世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) オーストラリアビクトリア州教育訓練省 日本語アドバイザーの仕事

オーストラリア
ビクトリア州教育省
宇田川洋子

 オーストラリアのビクトリア州では、子供は5歳の誕生日から学校に行き始めることができますが、その段階をPrepと呼び、約二年間です。そのあと義務教育が1年から6年まで、それから中等教育は、7年から12年生までの5年間一貫性で、義務教育は10年までです。Prepと1~6年をあわせてPrimary、中等教育をSecondaryと言います。

講義風景の写真
講義風景

 オーストラリアは近年、学校教育段階での外国語教育が盛んなことで注目を集めています。中でもビクトリア州は、すべての公立学校で1年生から9年生の生徒全員が外国語を一つ学習するということが政府から奨励されており、実際にほとんどの学校で目標が達成されています。この影響で、カソリック系など私立の学校でも外国語教育を行う学校が増えています。

 2000年度の数字ですが、私立も含めPrimaryでは、73,000人以上、Secondaryでは42,000人以上、つまりビクトリア州全体の学校で115,000を超える生徒が日本語を勉強しています。

 当然、これだけの数の生徒に日本語を教える先生が必要です。現在、公立私立をあわせて、700から750人の先生が日本語を教えています。この数にはアシスタントは含まれていません。

 私の所属する教育省Languages Strategy セクションの主な仕事は、このような、外国語を教える現役の先生たちのサポートです。ここには、ギリシャ語、イタリア語、ドイツ語、フランス語、インドネシア語、中国語、韓国語、日本語の担当者がいます。業務内容はいろいろあるのですが、中でも教師研修や教材作製が重要な仕事です。

 以前はそれぞれの言語の担当者が独自に計画を立て、日本語なら日本語の先生だけを対象に教師研修などを行っていたのですが、最近はいくつかの言語の担当者が共同で関わり、教育省関係の他の組織と提携した教材作成プロジェクトが増えています。

 たとえば、最近新しい建物が完成したメルボルン博物館や美術館のためのアクティビティ集作りなどです。各言語の担当者がそれぞれのアイデアを出し合えば、一つのチームで考えているよりバラエティーに富んだ教材ものができるだけでなく、それぞれの言語の特徴をお互いに知ることができます。

 このようなプロジェクトの場合、各担当者の共通言語は英語しかありません。でも、この職場には海外から派遣されている、英語が母語ではない私のような者も多く、時にはとんちんかんな質問や発言をしてしまうこともあります。でも、作業の過程も国際交流の最前線という感じで貴重な体験です。

 さて、教材作りと並んで重要な仕事は教師研修です。ビクトリア州の場合、省の方針で、言語能力や教えている学年で参加者を限定することはあまりありません。そこで、ニーズの異なる参加者全員にある程度満足してもらえるような内容を考えます。幸いオーストラリアの先生方は、ゲームをやれば生徒以上のエキサイトぶりを見せ、わからないことはどんどん質問し、いつも積極的です。

 研修は日本語だけでなく、科学や歴史などいろいろな分野を取り入れたものにするように心がけています。たとえば最近では、2年前にオープンした水族館や、メルボルンから2時間ほどの海の近くにあるマリンセンターと提携した研修をしました。まず、それぞれの施設で見学ツアーを楽しみます。教育省関係の職員が教育的視点などを含めて説明しながら案内してくれます。それから教室のような会場に移って、関連の日本語の語彙や文法関係のアクティビティをします。いくつか用意しますが、それぞれの先生が自分のクラスで使えるかどうか考え、どうすれば使えるか、そのほかにどんなものが必要か、などを話し合うことも大切です。また、海に関した日本語教育なら、昔話、歌などいろいろ盛りだくさんにすることができます。もちろん食事も、できるだけ日本の海と結びついたものを提供できるように手配します。

 実をいうと、今、せっかく盛んだった外国語教育の立場がちょっと揺らいでいます。連邦政府のアジア関係の教育への特別援助のカットが発表される一方、州政府でも英語や算数など基礎学力の向上を優先すべきではないかという声が聞かれるからです。日本語の先生たちも、日本語教育を続けられるのだろうかという不安を持っている人が少なくありません。2003年もこの州の子供たちみんなが外国語を勉強しつづけることを願い、私たちに何ができるのかを真剣に考えさせられる今日この頃です。

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
  及び業務内容
ビクトリア州教育訓練省は、ビクトリア州の公立学校(初等・中等)における教育に関する州法、教育財政、カリキュラム作成、州共通高校修了試験(大学入試の役割もある)、教員採用・教育・資格検定・再教育などについて計画実施する機関である。国際交流基金からの専門家は1995年から現在まで継続して派遣されている。アドバイザーは、教師研修、教材作成、カリキュラム関連教材および資料作成、提供、ビクトリア州政府が行うLOTE教育関係の各プロジェクトの実施、公立関係各機関との協力活動等を行っている。
ロ.派遣先機関名称 オーストラリア・ビクトリア州教育訓練省
Department of Education and Training
ハ.所在地 Floor 3, Transport House, 581Collins Street, Melbourne 3001
ニ.国際交流基金派遣者数 専門家:1名

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