世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) オーストラリアNSW州教育省 日本語コンサルタントの仕事(2004)

オーストラリア
ニュー・サウス・ウエールズ州教育省
江原 有輝子

NSW州教育省の外国語部には、日本語以外に、中国語・韓国語・仏語・独語・伊語・インドネシア語・ギリシア語のコンサルタントがいます。コミュニティ言語担当者はアラビア語のネイティブスピーカーです。NSW州では多くの言語が教えられており、12年生(日本の高校3年生に相当)が受験するHSC (Higher School Certificate) という高校卒業資格試験には、全部で30の外国語があります。

オーストラリアの日本語学習者の大半は初等中等教育の生徒たちです。オーストラリアは各州の独立性が強く、外国語教育のカリキュラムも州ごとに異なっています。そこで、各州の教育省が研修会を開催し、カリキュラムを教えるための教材を作っています。こうした仕事を、日本から派遣されたコンサルタントと、オーストラリア人のコンサルタントが協力して行なっています。

コンサルタントの主な仕事は、教員研修会の開催・教材の作成・ニュースレターの発行・種々の相談などです。教育省では、しばしば新しいプロジェクトが企画され、特別に雇用された専門家がこれに従事します。日本語では、HSC準備のためのオンライン教材やVET (Vocational Education Training)という職業教育の一環として外国語学習を行うプログラムのためのオンライン教材が作成されています。日本語コンサルタントはこのプロジェクトにも情報提供・例文作成などの面で協力します。

日本語では、2003年半ばに「K-10」という新しいカリキュラムが作成されました。これは、それまで「K-6」という、幼稚園(Kindergarten)から小学校中学年(6年生)までと、「7-10」という小学校高学年から中学校まで(7年生から10年生)の二つのカリキュラムがあったものを統合し、カリキュラム間の溝をなくすために作られたものです。この新カリキュラムは2005年から現場で使用されることになっており、2004年は特にこの新カリキュラムに焦点をあてた研修会が各地で開催されています。

ALPLP研修会の写真
ALPLP研修会

一方、連邦政府つまり全国的な政策では、アジア言語に関して、「Asian Language Professional Learning Project (ALPLP)」という新しいプロジェクトが始まりました。このプロジェクトの主な概念は、「Intercultural Language Learning」で、外国語教育がしばしば掲げる「ネイティブスピーカーのようになる」という目標を見直します。外国語学習者は、自分の学ぶ言語を話す人々と同じ人間になることを目指す必要はなく、「自分の母語と自分の所属する文化」と「自分の学ぶ外国語とその言語を話す人々の文化」のどちらでもない、自分のアイデンティティを保つことのできる新しい「第3の場所」を見つけることを奨励されます。このプロジェクトのための研修会が全国で開催され、それに参加した教師は、この概念を自分の学校での教育活動に導入する方法を研究し、発表しました。3学期にもまた研修会が開催されます。

NSW教育省の日本語教育で特筆すべきことは、「日本語探検センター」の存在です。1999年に、日本企業の寄付によって、高校の敷地の一角に日本家屋を模した建物が建てられ、そこで州内の小学校から高校までの生徒が一日、日本語で様々な活動をします。年々人気が上昇し、2004年度は週に4日学生を受け入れていますが、もう予約がいっぱいです。一日のカリキュラムは、学習者のレベルによって異なりますが、2004年はオリンピックがテーマです。

「日本語探検センター」でのアクティビティの写真
「日本語探検センター」でのアクティビティ

学生は朝センターの玄関で靴を脱ぎ、スリッパに履き替えて名札をもらいます。部屋の入り口でスリッパを脱ぎ、畳の部屋に座布団を敷いて座り、そこでさまざまなアクティビティをします。センターにはテクノロジールームもあり、コンピュータでプレゼンテーションを作る活動や、コンピュータの文字クイズもあります。昼は、日本庭園を見ながら縁側でお昼を食べます。個人対抗の早い者勝ちのクイズ大会の後、成績が発表され、全員がグループ写真入りの修了証書をもらって、名残を惜しみながら帰って行きます。コンサルタントはこの仕事も随時手伝います。

教育省の管理下には「土曜学校」もあり、通常の学校で履修できない科目を教えています。親が日本人であったり、日本の学校に通ったことのある学生は、日本語履修の場合は、「Background speaker」のコースを履修しなければなりませんが、これは土曜学校にしかありません。授業内容は日本の国語に似ていますが、HSCを受験するために、NSW州のカリキュラムに基づいた勉強をしています。

このように、ここには手ごわいプロジェクトや様々なレベルの日本語教育があり、それらが外国語教育において持っている大きな魅力に、日々心を弾ませています。

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
  及び業務内容
ニュー・サウス・ウエールズ州教育省は、州内の初等・中等教育を管轄する州政府省庁である。外国語教育の支援を担当する言語ユニットは、省内のプロフェッショナル・サポート&カリキュラム部の中に属し、政策的な助言の提供やカリキュラム支援教材の開発、語学教師に対する研修の実施等を行っている。なお、州の高校修了試験および小中高校のシラバス等の作成は、Board of Studies という、別の組織が担当している。国際交流基金からの専門家は1991年から継続して派遣されており、アドバイザー業務としては、日本語教員研修会の開催、ニューズレターの作成、日本語教育教材の開発、学校訪問の実施等を行っている。
ロ.派遣先機関名称 オーストラリア・ニューサウスウエールズ州教育省
New South Wales Department of Education and Training
ハ.所在地 3A Smalls Rd. Ryde NSW 2112 Australia
ニ.国際交流基金派遣者数 専門家:1名

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