8月のNational Languages Week に合わせて10~12年生を対象に行っています。フランス語、イタリア語、ドイツ語、日本語の他に今年はインドネシア語と中国語の映画も上映する予定です。
  • 外国語絵本・本コンテスト
    外国語として英語を勉強している生徒、LOTEを勉強している生徒を対象とした絵本・本のコンテストで毎年多数の応募があります。

3.教育省以外の関係団体との協力

  • 日本語教師会
    共に研修会を企画運営し、講師も務めます。小委員会のメンバーとして行事やニュースレター、パンフレット作成などに関わっています。
  • 兵庫文化交流センター
    毎年4月に行われる日本語教育セミナーの講師を務めます。
  • 在パース総領事館
    弁論大会やJETプログラムの審査委員を務めます。
  • 基金シドニー日本語・文化センターや他州のアドバイザー
    報告、情報交換を行いよりよい仕事ができるよう努めています。

4.その他

  • リソースセンターの教材購入や整備、日本語教材キット作成
    教師からの要望を聞き、教材を選定し購入する。日本語教材キットに入れるものを選定し購入、収集します。またワークショップで教材の使い方を紹介します。
  • データベース整備
    日本語教育を行っているすべての学校のデータベースを更新し教師へ情報を提供できるようにしています。

問題点と今後の課題

 州共通のシラバスがないため新任教師や経験の浅い教師には指導計画を立てることが大変難しく、シラバスかガイドラインが必要だと思われます。全言語共通の教師研修は教育省や私立学校で行っていますが、言語別のものは少ないです。しかし今年は教育省でも文字の教え方など日本語特有の研修なども必要であることが認識されるようになりいくつかの研修会を行うことができました。今後も教師のニーズに合った研修会を企画運営していく予定です。

 LOTEの必修化(3-10年生)に伴い日本語学習者も増加すると思われますが、興味のない言語を学習しなければならない生徒、レベルの違う生徒をいかに指導するか問題になっています。ヨーロッパ言語やインドネシア語に比べ文字の習得に大変時間と労力がかかることも多くの教師から指摘されています。教師の日本語能力向上のための研修を希望する声も多く聞かれます。

 基金の研修会に参加できるのは限られた人数で、地方の教師も参加できるように研修会を週末や休み中に行う等考慮していますが、教師会やアドバイザーが行う研修会は州都の近くで行われることが多く、地方にいる教師は参加することが大変難しいです。地方で研修会を行うにしても特に州北部では遠距離のため教師が集まることすら難しい状態です。参加するための旅費や代替教師を雇うとか研修の講師を遠隔地へ派遣する支援体制がまだできていないので関係者に働きかけていきたいと考えています。

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
  及び業務内容
専門家の所属課であるカリキュラム指導課は、州内公立初等・中等教育機関のカリキュラムにかかわる政策を実施する部署である。カリキュラム指導課は8つの必修科目のシニアカリキュラムオフィサーと計算、 読み書き、LOTEのプロジェクトオフィサー等からなる。国際交流基金から専門家は1998年から現在まで継続して派遣されている。アドバイザーの業務は主に日本語教師のサポート、研修会の実施、ニュースレターの発行、教師のための会話クラス、学校訪問、LOTE教育促進のためのイベント等を行っている。
ロ.派遣先機関名称 オーストラリア・西オーストラリア州教育省
Department of Education of Western Australia
ハ.所在地 151 Royal Street East Perth Wa 6004 Australia
ニ.国際交流基金派遣者数 専門家:1名

ページトップへ戻る