世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) ACT日本語教育の現地化に向けて

オーストラリア首都特別地域教育省
村上 律子

オーストラリア首都特別地域(Australian Capital Territory: ACT)ってどんなところ?

ACTはオーストラリアの首都に制定されてから都市計画が行われ、大自然そのままの土地の中に、整然とした美しい町並みが開けています。人口30万人の小さな都市ですが、ここには国会議事堂を始めとした連邦政府の中枢機関や各国大使館があり、また自治体としてACT政府の各省もあります。国際交流基金から派遣された日本語教育専門家は、日本語アドバイザーとしてACT政府の教育省に所属しています。

ACTの日本語教育事情

ACTは1992年にLOTE計画(LOTE Action Plan)を打ち出してから、9つの言語(日本語、フランス語、インドネシア語、ドイツ語、スペイン語、イタリア語、中国語、ギリシャ語、韓国語)の小中高での教育を推進してきました。その中でもアジアの4言語は、言語と文化の両面を通してアジアに対する認識を深めるという連邦政府の政策により、優遇的にその教育が推奨されてきました。その結果、2002年のLOTE調査によると、日本語は全体の学習者の34%を占め、もっとも人気のある言語となっています。ただこのアジア言語と文化を推奨する政策は昨年をもって打ち切られたため、今後日本語に対する学校や教師、生徒の取り組みがどう変化するかは予測できない状況と言えるでしょう。

日本語アドバイザーの業務

ACTの日本語アドバイザーの主要な業務は次のようになります。

1. 教師の言語能力を高めたり、教材や教え方を紹介したりするために、教師研修を企画実施します。
2. 現地の日本語教師会と協力してネットワークの活性化を図ります。具体的にはニュースレターやメーリングリスト、各種ミーティングを利用します。
3. 日本大使館や国際交流基金と連携を取って、学校訪問やイベントを通して日本文化の紹介に努めます。
4. 日本語の授業に必要な教材を開発したり、良い教材を紹介したりします。
5. 日本語能力検定試験やスピーチコンテストの実施をお手伝いします。

この他、日本の学校と文通をしたいとか、日本の姉妹校と連絡を取ってほしいとか、英語の文書を翻訳してほしいとか、コンピュータの日本語環境を整えたいとか、いろいろな希望が日本語教師から寄せられます。このように日本語に関する包括的な業務を通して、日本語アドバイザーは現地の日本語教師のニーズに応えています。

現地日本語教師のニーズ

高校のラボで行われたIT研修の写真
高校のラボで行われたIT研修

ACTの小中高で日本語を教えている教師の数は、2003年現在で公立校に約50名、私立校に約30名です。彼らの日本語運用能力や日本語教授経験はさまざまであり、教える対象となる生徒の学齢や日本語のレベルもさまざまです。またACTにはモデルカリキュラムはありますが統一カリキュラムはなく、実際のカリキュラムは学校単位で教師がデザインしています。そのため教える内容や教え方は学校によって違うのが現状です。このように多様な現場における教師のニーズは、おのずから多様なものになってきます。現地の日本語教師が必要としていることを、効果的にそしてタイムリーに供給するのが、日本語アドバイザーの仕事だと思っています。研修の実施後に行ったアンケートによると、ACTの日本語教師が直面している問題は次のような事柄です。

1. 授業に使える教材の入手
2. ITの日本語クラスへの導入
3. 文法項目の復習
4. 日本語運用能力の向上
5. マルチレベルクラスの対策
6. アクティビティのアイデアや教材の教師同士の共有

上記1から4については今までに研修で取り上げ、「IT研修」「会話コース」「イマージョンワークショップ」「LIFTプログラム」などで講習を実践してきました。6のアイデアや教材の共有については小中高それぞれのネットワークが自発的に行うようになってきました。

ACTの日本語教育の現地化

国際交流基金が海外に専門家を派遣する目的の一つは、現地の日本語教育を支援していく中で、現地教師が自ら研修を企画実施したり、教材開発したりできるような環境を整えることにあります。これには日本語教師会や教育省の指名したネットワークリーダー(各言語3人ずつ指名される)の自発的な活動や、教師間のネットワークが重要な鍵になると思います。幸いACTは日本語教師会の活動も活発ですし、小中高それぞれのグループがネットワークを構築して、研修の企画実施やカリキュラム作成などを自発的に行ってきており、現地化の土壌は整いつつあると言えるでしょう。ACTへの日本語教育専門家の派遣は2003年7月を以って、残念ながら打ち切りになりますが、今後はシドニー日本語センターが引き続き支援を行い、現地の教師による自立的な活動を応援していく中で、現地化を促進していくことになると思われます。

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
  及び業務内容
 首都特別地域教育省は、首都特別地域の公立・私立の初等中等教育に関わり、教育政策の立案、カリキュラム作成、生徒や学校の評価、教師人事、教師研修、職業経験や訓練、ITサポート、児童や青少年の育成などを行う行政機関である。国際交流基金からの専門家は1998年から2003年7月まで派遣された。日本語アドバイザーは、教師養成、日本語教師のネットワーキング、文化紹介、教材作成、国際交流基金主催の各種プログラムの実施や補助(日本語能力試験・日本語弁論大会・教師研修プログラムの人選)等を行っていた。
ロ.派遣先機関名称 オーストラリア首都特別地域教育省
ACT Department of Education, Youth and Family Services
ハ.所在地 186 Reed St Tuggeranong ACT 2901 Australia
ニ.国際交流基金派遣者数 専門家:1名

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