世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート) 言語教育が先か、異文化理解が先か。

クイーンズランド州教育芸術省クイーンズランド・ロート・センター
北井佐枝子

 「お箏を弾いてください」「書道をお願いします」「お茶点てられますか」「よさこいソーラン節はどうですか」というような学校訪問の要請があるたびに「ええい、わたしはカルチャーおばさんではない! 日本語教育専門家なのに…」とぐちりながらも笑顔で出かけていく。

 クイーンズランド州では小学6-7年生と中高8年生(クイーンズランドでは1-7年までが小学校、8-12年の中高一貫教育が普通)の3年間がLOTE(Language Other Than English)必修とされており、日本語はほかの言語を大きく引き離して履修者数が一番多い。しかし、生徒が好き好んで日本語を履修しているわけでは全くない。まず小学校ではLOTEで何語にするかは学校の方針で、生徒が選べるわけではない。中高校ではほかの言語と選択できるのが普通だが、いずれにせよ8年生は言語が必修なので生徒の動機は強くない。それが証拠に必修である7年生は州立校で約40%が日本語を履修しているのに対し、12年生はクイーンズランド州全体39,229人中日本語履修者は1,508人で4%にも満たない(2004年)のである。つまり多くの生徒は広く浅い日本語を勉強するに留まっている。

 ここ数年12年生の日本語に限らずLOTE履修者は減少傾向にあり、これは11-12年生で職業訓練のような実務的な教科が増えたためと言われているが、それとともに小学4年生から中高9年生のMiddle Yearsと呼ばれる学年での勉強離れが問題視されている。そして、それを阻止すべく長い間教科の統合が叫ばれている。日本語の授業でもトピック中心が普通だが、他教科と関連させて授業を行っている学校はそう多くない。特に内容が専門的になる中高校で教科統合を行っている学校は数えるほどしかない。

自分の作ったキャラクターにみんな大満足の写真
自分の作ったキャラクターにみんな大満足。
写真提供:Donna Ruhland教諭 (Mansfield State High School)

 そんな中でブリスベン近郊のある州立校が「マンガ・マニア」と題して英語・社会・美術・日本語で自分の好きなキャラクターを作るプロジェクトを組んだので紹介する。対象は日本語学習の動機が最も低い8年生である。まず英語の授業では英語の逸話や小説を読んで分析し、まんがと比較する。課題は自分のキャラクターの小説を書くこと。社会ではまんがの歴史をインターネット等から情報を集め、参考文献や年表を含む論文の基本的な書き方を勉強する。美術では人物等の描き方を学び、Tシャツに自分のキャラクターとかたかなのフレーズをプリントする。日本語はというと「めがおおきいです」「そらをとびます」などキャラクター紹介をする。8年生で初めて日本語を勉強する生徒もいる。宿題が多いという生徒もいるが、ほとんどの生徒が非常に肯定的な評価をしている。このような統合的教科の取り組みがより多くの生徒の日本語を継続する動機になればいい。

 学校のLOTEを何語にするかは学校方針、つまり、校長や教師や保護者が決めるのであって、彼等も日本語を選んでいるのである。親に言われて選択している生徒もいるが、自己主張がはっきりしているこの国の生徒は本当におもしろいと思わないと続けない。その最初のきっかけは町やテレビで見たポケモン、すし、じゅうどう等だったかもしれないし、その知識は広く浅いかもしれない。しかし、サブカルチャーを含む多様な日本文化に触れ、その中で興味をもったことに知識を深めたり、また、学習段階で実際に日本人と知り合ったり、中には日本を訪問したりすることが日本語学習継続につながっている。それを思うと日本文化を担う日本人や実際につきあう日本人一人一人の責任は重大だ。

コミュニティー・フェスティバルの写真
コミュニティー・フェスティバルに参加した筆者。コミュニティー・レベルでの日本文化理解は重要。(仕事ではありませんが!)

 誤解のないように申し上げるが、冒頭に書いたような文化広報的仕事は日本語アドバイザーの主な業務では全くなく、都合がつけば日本語使用を基本に対応するが、年に数えるほどもない。アドバイザーの主な業務は日本語教師研修の実施や情報の収集提供等で、普段は古い事務所の中でコンピュータを前に教材作りやメールのやりとりなど地道な(!)仕事をしている。詳しくは去年までの報告を見ていただきたい。またアドバイザーが管理しているサイトNihongo Netもあるので、ご覧いただきたい。個人的には日本語アドバイザーである前に一人の人間として当地の人とおつきあいしたいと思っている。

 クイーンズランド州のシラバスでもLOTE教育はコミュニケーションを目的としており、読み・書き・聞く・話すの四技能と社会文化理解について段階的レベルが設定されている。つまり言語も文化もバランスよく習得すべきものなのである。また、LOTEは生涯教育とも言われている。将来のオーストラリアの大人たちと将来の日本の大人たちが上手にコミュニケーションできる世界になることを願っている。

派遣先機関の情報
イ.派遣先機関の位置付け
  及び業務内容
クイーンズランド・ロート・センターは州政府教育芸術省の付属機関であり、州内の初等・中等レベル(基本的に州立校)におけるLOTELanguages Other Than English)教育の支援をする機関である。1990年に設立され、1995年に現在地に移転。LOTE教育の図書館が同建物内にある。上席LOTE教育担当官3名と日本語アドバイザーからなるチームが所属し、教師研修の実施、教材の開発、教師や関係各機関への助言等を行っている。国際交流基金からの専門家は1988年から現在まで継続して派遣されている。
ロ.派遣先機関名称
Queensland LOTE Centre, Education Queensland, Department of Education and the Arts
ハ.所在地 Corner of Montague and Ferry Roads, West End, Queensland 4101, Australia
ニ.国際交流基金派遣者数 専門家:1名

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